僕が立憲民主党を支持する理由

先週末に京都駅で枝野,福山コンビの演説を聞いてきた.それを聞きながら,彼らが2011年原発事故での官房長・副官房長コンビだったことを知った.もちろん,枝野さんが官房長官だったのは知っていたのだけど,福山さんが副だったことは知らず,それを聞いて2011年3月からの半年弱,福島第一原発の事故を受けて,公表された放射線の解析を有志とやっていたことを思い出した.

色々,批判もあったけど,少なくとも僕はあの時の政府の対応は評価している.一寸先がどうなるかわからない混乱の中,文科省を中心に必要と思われる情報を積極的に取りに行っていた.そのうちのどれだけが,官邸の指示で,どれだけが,文科省の有志の動きだったのか知らない.一つ言えるのは僕らが本当に大事だと考えていた一次情報,放射線のデータは隠されたりしなかったし,むしろそのデータを増やす努力もしてくれていた.そのことは今でも強く覚えているし,それこそが枝野さんを今回支持する大きな理由だ.


大まかにはこれで終わりなんだけど,後は与太話.

当時は本当に国難だったと思うし,それに僕らもどれだけ役になったのかわからないけど対抗しようとしていた.その過程で科学者の政治性,というものも意識した.情報を発信する時の取捨選択にかかるプレッシャーとそれによってごく自然に歪められる発信内容.本当にいっぱい見た.期せずして指導的な立場になった教授はほぼ間違いなく意図的に安全性を強調する言説を流布していたし,その真逆に危険性をことさら喧伝することに専念する人もいた.その中で本当に根元にいた当時の政権の中枢の人たちがどれだけしんどかったろうか,というのは思う.ネガティブなところで言えばSPEEDIの早期非公開は各方面から批判されたし(ちなみに僕は非公開賛成派),”直ちに影響はない”という言明もまた批判を集めた.でもその一方で,そんな余裕を持てなかっただけかもしれないけれども,必要な情報を隠さなかったし,能動的に取りに行っていたこと,それはもう少し高く評価して欲しいな,と思う.当時,我々がやったことは,結果論で言えば,現状や,政府から発表されていることに矛盾がないことの追確認でしかなかったけれども,それが出来ただけ良かったと思うし,まずいことが起これば僕らなりにアラートを鳴らせる体制にはなっていた.それは当時は当たり前だと思っていたけれども,ある意味,立憲民主党が掲げている草の根民主主義そのものだったのかもしれないと思うし,今後もそうした状況が変わって欲しくないと心から願う.


蛇足の蛇足
SPEEDIの早期非公開について
これはむしろ僕も(僕の理解では一緒にデータを集めていた僕の周りも)反対だった.理由はいくつかあるけど,大まかに言って,これから得られるデータの粒度が荒すぎること,生データに勝るものはないことがその理由.生データですら,データが対数グラフとして得られるので,その解釈を他の人にどのように提供するかは問題になった.その状況で,さらに初期条件にかなりの曖昧性を持った上で,(確か)せいぜい10km 四方のメッシュサイズでの予測を公開することの意義とそれによってもたらされる混乱を天秤にかけると公開する意義はない.放射性物質は確かに有害で深刻だけど,値が上がったことを確認後,速やかに逃げる,というのでも実用上十分であるのもあるし,実際,飯舘村などの避難はそういうプロセスを辿って行われた.そして大事な生データを増やす努力は色々な形で行われたし,それが隠蔽されることもなかったように思う.

最近の各地でのI-131の検出について

久しぶりの更新です。。。が、学会前できちんと色々考えている時間が無いので、誰かがかわりに調べてくれることをほのかに期待して、更新だけしておきます。(注意;下の文章で一瞬だけ臨界を起こす、という表現をたびたび使っていますが、核爆発のようなものとは切り離して考えたほうが実情に近いと思います。核反応生成物の大量生成が行われる、程度の意味の方が多分、意味合いは近いです。)


追記 2011/9/16 18:39
下記の件について、8月16日〜18日に各地で大雨が降った事実を無視しているのではないか、という指摘を受けました。確かに下記の内容の先取りになりますが、1)雨により、各地の放射線量が上がり、それとは別に2)医療由来の131-Iが発生した。という解釈も出来ると思います。その場合でも、一番大きく上がったときの直後に下水の値が増加しているのは気になるのですが…その場合、1号炉の8月16日〜18日の放射線量の急上昇は、偶然か、計器の故障、ということになります。どちらにしろ、下記の書いたことと若干矛盾しますが、医療由来である、ということが確かめられればもちろん、それが一番良いとは思います。
追記終わり


内容は表題のように、最近、各地で話題になっている下水浄化施設での131Iの検出についてです。例えば、こちらの奥州市の下水道施設では131Iが8月下旬に急上昇しています。他にもきちんと調べているわけではないのですが、全国で同じように上がった地域が多々あるようで、単純に見過ごすことはできません。話題になりだした直後に、医療用の131Iに由来するものである、というような説もありましたが、正直この説には穴も多いことも指摘しておかなくてはなりません。例えば、その根拠としてよくセシウムが上昇していないことが指摘されますが、それはセシウムヨウ素半減期の違いを無視したあまりにも乱暴な論旨です。3月11日以後、放出された放射性元素が全て3月に放出されてその後は放出されていない、とした場合、ヨウ素はざっくり言って100万分の1以下になっているはずですが、セシウムはほとんど変わりません。この状況で、3月に出た量の100分の1の量が新たに放出された、としたらどうなるでしょう?ヨウ素は現在残っている量の1万倍以上に跳ね上がりますが、セシウムの量はほとんど変わらないはずです。逆に言うと、8月下旬に原子炉からの新たな放出があったとしても、量的には3月の放出と比較すれば十分に少ないと考えられる、という主張なら多分、概ね正しいとは思いますが、問題視されるべきかどうかはまた別の話です。僕はすべきだと思いますが。


