梅田望夫×まつもとゆきひろ対談を読んで

すごく乱暴にトピックをまとめると、

  • 「世の中をよくする」というシリコンバレー精神
  • 技術者がプロジェクトのリーダーを務めるのがオープンソース
  • 好きだからずっとやってて苦にならない
  • 大金はいらないが、生活に不安がない程度に蓄えはあったほうがいい
  • オープンソースで飯を食える時代は既に始まっている
  • 英語が下手でも問題ない。皆それでやってるんだから打って出よう
  • 英語圏のネット空間は圧倒的に広い。日本語圏の10倍ぐらい
  • Matz氏のようなロールモデルの存在は重要
  • 今の10代は自然とネットで能力を増幅する力を身につけている

といったところかな。対談企画でここまで楽しそうなのも珍しい。とにかく「この人たちはどこまでネット好きなんだ」と思わされる。

ここ数年、エンジニアの活動範囲が目に見えて広がっているのは確かに感じるし、世間の理解も少しずつではあるけど進んでいるようにも思います。

ただ、読んでいると逆に「恐らく自分はどうやってもこの領域には行けないだろう」という寂しさというか、取り残されたような気持ちを抱いたのも確かで。自分はそこまでストイックにコードを書くことにのめり込めないなというのが正直なところ。ネットだけでない「こちら側」にも自分のやりたいことは多いし、ゆっくり過ごす時間も大切にしたい。もうこの時点で「ネットで生きること」のモチベーションが違いすぎる。

とは言え、彼らのようなロールモデルが存在することで、自分もがんばろうという気にさせられるのは確かだし、その存在はありがたいことこの上ない。自分が通るかどうかは別として、そういう道があることを身をもって示してくれる両氏は本当に素晴らしいと思います。

それでも「やっぱり遠いところにいるんだなぁ」と感じてしまったのが、後編の冒頭にある生活不安に関するくだり。まつもとさんにとっての「不安がない蓄え」は

僕が事故で入院しても,とうぶんは子供が「おなかすいたよお」って泣かないですむことですね。数カ月分の貯金があれば。

とおっしゃる。全体の文脈からは「この程度でいいんだよ」という意図を感じずにはいられないのだけど、これって実際には簡単なことじゃないでしょ、と思ってしまうわけです。

もちろん氏の功績を考えればささやかな願いだろうけど、Web業界全体の基準からすると結構高い要求なんじゃないかな。この場合の大前提である「結婚している」「子供がいる」というだけでも相当なハードルだなと感じます。僕は地方の零細Web業者からスタートしていくつかの会社で仕事をしてきたけど、そこで養ってきた感覚では結婚して子供を持てるというのは結構な贅沢のように思われてなりません。最初にそんな違和感を抱いてしまったがために、後編は複雑な気持ちで読むことになってしまいました。

この業界に限ったことではないけど、20代・30代で子供どころか結婚もできないような経済状況というのは珍しいことではないでしょう。確かに、能力的にも優れ、チャンスを手にする力もある若者に道が開かれつつあることの実感もありますが、そうでない大多数(じゃないかと思う)のWeb業界で働く人々はどうすればいいんでしょうね。

「本人のスキルや努力が足りない」と切って捨てるのは簡単だけど、本当にそれでいいのか?という思いが拭えません。この対談の本誌がそこにないのは百も承知だけど、そんなことばかりが気になってしまう。このところ「楽しい仕事」と「食っていくこと」のバランスということについて考えることが多かったからなんだけど。

ま、それはさておきコードを書こうか。楽しく食っていくために。