『泣き虫しょったんの奇跡』を読みました。

2010年3月10日分から、試験的に書いています。
本家(2009年1月5日〜)は、こちらです。
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先日観た映画『泣き虫しょったんの奇跡』が面白かったので、瀬川晶司五段が
書いた原作(自伝的エッセイ)を読んでみました。


やっぱり面白かったですが、逆に映画の構成の上手さを感じました。
原作エピソードの取捨選択、改変が非常に素晴らしいです。
監督・脚本の豊田利晃さんの手腕を再確認する結果になりました。
映画の脚本って、こう書くんですね。
映画と原作を少し比較してみます。役名は、映画版を使います。


○父母
映画では、庶民的な雰囲気でしたが、原作では父は技術系会社員、母はオペラ好き
と映画とは全然違う(笑)。國村隼さんは、技術系会社員には見えない(失礼)よなぁ。


○兄弟
原作では瀬川さんには兄が2人いますが、映画では1人に纏める。
これによって、兄弟のエピソードが引き締まりました。


○鹿島澤先生
これは、原作通りです。
出会いからドラえもんの葉書まで一緒です。
原作によると、瀬川さんはプロになってからも、先生に会えていないのですね。


○唯一の恋愛部分。
瀬川さんに想いを寄せる女性を、はずみで突き飛ばしてしまう場面(笑)。
原作では高校のクラスメートですが、映画では行きつけの喫茶店ウエートレス。
学校生活の描写をカットするための改変ですが、とても感心しました。
高校生活を描くと冗長になってしまいますからね。


○アマ時代の実力
幼なじみの鈴木悠野との力関係の描き方が面白かったです。
中学名人戦のエピソードは、そのまま原作通りです。
工藤一男(将棋道場席主)が、瀬川・鈴木のブロック変更を談判する場面から鈴木君
が2位になる結末、瀬川さんが鈴木君に負けてトイレで泣くエピサードとか、本当
に何から何まで原作通りでした。
この結果を見ると、鈴木君が瀬川さんより少し強い。
原作でも、道場での昇段スピードが鈴木君の方が少し早い事が語られています。
だから、映画は全く正しいように見えます。


ところが、映画では中学名人戦の1週間前にあった中学選抜選手権のエピソードが
すっぽり抜けています。この2つの大会は、中学生将棋の全国大会です。
そして、何と中学選抜選手権では瀬川さんが、全国の中学生強豪達(後にプロ棋士
になってタイトル獲る深浦九段など)を負かして優勝しているんですよ!
瀬川さんが主役の映画で、このエピソードを省略するなんて凄い判断です。
私だったら、これでもかと描きそうです(笑)。


思うに、このエピソードを入れちゃうと「普通の才能の人が頑張って夢を叶える」
というメッセージ性が薄れてしまうからでしょう。
豊田監督は「将棋を知らない人にも分かるように作った」と語っていたので、実は
「天才がたまたま才能発揮出来なくて、そこから頑張った」では困るのでしょう。
似てるような気もしますが・・・。
ともかく、このエピソードを捨てたのは興味深かったです。


○エロ本エピソード
原作では、鈴木君とエロ本拾ったり買ったりと、TARITARIな話がありましたが、映画
ではカット。まぁ、本筋には関係ありませんからね。


棋士エピソード
映画ではよく分からなかった点が、原作読んでかなり解明されました(笑)。
アマ時代に奨励会員に勝った時、その奨励会員に「何やってんだ」と冷ややかに
言った先輩は日浦市郎八段だったそうです。


三段時代の重要な一局で、お腹の具合が悪くてトイレに行った人は勝又清和六段。
相手の1分将棋を、時間切れにさせなかった瀬川さんの甘さが出たエピソード。
退会寸前だった勝又さんは、この勝利が利いてプロになり瀬川さんは退会。
何てドラマチックな話なんだろうか。


瀬川さんのアパートに巣食ってた人達の中にいた山川孝という棋士
これは、「両取りヘップバーン」とかのダジャレ連発で有名な豊川孝弘七段だった。
演じた渋川清さんの風貌も、豊川七段にそっくりだった(笑)。
その豊川七段は、プロ編入試験の場面で久保利明八段役で登場。その久保八段も
別の役(本人役)で出演していてややこしいです。


原作はエピソード満載で、大抵のドラマよりも面白かったです。