個人的にありうる可能性としては、1)原子炉内部にたまっていたものの放出、2)原子炉内部の燃料が瞬間的な臨界を起こし、生成された反応生成物の放出、の2つを疑っています。他にも可能性はあると思いますが、僕には思いついていません。1点目は要は元々、膨大な量の放射性物質が原子炉内にあったわけだから、いかに100万分の1になったとはいっても、それが出てきたら数値が上がるだろう、というものです。正直、こっちのほうが個人的にはいいと思うのですが、これはそれこそセシウムの値が上がっていない、というのが反論材料として残ります。2点目は最近新たにわずかな量だけれども臨界が起こって核反応生成物が作られた、というもの。これが起こっているとすると、原子炉の冷温停止など全く出来ていないことになり、今後の除染計画などの上でもあまり好ましくないと思います。


こうした疑いを持つ根拠として、3月の経験があります。最初、我々が放射線量の情報収集、分析を始めたとき、一番恐れていたのは、原子炉からの放出をとめられない(≒制御できない)事態になっていることでした。実際、3月の大量放出がはじまったとき、周期的な上昇が見られているにも関わらずその原因がはっきりしない(多分ベントは関係ない)など、不可解な点が多かったわけです。あの時、僕が個人的に疑っていたのは使用済み燃料プールの燃料のラックの損傷に伴う瞬間的な再臨界の発生でした。これはその後、いろいろ調べた結果、少なくとも今後継続的に起こるような事態は脱しただろう、と判断出来たこと、また専門家がきっちり動いていることを確認できた、という2点をもって本業もあるので、個人的には少なくとも解析作業からは撤退しました。


もちろん、わからないことが多いわけで結論めいたことは何も言えないのですが、原子炉が停止してからの経過日数、状況的にあの時の使用済み燃料プール(特に3号炉)と、今の原子炉が似た状況であることも頭には入れておいたほうがいいと思います。もちろん、むき出しになっているかなってないかの違いはありますが、逆に言うと、その程度の違いしかありません。原子炉内部の燃料棒格納ラックがほぼ間違いなく破壊されていることを考えると、使用済み燃料プールよりも状況は悪いかもしれません。もちろん、あの時とは違って冷却はされていることになっているのですが、炉心内部の燃料の状況なんて誰も知らないわけで、一瞬だけ臨界を起こす、みたいなことは未だに起きていても別に不思議ではない、というか否定するに足る根拠を僕は知りません。


いくつか、有志の方が前後のデータを集めているのもちらほら目にしています。前後に起こったことを検証するには、その周辺の日時でMPの値が跳ね上がった場所がどれだけあるか、全国各地(特に関東近辺)の市町村の下水処理場の汚泥の値の推移。その周辺の日時の天候(特に風向き)を確認する必要があるのですが、全国の放射能濃度一覧で確認した範囲では、8月20日前後に各地で放射線量が跳ね上がっており、1号炉の原子炉内の放射線量も20日より前に測定器の測定限界を超える範囲まで振り切れている、というのは重要かもしれません(ただし、1号炉は常に乱高下している)。このようなことがあった以上、1号炉の乱高下の理由がなんだと考えられるのか、というのは良く考える必要があると思いますし、今、どういう体制で調べているのかを東電・及び国は明らかにするべきだと思います。


ということで今回は以上です。最初に述べたように、時間が無いので、ぱっとデータを見てわかることだけつらつらと書いてみました。

福島第一原発の経過について・5

今までの記事の続きです…が,今回は放射線量そのものの解析ではなく,先日,4月1日にあった,元原子力工学研究者の方々の記者会見動画に関連しての更新です(参考*1])今までの記事,放射線量のモニタリングについては下記を参照ください.
福島第一原発の経過について・4
福島第一原発の経過について・3
福島第一原発の経過について・2
福島第一原発の経過について・1
放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) - 宇宙線実験の覚え書き

また,放射性物質が今までどの程度ばらまかれたか,このまま推移したらどのような影響が考えられるかについては,牧野先生によるまとめが非常にわかりやすいです.
福島原発の事故その3 (2011/3/29-30 書きかけ)

さてそれでは本題ですが,会見の中で,何が心配か,という点について最初の方に具体的に指摘しています.その内容としては,

  • 炉心溶融とそれに伴う,圧力容器,格納容器の損傷(0:30-1:10)
  • 水素の発生にともなう水素爆発による格納容器の損傷(1:10-1:52)

の2点について指摘しています.下記にこれらの部分を少し長くなりますが,動画より引用します.

私どもとして,一種の原子力をやってきたシニアとして一番心配していることは,炉心がもう当初からかなり融けていたということであります.それで,融けていた炉心ですから,未だに熱を出しています,相当の.それが時間と共に少しずつ圧力容器のバウンダリー(境界)を破りいくことによって更に格納容器という放射能閉じ込め機能を破ってしまうということになると,大変な大量の放射能が外に出る恐れがあると,いうことは今,大変懸念しております.それから,水素がずっと出続けております.当初はジルコニウムー水反応で大量の水素が出るんですが,それが終わったとしても放射線分解によって水素は絶えず出てきます.で,そういったものがどこかにたまると,爆発するという,もうすでに何回か水素爆発の威力をみなさん目の当たりにしているのでお分かりかと思いますけれども,大変,そういうことで,いわゆる放射能の閉じ込め機能であります格納容器等に大きな破壊がもたらされる,ということを心配して参りました.

とあります,この後は,これを解決するには出来るだけ速やかに原子炉を冷温停止する必要があること,また,使用済み燃料プールについても注意しなくてはならないという点について言及し,現在の放射能汚染レベルについてコメントしています.

