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妊娠カレンダー/小川洋子、からドミトリイについて

妊娠カレンダー (文春文庫)

妊娠カレンダー (文春文庫)

透明感のある作家、とよく比喩えられる小川洋子
僕も勿論そう思っていて、そういう所も含め好きだ。
妊娠カレンダーは透明感と現実感の入り混じった、初期の小川洋子の雰囲気が醸しだされている。

妊娠カレンダーは
・妊娠カレンダー
・ドミトリイ
・夕暮れの給食室と雨のプール
の三篇から成る短編集。

今回は“ドミトリイ”について。

この物語は、読者に想像させる。
主人公となる女性視点で物語が進んでいき、知らぬ間に女性と同じ意識を持ちながら、女性と同じ視点で物語を見るようになっていく。
「もしかしたら向こう側には〜があるんじゃないだろうか」という妄想を女性がすれば、きっと読者もしているだろう。
曖昧な材料だけが、少しずつ提供され、物語のあちこちに奇妙で妖艶な雰囲気の漂う描写がなされる。

雲がかった空の下にひっそりと建つドミトリイ。
突然やってきた甥と、いまは海外にいる夫、久しぶりに会う先生。
3つの人物が、ただ普通の日常を過ごし、語るだけなのに、妙な不安にかられ続ける。
その不安は、永遠とか、刹那とか、狂気とか、そういうものではない。

暗雲のかかった空のような、いまにも降り出しそうな雨の予感と似ている。

そういう妙な感情を抱いたまま物語は展開していき、最後には美しい風景へと辿りつく。

筋肉とか、蜂蜜とか、喪失とか、そういうひとつひとつの単語が妙に生生しくて、想像の世界へと何時の間にか引き込まれてしまうのだと思う。