こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

中央アジア10 ウルムチ ウルムチ暴動記念日

2011年7月6日

夜12時になると日が沈み、街はようやく静かになる。窓の外には、やや太くなった新月が顔を出していた。ロータリーを覗きこむと、多数の警察車両が停まっているのが見える。今日7月6日は、ウルムチにとって特別な日だ。200人の死者を出した2009年のウルムチ暴動からちょうど2年になる。
ウイグル人が多数を占める新疆ウイグル自治区では、支配者である漢人との衝突が絶えない。ここでの中国の対応は、自治の尊重や話し合いではなく、徹底したCrack downだ。そのために採用されている方策は、実に多岐にわたる。
監視カメラによる個人の追跡、批判的言動の密告、デモや集会の禁止、隣国からの新疆への入域制限など一般的な行動監視に加えて、個人車両へのGPS設置の義務化など、我々民主国家から見ると、かなり先進的かつ踏み込んだ手段が取られている。
だが、この地域で拘束された市民がどのように裁かれ、どのような処遇に晒されるのか漏れ伝わってくることは少ない。情報管制もcrack downの重要な要素だと考えている証拠だろう。
これまでのところ、暴動はすべて鎮圧され、crack downは成功しているように見える。あとは経済成長が生活の豊かさをもたらせば、やがてウイグル人の不満も消失するだろう。しかし、そう思惑通りに物事が進むとは限らない。
そもそも論として、自分たちの土地によそ者が入ってきて、物事を勝手に決めていくところに不満の種がある。そこで意思決定のプロセスを市民が納得できるものにするために、民主的な選挙は存在する。では仮に新疆ウイグル自治区内で「民主的な」選挙が行われるようになったら状況は変わるだろうか。しかしそれでも、選挙で選ばれた代表者が、反体制的と認定を受けて弾かれてしまうのであれば、形骸化したアリバイ的選挙になるだろう。結局、最終的なプロセスを透明化するための言論の自由がなければ、民主的とは言えないのである。
こと中国において、特にサイバー空間での言論取り締まりは、目を見張るものがある。百度微信などのネットサービスは中国国内で完結し、またこれらのサイトそのものがウイルスプログラムを内包している。そしてグーグル、フェイスブックツイッター、インスタグラム、ラインなど外国と繋がるサイトは完全に遮断されている。VPN等の迂回路もかつては存在したが、徐々に道は狭められてきている。
国内での取り締まりは、恐るべき人海戦術に依存している。「不適切」と判断されたサイトは人の手で削除される。体制批判につながりうるキーワードも自動的に排除される。熊のプーさんも当然禁止ワードに入っている。この「不適切ワード」の基準は公開されていないので実態は闇の中だが、地域によって若干の差異があることから、国と地方の両者が管理しているのだろう。
このように非常に高い壁を築き、新しい問題が出てくればその都度壁を高くする方針を中国政府は取っている。しかし壁は無限に高くできるものだろうか?
例えば、うなぎ上りに増加する海外経験者は、ツイッターやインスタグラムの潜在的利用者である。上に政策あれば下に対策有りとされる中国では、今後も市民と監視者のいたちごっこが続くだろう。いずれパトロールの効率化のため、AIがより濃い密度でサイバー空間を巡回するようになっていく。しかしネット上の生の声をすべて拾い上げたAIの存在は、真実を誰よりも知る脅威となるはずだ。このAIを管理するための人員が、また大量に投入されるのだろうか?

ひずみはいつか正される。捻じった紐は必ず戻ろうとする。戻ろうとした紐をさらに捻じれば、歪みは次第に大きくなっていく。そして極限まで捻じったところで、一気に大きな揺り戻しが起こる時がいつか来る。その時初めて、紐を捻じろうとしたことが過ちだったと気付くのである。