炉心溶融については,各所で喧伝されていますので,なんとなくは認識している方も多いと思いますが,水素爆発について,軽く前回の記事で触れているのですが,どういうことかいまいちピンと来ない部分もあると思うので,今回の記事ではここに絞って概説します.

まず,会見では水素の発生要因として,ジルコニウムー水反応と,放射線分解の2つがある,という点を指摘しています.ジルコニウムー水反応については事故後だいぶたち,耳になじんできましたが,高温の水蒸気と,燃料棒の被覆管であるZrが接触することによって生じるもので,Zr+2H_2O \rightarrow ZrO_2 + 2H_2という反応になります.これによって反応した水素がベントによって,大部分外部に放出され,水素爆発を引き起こしましたのであろう,ということについては前回の記事で考察しました.しかしこれ以降,圧力容器,格納容器の健全性を議論するにあたって問題になるのは,むしろ次に指摘している放射線分解になります.放射線分解とは,高温の水分子に高エネルギーのγ線があたることによって水分子の水素ー酸素間結合が切断される現象を指し,それが起こることによって,最終的に水素分子と酸素分子が発生し,そのほとんどは当然,圧力容器内にたまることになります*2.これは発生量こそそこまで多くはないのでしょうが,質的にジルコニウムー水反応による水素の発生と違い,同時に酸素も発生させてしまう,という点である一定濃度以上になると自然発火を引き起こす可能性があり,非常に危険です*3

(※注;この段落に関連する資料などで行われている議論はかなり大きな安全係数がとられていることに留意して下さい.)とはいえ,もちろんそうした危険性は認識されていて,回避する方法についても議論がなされています(http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/kakunou/5/).リンク先中に資料がいくつかあるのですが,そのうちのこの(PDF)資料を参照すると,放射線分解によって発生する水素,及び酸素について,普段ならば炉心(たぶん圧力容器内)に気体廃棄物処理系が取り付けられているようですし,原子炉が無事に冷温停止すれば発生もやむという記述があります.ただし,今回の事故は資料中のBDBE(Beyond Design Base Events;設計基準外事象)に対応するのですが,資料中に,

設計基準LOCA評価の評価結果にかかわらず、a prioriに沸騰継続を仮定すると、通常運転時に発生する可燃性ガスと同等なメカニズムにより、20日程度で可燃限界に到達

という記述があることを考えると,実際の日時は色々な仮定によるので一概には言えませんが,今回はずっと沸騰状態が継続していることは間違いなく,水素の発生が止まっていない状態なので,そろそろ心配をしなくてはならないのは確かです.実際,そういう可能性があることを踏まえると,ここ数日の圧力容器,及び格納容器内の圧力変化,もしくは温度変化で全く意味不明だった3号炉の挙動(圧力容器給水口の温度が突然下がる,圧力容器内圧力計のうち一つの読みがほぼ0気圧になる,など)が,計器の故障ではなく,水素の燃焼と,それに伴う気体の断熱膨張による温度低下と圧力低下である,であるということなのかもしれません.どちらにせよ,そうした水素及び酸素の発生は未だに圧力容器内の水位が十分に上がらない要因の一つであることは間違いありません.

何はともあれ,最大の問題は,水素の燃焼はともかく,それが爆轟(格納容器が破壊される危険がある.)に至るようなレベルに達するか,という点であり,最近,報道されたこちらの記事も,その目的は水素濃度を薄めることで爆轟を防ごう,というところにあると考えて間違いないでしょう.また,初期に繰り返し行われたベントは圧力を下げること以上に,たまった水素を外に逃がす,という目的も大きかったのだと思います(結果として建屋を吹き飛ばす結果にはなってしまいましたが.).現実問題として,格納容器の内側は不活性化されていて爆轟が起きにくくなっているでしょうし,大量の水蒸気の存在下も爆轟が起きにくくなる方向に働きます.従って酸素がたっぷりあり,比較的乾燥している建屋内に水素を逃がした時とはだいぶ状況が異なりますので,そんなに簡単に起こることは無いとは思いますが,起き得る,という意識を持っておくことは重要ですし,現場の方々は遠くで見ている僕たち以上に同じような認識(だからこそ,そしてそれを今,直接携わっていないとはいえ,今まで原子力に関わってきた専門家の中の専門家の人々が情報発信を行ったのではないか)なのだと僕は思います.

次に,その爆轟が公表されているデータから,もしくはもう少し積極的に公表してなくても現場の人が見ているであろうデータからその兆候を読み取れるか,ですが,水素濃度の直接測定はおそらく出来ないでしょうから,現実問題としてかなり難しいと思います.少なくとも,僕にはすぐには有効なものは思いつきません.水素の発生,というところから単純に考えれば圧力の上昇が危険要因である,という考えも成り立つのですが,同時に水蒸気の発生も圧力を押し上げますので,そう単純には言い切れないことに注意して下さい.今,懸念されている(であろう)1号炉も圧力こそ一瞬上昇したもののその後下がりましたし,そこまでおかしな値,とも言い難いです.他の方法も幾つか考えたのですが,実際に実行してみると不確定要素(中の温度分布など)が大きく難しいです.

とはいえ,窒素を再充填して爆発の可能性を減らす,など,とりうる方策を色々検討されている,というのは報道からでも伝わってきます.少なくとも使用済み燃料プールについては(僕の前回の考察が正しければ)現在は小康状態にまで持っていくことが出来ているわけで,少しずつは終息に向かっているのではないか,と思っています.とりあえずは引き続き経過を見守りたいと思います.

*1:4月1日記者会見動画より.これを元にした記事はこちら(http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110401-OYT1T00801.htm

*2:実際の経過については,きちんとした解説を見つけたので,そちらをご参照ください(放射線の直接作用と間接作用 (09-02-02-10) - ATOMICA -).

