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2018-06-13

都城市民会館はこう使える!「免震なし」なら約8.4億円と学会が提示

貸与先が10年不使用のまま返還申し入れ、再燃する保存論議の行方(後編)

旧都市民会館を20年間無償貸与されていた南九州学園が、都城市に返還を申し入れた。建築家菊竹清訓氏(1928〜2011年)の設計1966年に完成し、メタボリズムの代表例に挙げられることも多い有名建築だ。日本建築学会は5月末、具体的な活用提案やコストを示した報告書を市に提出した。学会報告書提出を決めるまでを振り返った前編に続き、今回は報告書の詳細をお伝えする。

都城市ウェブサイトを見ると、5月末に提出された日本建築学会報告書の前に、2018年2月28日付のもう1つの報告書が掲載されている。「旧都市民会館今後のあり方検討業務報告書概要版」と題するこのリポートは、昨年末に旧都市民会館の返還を申し入れた南九州学園がパシフィックコンサルタンツに依頼してまとめたものだ。3月の都城市定例議会では、この報告書に基づいて保存の場合の事業費などが説明された。

今回、日本建築学会が異例の速さで報告書をまとめることになったのは、この2月28日報告書に“対案”を示すという意味合いも大きかった。日本建築学会会長日本建築学会都城市民会館再生活用計画検討特別委員会委員長を務める古谷誠章氏(早稲田大学教授ナスカ共同代表)はこう語る。「2月に提出された報告書では完全保存の場合の概算事業費が約42億円となっており、そこまで高くはならないだろうと感じた。市民アンケートでこの金額が資料になると、解体の票が多くなることが予想される。学会のなかの再生プロジェクト専門家を集めて議論することにした」

学会が5月末に提出した報告書では、全体活用した場合の工事費の目安を約8億4000万円としている。2月の報告書で示された費用の2割にすぎず、差額でいうと34億円にもなる。

学会報告書では「免震の必要なし」

この差は、耐震補強の程度の違いから生じている。2月の報告書では建物を保存するために基礎免震もしくは中間階免震を施すことを前提としているのに対し、学会報告書では、部分的な補修のみで可としている。学会報告書から、耐震改修の必要性に関する部分を引用する。

「上部鉄骨造部分に関しては、外部鉄骨の耐火被覆モルタルの撤去により軽量化されたので、結果的に原設計と比べて耐震性が向上している。下部鉄筋コンクリート造部分に関しては、耐震強度が十分大きいと考えられる建築物耐震安全性を略算的に判別する手法により判断すると、多くの耐力壁および柱により十分な耐力を有している。最終的には耐震診断による判定が必要であるが、現時点においては鉄筋コンクリート部分の部分的な補修は必要であるが、免震レトロフィットなどの大規模耐震改修の必要性はないと考えられる」

学会報告書では、最も費用の高い手法を「全体活用案(ホール部分はじめ全体を他用途で活用)」の約8億4000万円とし、次いで高い順に「屋根撤去1階活用案(2階を屋外空間で活用)」約5億4000万円、「1階部分活用案(1階部分の活用と増築部撤去)」約4億2000万円、「暫定利用」約2200万円としている。

さらに、「全体活用案」の活用例として6つの具体的なイメージを掲載した。

ケース1:スポーツ施設としての活用

事業者としてはスポーツ関連商品取り扱い企業、健康サービス事業者、スポーツ関連団体を想定している。2階ホールの主な利用法は弓道場を想定。これは都城市が「弓のまち」として知られるからだ。

ケース2:マルシェとしての活用

事業者としては産地直販イベント事業者、地域地場産業振興団体、レストラン事業者を想定している。1階部分はコンビニとカフェを設け、2階部分を酒造など都城市を象徴する企業のショールームとして利用する。

ケース3:ショールームとしての活用

事業者としては地元木製家具インテリア製造販売事業者を想定している。2階部分を地域生産される材料や商品を展示できるショールームとして活用する。

ケース4:ミュージアムとしての活用

事業者としては科学技術博物館建築資料館、不動産事業(文化芸術推進事業)を想定している。2階には4つのフラットな展示スペースを設け、回遊動線を設ける。 上部から全体を見渡すことができ、高さ10mの展示も可能。

ケース5:オフィスコールセンターとしての活用

事業者としては地元企業、ベンチャー企業、レンタルオフィス事業、電話対応業務関連事業者を想定している。2階は主にコールセンターや企業のオフィスとして利用。1階はカフェやコンビニとする。

ケース6:アーティストインレジデンスとしての活用

事業者としては入居アーティストによる共同出資団体や美術専門学校サテライトキャンパスを想定している。屋外およびホール空間アーティスト創作スペースや展示スペースとして利用する。

積極提案の成功例になるか?

学会委員会報告書とりまとめの中心となった鰺坂徹・鹿児島大学教授はこう語る。「保存要望書を出すだけというやり方は時代遅れだと感じていた。都城市民会館の場合、都城市役所の人たちも『建物価値はもう十分に分かっている。具体的な事業提案をしてほしい』と言っていた。私が教えている鹿児島大学学生たちの良い経験にもなるので、古谷会長から声を掛けられ、喜んで報告書づくりに参加した。大きな方向性コストについては委員の先生方に検討してもらったうえで、鹿児島大学早稲田大学学生たちを中心に具体的な活用イメージを作成した」

都城市6月6日夜に学会報告書ウェブサイトに掲示し、8月まで民間からの提案を募集中だ。

並行して、7月〜8月には、学会報告書を踏まえて、市民アンケート実施する。そのうえで9月に市議会に諮り、市としての方針を決定する。

学会長で特別委員会委員長の古谷氏は語る。「今回はいろいろな方の協力のおかげで、かなり踏み込んだ報告書を出すことができた。報告書を出して終わりということではなく、実際に民間からの活用案が出るように学会として今後もフォローしていきたい」と語る。

うまくいけば、これまでにない保存運動成功例として後世に語り継がれるケースになるだろう。一方、うまくいかなければ、関係者の徒労感はこれまでにも増して大きいに違いない。まずは民間からの提案募集と市民アンケート、それぞれの結果が注目される。

http://cms.city.miyakonojo.miyazaki.jp/display.php?clist=1294

http://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00154/00161/

http://d.hatena.ne.jp/stnet/20180611/1528685786