ハナン・アシュラウィ:ボイコットはわれわれパレスチナ人の非暴力抵抗運動だ

『パレスチナ報道官―わが大地への愛』の著書で日本でも知られるPLO執行委員のハナン・アシュラウィ氏が、スカーレット・ヨハンソンソーダストリームの「ブランド大使」になった問題を取り上げ、BDS(ボイコット・資本引揚げ・経済制裁)運動を支持する論考をイスラエルのハアレツ紙(2月10日付)に発表しました。

現在、ケリー米国務長官のイニシアチブで進められている和平交渉において、「難民の帰還権の放棄」や「『ユダヤ人国家』としてのイスラエルの承認」といったパレスチナ問題の根幹にかかわるイスラエルの要求について、パレスチナ側の譲歩が危惧されています。

そうした状況において、占領の終結だけでなく、難民の帰還権の実現や、イスラエル国内におけるパレスチナ市民の平等権の実現を獲得目標として掲げるBDS運動への積極的支持をアシュラウィ氏が表明したことは、重要な政治的意義をもつと考えられます。

2月25日には、イスラエルのクネセト(国会)で、雇用機会均等法に関する諮問委員会に宗教別の委員任命を導入するための法律が成立し、イスラエル国内のパレスチナキリスト教徒とパレスチナムスリムとを分断支配する「人種差別法」として内外の注目を集めています。パレスチナで二千年の歴史をもつキリスト教徒コミュニティの一員でもあるアシュラウィ氏は、この法律に対し、「中世においてパレスチナへの十字軍遠征を引き起こしたのと同様の攻撃的イデオロギーの遺物」であると、厳しく批判する声明を発表しました。オスロ合意以降、内政干渉にあたるとしてPLOから疎外されてきたイスラエル国内のパレスチナ人に対するアシュラウィ氏の積極的な発言は、BDS運動への支持表明と併せて注目する必要があるように思います。



ボイコットはわれわれパレスチナ人の非暴力抵抗運動だ

原文:The boycott is our Palestinian non-violent resistance

スカーレット・ヨハンソンのような選択をする者がいる一方で、BDS(ボイコット・投資引き上げ・制裁)運動によってパレスチナ人と良心ある世界中の人びとがエンパワーされ、入植地に反対し、正義と人権のために闘っている。

ハナン・アシュラウィ、2014年2月10日

ソーダストリームをめぐる議論が近ごろ世界中のメディアの注目を集めている。それによりイスラエルが継続させている軍事占領の実態が浮き彫りになり、パレスチナに対する世界的な関心や社会的責任の意識が高まっている。イスラエルがこれまで人道的な罪を免れてきたことすべてを白日の下にさらけ出し、多方面からの介入や責任追及が喫緊の課題となっている。

ソーダストリームは、国際法上違法とされている入植地、マアレ・アドミームに工場を構える会社だ。スカーレット・ヨハンソンがこの会社の「顔」になると選択したことによって、イスラエルが継続させる入植活動と、危険で無責任きわまりないこのような政策が現実にもたらすことになる対価をめぐって、第一線で議論が繰り広げられる事態となった。

人権擁護団体オックスファム社の大使でもあったヨハンソン氏は突如として利益相反状態に置かれ、個人としての責任と選択という難題に直面することになった。ソーダストリームの側につくという彼女の決断は、いくら大目に見ても世間知らずだし、最悪の場合、彼女が正義と人権に対する敬意を完全に欠いていることを物語る。

様々な方法をとりながら成り立っている非暴力の抵抗運動は、 国際法や普遍的価値・原理を重視する姿勢と、公正な正義を求める声を共有し、国際的な舞台で勢いを得はじめている。こうした抵抗運動の目的は第1に、イスラエルが持つ例外主義や権利意識を終結させることである。そして第2に、イスラエルが占領を継続させることによってもたらされる道徳的、経済的そして政治的なコストを強く思い知らせることである。

BDS(ボイコット、投資引上げ、制裁)運動は、パレスチナの市民団体から始まり、パレスチナと連帯する、イスラエル国内も含む世界中の団体や良心ある人びとの支持を受けている。この運動は様々な点において、南アフリカ共和国アパルトヘイト政策と組織的な人種差別主義を終結させるために取られた、長きに渡ったが多大な効果を発揮したボイコット運動をモデルとしている。この運動は国際的な認知度を高め、経済、文化、そして学問の領域における行動を駆り立てることに成功し、ますます勢いを増している。

この国際的運動は、イスラエルが加速させている暴力、とりわけ入植活動や、パレスチナ人の土地の押収、家屋破壊、ガザ地区の封鎖、そしてエルサレムの併合・隔離といった暴力に対して、効果的にかつ責任あるやり方で対処する方法となっている。そしてまたこの運動がとっている非暴力の抵抗という前向きな方法は、自由と平等を勝ち取るためのパレスチナ人の闘いにとって不可欠なものだ。BDS運動は、世界中の個人や団体・ネットワークが効果的に関わる方法を提供し、社会的責任を果たす行動が個別的にも集合的にも実施されることで、大きな力を発揮するからだ。

こうした連帯運動によってパレスチナ人とその支持者がエンパワーされ、イスラエルによる占領における抑圧的な行為に屈することなく、非暴力の責任あるやり方で抵抗することができるようになる。さらに、この運動は占領が高くつくものだということを示し、イスラエル市民社会に暮らす人びとが政府に説明責任を果たさせようとしたり、国益を損ない二国家解決案を破壊するような政策の終結を求める原動力となっているのである。

二国家間レベルでも他国家間レベルにおいても、あるいは公的領域においても私的領域においても、多くの国が入植地の企業との繋がりを断つようになってきている。国内法や国際法に定められた政策や原則を実行しようとするこうした歩みは、入植地拡大というひどく有害なイスラエルの政策を前に、二国家解決案を救い出そうとするものだ。

パラダイム・シフトが起こり、交戦規定が変わったのだ。世界の市民、国家や政府はもはや「大イスラエル」を建設しようとするイスラエルの馬鹿げた暴走も、占領や差別といったアパルトヘイト政策も黙認できるほどの寛大さを備えてはいない。合衆国国務長官ジョン・ケリーがこの現実をほのめかしたとき、イスラエル高官たちはその言葉を気に留めるどころか、こうした言葉を発する人びとに対するヒステリックなキャンペーンを始めたのだった。

いかなる歪曲や「ハスバラ」(※1)も(いかにそれらに潤沢な資金が費やされていようとも)、こうした国際的な運動に対抗することはできないだろう。イスラエル政府がいつまでも国際法や国際人道法を軽視して違反を繰り返す限り、使い古された「非正当化(delegitimization)」(※2)や反イスラエル主義の偏見といった呪文はもはや意味を持たないからだ。

もしもイスラエルが植民地化や民族浄化という占領計画だけに依って自らの存在を規定することを選ぶのなら、自らが招いた「非正当化」に対する責任を負わされることになるのである。

※1 ハスバラ:イスラエルが国外で、自国の政策(とりわけ対アラブ・対パレスチナ政策)に賛同する世論を形成し、イスラエルの国際的イメージを向上させるために行う広報活動。

※2 非正当化(delegitimization):BDS運動等の動きについて、(ユダヤ人国家としての)イスラエル国家そのものの正当性を切り崩そうとするものだとイスラエル政府が非難する際の常套句。

ハナン・アシュラウィはPLO執行委員、PLO文化情報局局長。


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