*3:様々な条件で変わってくるので一概には言えないようですが,水素の自然発火下限濃度は5%程度,これが18%になると爆轟という強い衝撃波を伴う状態になりうるようです.

福島第一原発の経過について・4

いままでの記事の続きです.
2011-03-22 - 今日も僕は生きている
2011-03-18 - 今日も僕は生きている
2011-03-17 - 今日も僕は生きている
放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) - 宇宙線実験の覚え書き
 
今回のメイントピックは,1.14日におこったこと.2.各地の放射線量と放出核種の関係について,3.今後の展望,の3本立てです,と思ったのですが,1を書き上げたら,予想以上に冗長になったので,2は省きます.今回は,我々が作成しているグラフ以外にも各所で公開されているデータを参考にしています.また,以下の概説は有志とここ*1にまとめているデータを使用しています.
 

1.14日に起こったこと(仮説)

以下に書くのは線量データを読み取った上で僕の考えた仮説です.絶対,そうだ,というわけではありません.繰り返し書いてきましたが,14日の夜,午後9時頃を境に現象の質が変わっています.また,その後の出来事との対応から考えると,関係している可能性が高いのは,2号炉,4号炉で生じた爆発,そして火災の発生です.以下に参考資料(PDF)*2からの抜粋をすると,

東京電力は、2号機の炉心損傷評価を実施し、「5%以下」と判断。(14日22:14)
・2号機の原子炉水位が低下傾向(14 日22:50)
・2号機で爆発音。圧力抑制室の圧力が低下したことから、同室に異常が発生したおそれ。(15 日6:20 頃)
・2号機での爆発音の発生後、4号機オペレーションエリアの壁が一部破損し、サプレッションプールの圧力が低下(15 日6:20)
・4号機で火災発生。鎮火活動中。(15 日9:38)


となっています.一方,3/12-3/18の線量の変化について,元データをあたると(参考*3),3/14の午後9時に最初のバーストが発生し,次に翌日の午前8時30分ー午前9時にわたって,2回目のバーストを観測しています.ここで,これらのデータを理解する上で,風の変化を追うのが重要になります.3/14の夜から,3/15の朝にかけての風は,1回目のバーストの直前には南東から南に変わり,そしてバーストの直後に北風へと変化しています.そしてこれ以降,風向きは,2回目のバーストの直前ー直後も含めて,北北西から北東の風で安定します.ここで,左図ではモニタリングポストと,原発の位置関係を示しているのですが,この時にモニタリングしているのは正門前とのことなので,4号炉からみるとほぼ真西.2号炉から見ると,若干南西に位置する場所でモニタリングしていたことがわかります.従って風向きとあわせ,簡単な方から考察すると,2回目のバーストは,放射線量があがりはじめる8時の風向きが北東であること,その直前のモニタリングの時刻が6:00であることから,2号炉の爆発に由来すると考えて間違えないでしょう.

一方,1回目のバーストについてですが,2号炉と考えるのは上記のデータから無理があります.ここで,4号炉で9:38に爆発が起こっている,ということは,この段階で相当量の水素が4号炉建屋内にたまっていることを意味します.これ以前の爆発を振り返ると,1号炉,3号炉共に,炉内の圧力を下げるためのベントを行ったある程度あとに,水素爆発が起こっているのですが,これは容器内で水面下に燃料棒が下がることにより,高温のジルコニア皮膜と反応した水素がベントによって外部に開放され,建屋内にたまったものであると考えられます.ベントを行った時間そのものについては,報道が2転3転していて信頼出来るソースを見つけられなかったのですが,データを見る限りでは,爆発の起こった時間のだいぶ前に大きく放射線量が上昇している*4ことからもそれがわかります.同じように考えると,4号炉でもそれだけの水素がたまるにはそれなりの時間が必要であること,そして1回目のバーストの直前に南東の風が吹いたことなどから,僕は4号炉の使用済み燃料プールの燃料棒がこれくらいの時刻に露出し始め,水素を放出しながら崩壊をはじめたのではないか,と考えています.ちなみに,この放出はこの後も,断続的,周期的に続いていることが各地のデータと照らし合わせることで推察されます.

1.0.断続的に放出が続く理由注;この項目は完全に僕の想像です.

こうした断続的な放出は,最初は4号炉のみだったのではないかと考えていますが,3号炉などでも見られるようになったのではないかと考えています.こうした断続的,準周期的な放出の防止はこの事故を終息に持っていくにあたって最重要だと考え,その理由を考えていました.その過程で色々情報も集めたのですが,その帰結として,この断続的な放出の理由として以下の3つの理由を考えました.1.原子炉の(報道されていない)周期的なベントによる上昇.2.使用済み燃料プール内における弱い再臨界.3.使用済み燃料棒の周期的破砕に伴う放出.です.それぞれの根拠と,それに対するありうる反論について概説します.また,これらは僕が思いついた,というだけであって,他の可能性を否定はしません.ちなみに個人的には現在は3番目が一番可能性が高いのではないか,と考えています.
 

1.1.周期的なベント

報道にもあるように,ベントのタイミングは2転3転しています.従って,実際にどのようにベントが行われているのか,については不明な点があります.また,もう一つ重要な点として,情報を収集する過程で,ベントには2つのプロセスがある,というのもわかってきました.それは(僕の理解が正しければ,ですが)圧力容器の圧を下げるためのベントと,格納容器にいった圧を下げるためのベントの2種類です.ここで,後者のほうを報道されている以外に頻繁,かつ周期的に行っているとすると,ある程度は説明することが出来ます.

