こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

ベトナム縦断25 ラックジャーへ

2011年3月8日

クリントン元大統領も食べたというフォー2000でフォーボーを食べながら、暑い夏に暑いスープはちと合わないなと考えていた。フォーはやっぱり北部のものだし、暑気払いのための食べ物ではない。じゃあ冷たい麺がいいのか?いや朝からそれだとお腹に負担がかかりそうだ。結局これだという夏の朝食は思い浮かばなかった。

部屋へ戻り、シャワーで汗を流してガンガンにクーラーを効かせて横になった。一回部屋に入ってしまうと、もう酷暑の中バックパックを担いで出掛ける気にはなれなかった。バスターミナルまで行くまででも億劫だし、そこからラックジャーまで更に6時間バスに乗るのは想像しただけでぞっとする。フットワークがどんどん重たくなっていく自分が恨めしい。寝そべりながら、早く出発した方がいいと言っている自分と、あともう少し待ってくれと言う自分が頭の中で交錯していた。最終的に、逆算してギリギリ間に合う11時にチェックアウトした。
ミエンタイバスターミナルまでは102番バスを使ったのだが、ずいぶんと遠回りして1時間以上かかった。バスターミナルの切符売り場は、会社ごとに分かれている。どこにラックジャー方面の会社があるのかなと探していると、おじさんが近寄ってきた。「どこに行く?」と聞いてきたので「ラックザー」と答えたが通じない。ラクザー、ラックジャー、と発音を変えたり語尾を上げたりしてみて、ようやくそうかと合点してもらえた。本当の発音は、ラックジャーとかラッチヤーとかなのかもしれない。ベトナム語の発音がいまいち理解できずじまいだった。
さて急げ急げと言われて連れて来られたのは出発直前のバスだった。しかし運転手席に置かれたボードは「ハティエン」だ。おじさんに「ハティエン行きじゃないか?」と抗議すると、その板をクルッとひっくり返してほらと言う。ボードの裏面には「ラックザー」の文字が書いてある。どうも釈然としないが、ひとまず運賃を払おうと昨日調べた額の10万ドンを渡したら、違うと言って倍の20万ドンを請求してくる。結構な真顔だったので、本当にそうかと一瞬錯覚して20万ドンを払ってしまった。すぐ冷静に戻って、昨日運賃を確認して10万ドンだったから20万ドンはあり得ないと反論すると、彼は少し考えたのちに渋々10万ドンを返してきた。

エアコンのない車内に乗り込むとむわっとした熱気に包まれていた。乗客はこれまで出会ってきたベトナム人とは顔つきの違う色の黒い南方の人たちだった。バスはほぼ満席でかつ大量の荷物を積んでいるので座る場所がない。一番後ろの席の荷物をどかして何とか座る場所を確保した。変わった人が乗ってきたと言わんばかりの視線が突き刺さる。これで8時間はキツイなと思った。
しかしそれにしても、どうしてハティエン行きなのか?どうして運賃が倍の200kD請求されたのだろうか?そもそもこのバスは本当にラックザーを経由してハティエンに行くのだろうか?疑問は晴れない。僕はもう一度運転手に尋ねることにした。ラックザーに行くのかどうか?この一点だ。すると運転手は戸惑いながら首を振ってハティエンと答えた。
これでからくりがはっきりした。このバスはやっぱりラックザーには行かないのだ。正確に言うとハティエンに着いてから、ラックザー行きに変わるのだ。だからあのおじさんはハティエンまでの150kDに50kD上乗せして200要求してきたのだ。するとラックザーにはいつ着く?ハティエン着が9時頃とするとそのままラックザーに向かっても夜11時。しかしわざわざ21時にバスに乗る客がいるだろうか?ひょっとしたら車中泊の可能性だって十分ありえる。そこまで考えて怒りがこみあげてきた。そんなバスに何食わぬ顔で僕を乗せようとしたことが許せない。走り出そうとするバスを止めて降車した。そしておじさんを見つけ「金を返せ」と詰め寄った。彼は謝るでもなく抵抗するでもなく何事もなかったかのようにあっさりと返金に応じた。サイゴンは本当に油断のならない街だ。他の町と同じように考えていたら失敗する。
改めてチケットオフィスに行き、さっきと別会社のカウンターでラクザー行きのチケットを購入した。95kD。14時発。今度はミニバスだった。巨大なフランスパンを2個買って乗り込んだ。狭くてギュウギュウだ。かろうじて窓側の席を確保した。
サイゴンからメコンデルタの西側に出るためにはメコン川の支流ティエンザン(前江)とハウザン(後江)を渡る必要がある。うちハウザンはカントーを除いて橋はない。対岸の町ロンスエンへはバスごとフェリーで渡る。そしてロンスエンからはラックザーまで人工的に真っ直ぐな道がずっと続く。
日も沈んだ7時頃に町らしい場所に入ってきて、運転手が「ここはもうラックザーだ」と言った。ただ光は少なく町の中心ではない。外を見ながらどこで降りるべきか考えていた。ロータリーが現れ、割と大きな橋を渡るとホテルとコープマートが見えてきたので、ここで降ろしてもらうことにしホテルにチェックインした。すぐさまコープマートに向かい、フークォック島に備えてボディーソープと短パンとサンダルを購入した。夜8時だというのに人でごった返していてレジで10分並んだ。
ホテルは古ぼけたホテルで水シャワーしか出ない。220kD。値切ろうにも他に選択肢がないのでしょうがない。部屋にヤモリを見つけた。あっと思ったが、実はこの日からカンボジアを出るまでヤモリのいない部屋は一日としてなかった。