フィガロの結婚@バーゼル歌劇場(びわ湖公演)

まあまあ。大人しかった。宣伝文句から「今が旬」な「イキの良さ」を期待していたので、ちょっと肩透かし。オケは安定してる。音も綺麗だし、舞台とのバランスもすこぶる良し。どこも気になるところがない。ただ、熟練的な良さで、なんか、落ち着いちゃう。多少粗くてもいいから、思いっきり喜劇らしさが欲しいかも。

演出は、普通の現代演出。トンガっていたり、原作の意義をよくよく練って現代に相当するものを提示したり、舞台美術の美しさではっとさせられ通しだったり・・・はない。ファッションとか、ちゃんとセンスがあってリアルな現代なのだが、フィガロの結婚を現代演出にすると、伯爵とフィガロの身分的な格差が視覚的に無くなって、ついでに身分差自体にも説得力が無くなって、このオペラの軸になっている初夜権なるトンデモ権利にもさっぱりリアルティが無くなるので、なんとなく白けてしまう。衣装が時代ものだとそれだけで「その時代はそんなもんか」と勝手に納得しながら見れるんだけど。フィガロらしいお約束のドタバタ(伯爵とケルビーノの隠れ追い出しっことか)をあんましやってくれない。クール。演目によってはクールもいいけど、どっちかといえばドタバタ喜劇なこの演目でそれを見たいかというと。

伯爵夫人は頭ひとつ抜けた感じ。スザンヌもなかなかで、前半やや低調と思いきや、後半ぐっと良くなって、手紙の二重唱、終幕のアリア良かったな。フィガロも深々した声でうまいけど、フィガロ役にはもっと全身が弾けるようなノリの良さが欲しい私。伯爵はフィガロが深々してるだけに、交互に歌うと相対的に声質が軽く感じられて損をした部分がややあったかも。この二人のバランスって難しいなあ・・・と前回も同じタイトルを観たときに思ったっけ。どういう状態を想定して、モーツァルトはこれを当てたのだろう。ケルビーノも結構良かったけど、私はこのロールに結構思い入れがあり、また過去にいい人に当たっているので、もひとつ何か欲しい。他みんな上手いしくまとまってるけど、全体には、やっぱり大人しいという印象。

2013. 6.30 (日) びわ湖ホール
スイス・バーゼル歌劇場 モーツァルト作曲 歌劇「フィガロの結婚」全4幕(イタリア語上演・日本語字幕付)

演 出 エルマー・ゲールデン
指 揮 ジュリアーノ・ベッタ
管弦楽 バーゼルシンフォニエッタ
合 唱 バーゼル歌劇場合唱団
伯 爵      クリストファー・ボルダック      
伯爵夫人     カルメラレミージョ
フィガロ     エフゲニー・アレクシエフ
スザンナ     マヤ・ボーグ
ケルビーノ   フランツィスカ・ゴットヴァルト 
マルチェリーナ ジェラルディン・キャシディ
バルトロ    アンドリュー・マーフィー
バジリオ    カール=ハインツ・ブラント
ドン・クルツィオ ヤツェク・クロスニツキ
バルバリーナ  ローレンス・ギロ
アントニオ   マルティン・バウマイスター


フィガロの結婚何回観てるかな。はじめてライブで観たのがこのオペラで、最初はコペンハーゲンの旧劇場。現代演出だけどサッカーチームが舞台という設定になってて、オーナー兼スタープレーヤーの伯爵とその他キャラとの圧倒的な力関係も自然に見れたし説得力があって、次々と現れる瞬間々々が美しくて、人の動きが自然で、ギャグが効いていて、テンポよく展開していくので目が離せなかった。笑いながら観たのに、終わると何故か「人生の美しさ」を感じた。ホルテン演出だからな。次は新国のダンボールでこれは殆ど覚えてない。この間になんか見てるだろうと思うんだけど思い出せずで、その後で京都会館でやった関西二期会。これはキャストも演奏も良かったし、室内と外を規定した「枠」だけのシンプルな舞台で、内と外で動くキャラクターに想像力をかきたてられて、すごく良かった。シンプルな舞台装置で想像力を駆使するってのが日本の伝統芸能にも通じるスタイルで、らしくて良いと思うのだけど。次にウィーンで、これはウィーンにしては珍しいパターンで、衣装は時代もので優雅だが、舞台装置は抽象画が上がり降りする、伝統と現代の折衷式。(スザンヌに変装した)伯爵夫人が終幕の伯爵との逢瀬でガバっと足広げたりしてて、それ日本に持ってくるのは止めた方がいいよって思ったりしたけど*1、全体には無理のないもので、可も無く不可も無く。上手いけどルーティンぽくてイキの良さは無くて、こんなもんかねって感想。直近がプラハの来日公演。オーソドックスで積極的な感想が無かった。伯爵とフィガロがあんま見慣れない中欧男性だったために、その民族的特徴ばかりに気をとられてしまって、この二人が似てたことが一番印象に残ってる。ということで私のベスト1〜2は、マイナーどころばかりなのだった。こんなだから変態なんだけど。

*1:その次のシーズンで日本公演にフィガロってタイミングの年だった。結局来たのは別の演出だったのでメデタシメデタシ。