これに対する反論としては,15日頃を境とする各地でのベースラインの上昇を説明しにくいこと,そして15日以降,(前項と若干重なるのですが)半減期の長い,それまでとはことなる核種の放出が推測されることがあげられます.これらは前者については15日以前に南相馬で上昇が見られ,それが風向きと一致することから,風によって偶然,出ていなかっただけ,という可能性はそれなりに高いと思われますが,後者について,特に第一原発周辺の核種が変化していると考えられることは説明しにくいです.また,周期的な上昇が見られたしばらくあと(典型的に数時間程度)に決まって(おそらくは)プールから白煙,ないし黒煙が上がるのが観察されるのですが,これはベントでは説明不可能です.

1.2.弱い再臨界

これは,僕が一番恐れ,このデータ収集を積極的に行った理由にもなっています.炉内には燃料棒の間に制御棒が入り,再臨界を防いでいますが,使用済み燃料ブールではそのような状態にはなっていません.また,本来だったらある程度はなされておいてあるであろう燃料集合体が,地震によって近くに集められた可能性も心配していました.この場合,周囲の水が減速材として働くことで,再臨界可能な状態になる可能性も高い,と考えたのです.この場合,再臨界した瞬間にまわりの水は沸騰し,そのことによって水が減速材として働かなくなることで再臨界は止まります.その後,またある程度たつと,また再臨界する,というサイクルが実現し,放射性物質の放出は準周期的になり得ます.15日の夜中に中性子線の観測が報告されているのも不安材料です.また,一連のプロセスによって放出される核分裂生成物は,本来だったら(使用済み燃料棒とすでに止まった炉内)ほとんど出ないような比較的短時間(〜3時間程度)のものも含むことになり,15日以降の減衰曲線の変化とも一致します.

これに対する反論としては,そもそも燃料棒,そして燃料集合体を格納しているラックには多量のホウ素(中性子の吸収剤)が含まれており,再臨界する可能性は低い,というものがあります.また,そもそもこれを考慮した一番の原因は3号炉と4号炉の使用済み燃料プールの水の減りがあまりにも早いことでしたが,4号炉についてはすでに入っている使用済み燃料からの発熱を計算すると,水の無くなる時期が定性的にあうことがわかっています*5.一番の問題は,比較的短い(半減期3時間程度)核種の存在ですが,これが当初書いたように,88Kr(半減期2.8時間)だとすると,これは核分裂の1次生成物なので問題なのですが,132I(半減期2.3時間)だとすると,これは132Te(半減期3.2日)から生成されるものなので,あり得る話です*6.次に,中性子の観測はプール内での核分裂だとすると,正門までの距離1kmは若干遠すぎることがあり,むしろ核分裂に伴って出来る比較的重い元素(252Cfなど)が自発核分裂を起こすのでそれを観測した可能性があります.ただし,この場合は格納容器,ないしそこにつながるどこかが若干壊れていることを疑う必要があると思います.また,やはり再臨界説では,白煙ないし黒煙の上昇と放射線量の増大との時差は説明出来ません.最後にもし,本当に使用済み燃料プールで再臨界しているとすると,観測されている放射線量の値がもっと跳ね上がらなくてはおかしいのではないか,という点も上げられます.

1.3.燃料棒の周期的破砕

最後に何らかの理由でプール中の燃料棒が周期的に破砕され,それが周囲にまき散らされることによって上昇がおこった,というものです.”何らかの理由”の部分をあと回しにすると,もし,こうしたことが起こったとすると,破砕した燃料棒はあたりに散らばることになり,その行き場所次第ではまわりの温度を上昇させて火をあげることも可能でしょう.飛び散った燃料棒により引き起こされた煙と,燃料棒に含まれていた核分裂生成物の飛散に伴う放射線量の増大との時差についても説明可能です.ここで問題なのは”何らかの理由”ですが,僕は燃料棒の加熱に伴い,水位が次第に下がっていく点に着目しました.ある程度時間が経つと,当然,燃料棒よりも下に水が来ることになります.そうすると当然,高温のジルコニア被覆と水の接触に伴う水素の発生が生じますが,同時に水面上にある部分と水面下にある部分では凄まじい温度差が出来ることになります.従って,その場合には強烈な熱応力がその境にかかることになり,被覆と水の反応によって強度が失われていることも手伝って,破砕しやすくなっている可能性はありそうです.この場合,弱くなっている部分,従って水面上に出ている部分のみが破砕するとすると,一度破砕がおこり,その時に燃料棒をまき散らしてしまえばしばらく同じことは起きません.これが周期的になる理由です.

これに対する反論としては,本当にそんなことが起きるのか?という一点に尽きます.特に,その前に融解しないか,とかは重要でしょう(もしかしたらそれが白煙の理由かもしれませんが).自己発熱体が温度差を作っている過程なわけですから先行研究もほとんどないでしょうし,実際のところは良くわかりません.考察とデータとはそんなに大きな矛盾は無いですが,そういうストーリーを考えたのだから当たり前とも言えます.

以上で,周期的な変化に対する考察は終了です.もし,3番目のストーリーならば,燃料棒の長さは有限なので,何回か繰り返した後に大きな増大が最近見られていない理由もある程度は納得がいきます.特に,ここ数日のデータから見る限りでは小さなバーストこそあるものの,以前に見られていた3時間程度の減衰はなくなりました.ただ,これは僕の希望的観測も含むことを申し添えます.
 

2.放射線量と放出核種

事故からそれなりに日が経過したこともあり,放出核種についての情報がだいぶ出るようになってきました.多くの人にとって,記憶に新しいのは金町浄水場などでの21日の雨に伴う,暫定基準値を上回る放射性ヨウ素(ほとんどは131I)の検出でしょう.また,昨日のニュースではで原子炉近辺でプルトニウムが検出されたことも報告されています.これらについては違う記事で概説します(というか,多分,あまり重要じゃない.).
 

3.今後の展望

一番の問題は今後どのように事態が推移するかでしょう.原子炉の現状としては原子炉周辺の線量の推移が,たまに小さなバーストを挟みつつも,ゆっくりと減衰してきており(最近の半減期は131Iによるものと思われます.),このまま落ち着くことを期待させます.ただ,ここで留意しておかなくてはならないのがここ数日の風向きがほとんど西風であった,という事実です.断続的な白煙の上昇は続いたのがここ2,3日報道されていないのが本当に無くなったのか,余りにも毎日のようにあるので,報道機関が飽きたのかも気になるところです.

何はともあれ,短期的に一番心配なのは,格納容器の破損問題でしょう.今まで壊れてきたのは建屋に限られてきました.しかしながら,例えば現在格納容器内にある一定量たまっている可能性のある水素に引火するなどして格納容器が壊れてしまうと,中の放射性物質がむき出しの状態になり,さらに大量の放射性物質が漏れだすことになるでしょう.その場合,3月31日6時現在の情報によれば(参考資料 *7),原子炉の内側では最大で約40Sv/hの放射線量があるそうですから,原子炉の近くで100mSv/h程度の放射線量だった,という過去の報道から単純計算すると,現在の1000倍近い放射線量になることになります.ここで単純に比例計算すると,概算で福島で10mSv/h,東京で0.1mSv/hに達する可能性がある,ということになります.つまり,格納容器について,現時点で少し壊れている,という話もありますが,少なくとも現在のレベルでおさえることが重要だ,ということが言えます.そうすれば,福島あたりでも土壌の入れ替えなどの手段を通じて復活出来るのではないかと想像しています.

中期的,長期的にはいかにして今,むき出しになっている原子炉,冷却水を封じ込めるか,という問題がありそうです.少なくとも梅雨が来るまでには封じ込め部分についての決着をつけたいところなのだと思うのですが,さすがにそこまで来ると生物的な影響をどう評価するのか,という話になるので,少し僕には難しいです.

最後に展望について悲観的なことを述べましたが,僕が保安院発表の資料から考察した範囲だと,圧力容器はそれなりに健全性を保っているように思えます(各物理量がそんなに突飛じゃない.).また格納容器も同様です.現状が楽観出来る状態では間違いなくありません.事態の完全な終息には長い年月が必要とされるでしょう.しかし,当たり前のこととは思いますが,今回,心配になって色々と調べる過程で,専門家の方々が問題の解決に携わっている,というのも見えてきました.メールのやりとりを通じて,僕たちの解析も少し役に立ったのではないかと思います.それを確認したところで,少なくとも僕の今回の原発事故との関わりはいったん終了とします(データ集積,及び簡単な解析くらいはすると思いますが).今回のことでは本当に,本当に多くの方々にお世話になりました.ある程度,事態が収束したと確信出来たとき,改めて総括したいと思います.

*1:福島第一原発放射線量観測データ;有志でデータ集積中.

*2:原子力安全・保安院発表;地震被害情報(第24報)(3月15日11時00分現在)

*3:東京大学佐野研究室作成

*4:水素と共に,核分裂生成物の一部として出る希ガスが放出されていると考えられる

*5:東大佐野研の学生さんの計算によります.ただし,3号炉の使用済み燃料プールについてはやはり早すぎるようです.

*6:今回のデータで半減期2〜3時間は一応誤差の範囲だと思います.

*7:原子力安全・保安院発表;地震被害情報(第64報)(3月31日08時30分現在)

福島第一原発の経過について・3

いままでの記事の続きです.
いくつかのデータの更新は他のグループと合流し,だいぶスムーズになってきました.
また,主に友人ですが協力して頂いている皆さん,本当にありがとうございます.
2011-03-18 - 今日も僕は生きている
2011-03-17 - 今日も僕は生きている
放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) - 宇宙線実験の覚え書き
 
ぼちぼち各所で様々なグラフが公開されていることもあり,色々なことに気がついている人も増えだしています.基本的には客観的な事実を述べるにとどめますが,どうしてもショッキングな形になってしまうかもしれません.もし心配になったら,周りのグラフをきちんと読める人を探して解説を求めて下さい.放射線は確かに怖いですが,別にすぐに死ぬわけじゃありません.そして,少なくとも南関東はどう厳しく見積もっても大丈夫です.パニックになって本当に困るのはもっと北の人たちです.関東の人間が騒いでいる以上に,福島の方のほうが不安です.そしてもっと北の方たちは,正に今,物資を必要としています.必要以上におびえて北に物資が届かなくなる,なんてことにはならないで欲しい.僕は東京で解析しているだけで卑怯だとは思いますが,これだけは切にお願いします.
 
今回のメイントピックは,1.今回の事故の経過をモニタリングする上で一番注目するべきポイント,2.放水の効果の判定基準,3.各地の放射線量について,の3本立てで行きます.あらかじめお断りしておきますが,これは一緒にデータを取得している仲間,全ての合意事項ではありません.またここの解析は再掲になりますが,放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) - 宇宙線実験の覚え書きを基準にしています.煩雑なグラフではありますが,現象を理解する上では必要な情報が詰まっているので,下記を読んだ上でグラフを読める人に解説してもらうといいでしょう.逆に東京をはじめとする遠方の都市が安全かどうかを判断する基準には少しなりにくいです.もう少し言えばはっきり言ってそんなところに興味はありません.乱暴な言い方をすれば,そんなもの安全に決まってる.
 

  • 1.今回の経過のポイント

私見では,今回の事故をモニタリングする上で重要なのは放射線量の絶対値そのものではありません.もちろん,それも重要ですし,一般の方の関心はそれかもしれませんが,事故が終息に向かっているかどうか,ということを判断する上では違います.最初の記事で,3月14日午後9時以前と9時以降で起こっている現象が明らかに違うことを指摘しました.最初の記事では若干ぼかしましたが,一番重要なのは周期的な放射性物質の放出の立ち上がり(バースト,と僕は呼んでいます.)で,次にその緩やかな緩和です.特に一番目でポイントなのは,15日以降,特に人為的に何かしているわけではないのにバーストが見られることです.つまり,これはバーストをトリガーするような何かが原子炉で起きていて,それが継続していることを示しています.逆に言えば,これさえ止めることが出来れば,今回の事故は終息に向かう,と考えて良いのだと個人的には考えています.
 さて,ここで,WEB上で流布している幾つかの疑問と,当然出るだろう疑問に答えて起きます.まず,後者について.グラフからは第一原発の周辺で,バーストは起きていないように見える,という疑問が生じると思います.それに対する答えは簡単で,最近の原発周辺のモニタリングを原子炉に対して風下で測定してないから,というだけの話です.もちろん,モニタリングされている方の健康のことも留意する必要がありますから,現場としては当然の判断だったのかも,と想像しますが,サイエンスとしては間違いです.当然ですが,一番いいのは,原発を取り囲むようにモニタリングを行うことであるのは言うまでもありません.次に,前者について.昨日の2号炉の白煙の後くらいから,第一原発正門前の値が跳ね上がる傾向が見られるのですが,それと各地の跳ね上がりが同期していない,むしろ前にきている,という指摘が各地でされつつあります.それに対する答えはおそらく,第一原発周辺のモニタリングで引っかかっていないバーストが起こった,というのが答えです.状況証拠ですが,15〜16日に度重なる火災や白煙の発生が3号炉,4号炉で起きましたが,その発生と,放射性物質の上昇は必ずしも同期していません.むしろその数時間前に起こる傾向があります.今回も同じことがおそらく起こったのでしょう.ちなみに,16日以降も規模の大小はともかく,バーストが起きていることは原発周辺のデータからはわからなくても,近くの都市の値をモニタリングしていることである程度わかります.もちろん,強い偏西風に乗っている時はその限りではないのですが.

 

  • 2.放水の効果について

これについては,バーストを止める効果はなかった,というのが答えでしょう.放水後に放射線量が下がった,という報道がされていますが,これは単純に半減期の効果で下がっているに過ぎません.言ってしまえば当たり前です.先に書いたように,バーストを止めることが重要です.あと,報道で,放水中に60mSv/hまで線量が上がったが,終わる頃にはほぼ0になった〜というような記述が見受けられましたが,単純にその時にバーストが起こっただけだと思います.各地のデータ(確か南相馬)とも整合します.

 

最初に,この項目については,不確定な要素があまりにも大きいことをお断りしておきます.特に線量の絶対値がどれだけだから,健康に対してどうだこうだ,という評価は正直僕には無理です.個人的には,レントゲンくらいか,とか,僕が実験で浴びたくらいか,余裕だな,とかそういう判断をしているに過ぎません.それでは各地の放射線量の読み方です.これに関しては正直,全くわかりませんが,楽観出来るものではないようです.長期的な評価はプロの人にやってもらうとして(僕にはさすがにそこまでの責任はとれない),現在,放出されている,というか,各地の放射線量の主役を担っている物質は,どうやら132Teと131Iのようだ,ということのようです.その場合,半減期はそれぞれ約80時間,8日ですので,それぞれ今,自分の地域で観察されている線量(mSv/h)にファクターとして,110,300をかけて下さい.そうすると期待被曝線量(mSv)が出ます.どちらをかけるかは傾きによりますが,とりあえずは110をかけておけば間違いないでしょう.132Iの方は絶対値としては少なく出る傾向にあるようです.ここで計算したのはあくまでこれは期待被曝量の最大値であることもお断りしておきます.ただし,今後のバーストの動向によってその値は変わる(具体的には増える)でしょう.次に,バーストが起きた時,自分のところにどれくらいの時間で到達するかですが,まず重要なのは原子炉からの風向きです.それが自分の方を向いているかをまず確認して下さい.時間としては大体典型的に50〜100km/hくらいのスピードで到達しているようです.次に,自分の地域で過去,どこらへんまで放射線量があがったかを確認して下さい.それくらいは来る可能性があります.逆に,それ以上は原子炉にさらに不幸な進展が無い限りは来ないのではないかと思います.また,屋内に退避するのはかなりの効果があるようです.

 
これで以上ですが,最後に,今回,本当に一番書きたかったこと.僕の尊敬する後輩が,今回の事故に関連して,以下のようなことを書いていました.これは今,情報を発信している全ての科学者の人が心にとめて欲しい.知識は必ずしも人に安心を与えることは出来ません.事実はどこまでも公平に事実です.そういう時のために僕らは知恵を磨いてきたのだと思います.今,僕らが持ってる知識と知恵を使わなくていつ使うのか.僕らはもはや傍観者ではないし,今はサイエンスコミュニケーションをしている時でもない.

原発の被害の問題については、「真理」がまさに今、国(政府や政府の側に立つ学者)によって作られようとしている。ここで決まる数値やその他の基準によって、20年後、30年後に癌を発症した被曝者が、被災者として認定されるか、補償を受けられるか否かが決定されることになるだろう。例えば、現在福島近隣に居住し、その後の放射能の蓄積によって後から発病した患者は、この基準をめぐっていつ終わるとも知れない裁判を闘うことになる。
学問は、このような過程に対し、決して無責任ではいられない。

福島第一原発の経過について・2

前記事の続きですが,twitterで流したところ,被ばく量の見積りについて勘違いが散見されたので,被ばく量の見積りの方法について概説します.
参考;
2011-03-17 - 今日も僕は生きている
放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) - 宇宙線実験の覚え書き

まず最初に指摘しておきたいのが,

放射線量が,1mSv/hの場合,1日に24mSv浴びることになる

というような主張がよく見られますが,これは誤りです.放射性物質放射線を永久に出し続けるわけではなく,出しながら崩壊して違う物質に変わって行きます.この期間を示すのがいわゆる半減期です.従って,積分値としての被ばく量を考える場合には,その半減期も考えなくてはなりません.
 
具体的には,単位時間あたりの放射線量が,{\it S}\(t\)={\it S}\(0\) 2^{-t/\tau}と記述出来るとしたとき,良く言われる放射線量はある時間での{\it S\(t\)}をモニターしていることになり,半減期\tauで記述されます.
 
さて,次に肝心の被爆量の計算方法ですが,技術のある人はこの関数を積分すれば良いのですが,そんなことをしなくても簡単に最大値を見積もれて,被爆量を{\it I}とすると,{\it I}{\it S}\(0\)\times \tau \times 1.44として計算出来ます.
 
技術的なことはこれくらいにして,具体的な被爆量の計算にうつりますが,前回に指摘したように,

さて,その放射性物質が到達までに薄まる過程には,大きくわけて,
* 核崩壊による強度の減衰
* 物質の濃度の拡散による効果
の2点が考えられます.

今まで説明してきたのは前者の“核崩壊による強度の減衰”にあたります.後者については長距離輸送されるうちに薄まって行く効果です.前回は軽くしか説明しませんでしたが,この効果はあまり強くは効きません.前回の再掲ですが,グラフから判断するに,1桁/50km程度にしかならないようです.(渋谷と,第一原発の最大強度を比べて下さい.少なくとも200km程度は離れているはずですが,落ち幅は10000分の1程度です.)もちろん,この数字は風向きさえ違う方向を向いたら0にもなりますが.
 
ここまできて,ようやくTwitterで流れていた,現地で1Sv/hの放射線が出た場合…のくだりが計算出来ます.まず,東京(渋谷)まで放射性物質が到達する間に濃度の減少によって,1Sv/hが,0.1mSv/hになります.そして次に,さきほどの計算式を用いることで,積算の期待被爆{\it I}mSv 〜 0.1\times 2.8\times 1.44mSV 〜 0.4mSv と計算出来ます.これはTwitterに流れていたように,レントゲンとかCTと比較すべき量のようです.
 
次に,この値の解釈についていくつか注意点を述べます.グラフからもわかるように何度か福島第一原発では大きな放出が起きているようですので,その度にピーク値は上昇します.よって,総被ばく量はイベント全ての積算と考えるべきでしょう.ここで今回仮定した1Sv/hという量は,今までに観察されている最大のピーク値,10mSv/hの100倍にあたります.つまり,単純に考えると,あと100回放出イベントが起きれば,東京の人は1回レントゲンをとったことになります.
 
最後に,もちろん,以上の解析は現時点では…です.今後事態がどのように推移するかによって事情は大きく変わりますし,現状を楽観していいかは正直確信が持てません.ですが,あえて,科学者としての本筋には反しますが,東京が致命的な事態に陥ることはあり得ない,と断言します.原発が問題ないとは思いません.その解決のために,本来なら被災者の救援に使うべきリソースが日々割かれています.一日も早い解決を心から祈ります.

福島第一原発の経過について

この記事は経過に伴い随時更新されます.2011/3/18 13:18
福島第一原発放射能漏れについて,物理学科時代の友人と一緒になって解析をしていました.下記のリンクはその友人が中心になって各地の計測値を図示してくれたものです.
 
http://d.hatena.ne.jp/oxon/20110318/1300381733
 

この図からわかることについて概説します.疑問,指摘などあれば大歓迎です.


 
重要な事象;
3月14日午後9時以前と以降で起きている現象の質が変わっている.それは,  
* 関東各地のモニター値が平常値よりも明らかに上がり出した
* 第一原発のモニター値も以前より長い緩和時間に変化
の2点からわかります.


 
これらに対する解釈は,以前においては比較的短時間で崩壊する核種の漏れにとどまり,他地域に到達していない.

というので問題ないと思います.(例外として南相馬市の高い値が気になりますが…)

ただし,3月14日午後9時以降では,どうやらもっと崩壊時間の長い核種の漏れが起きています.半減期,〜3hから判断すると,核種としては,88Kr(半減期2.8h)である可能性が高いです.ここで,88Kr(クリプトン)であった場合の健康への影響についてですが,一番問題なのは半減期が長いことでしょう.近くに滞留している場合,その影響を受け続けることになります.ただし,クリプトンは希ガスですから,体内に吸収されることは間違いなくありません.したがって放射性ヨウ素のような事象は起きないと考えられます.訂正します.どうやらKEKの調査によると,絶対量はともかく,ヨウ素の放出も確認しているようです.http://www.kek.jp/quake/radmonitor/GeMonitor.html
 

次に,そのようにして発生した放射性物質(多分クリプトン)がどのように運ばれるのかについて考察します.途中で色々な考察を挟みましたが,結論から言うと,おそらく原発で上空に舞い上げられた放射性物質,おそらくは,微粉末に吸着した状態で上空(おそらく4〜5km舞い上がってる?)の気流にのって運ばれた,と考えるのが妥当でしょう.上空の気流は大体時速100kmに達することもありますから,各地にそれなりに速い時間帯に到達しています.
 

さて,その放射性物質が到達までに薄まる過程には,大きくわけて,
* 核崩壊による強度の減衰
* 物質の濃度の拡散による効果
の2点が考えられます.前者は既に説明したように3時間程度で半分になります.後者については,詳しい考察は省きますが,間に遮るものが無ければ大雑把に40〜50kmで1桁弱落ちるようです.もちろん,これは間に山とかがあれば話は別です.おそらくはもう少し桁が落ちる方向にいくでしょうが,詳しい考察はまだしていません.
 

最後に一番問題となるのは,周期的な第一原発放射性物質のもれと,長期的な絶対量の上昇です.これについてはただいま考察中です.