男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル』★★★

ゲイリー・ライドストローム

アイアン・ジャイアント』のブラッド・バード監督初の実写映画。アニメ畑の人物が実写作品を手がけるというと、コンテやレイアウトにガチガチに縛られてしまうという先入観がありますが、ブラッド・バード監督はそういった部分もキチンとコントロールしており、ライブ感覚をキチンと取り込んで問題なく演出しています。勿論アニメ出身の監督らしく、レイアウトやコンテによる事前の演出コントロールが巧みに生かされている場面も多く、彼の起用は大正解だったのではないでしょうか。

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スパイ大作戦』の映画化という前提が守られており、テレビシリーズのテイストが随所に顔を出す。ガジェットの使い方やチーム・メンバーのスキルを効果的に用いて、前シリーズにありがちだった「ただのアクション映画」に陥らない工夫が成功している。

特にチーム・メンバーのキャラクターとスキルの使い分けや描き分けはやたらと丁寧で、リアリティに偏らずファンタジックな味付けも『スパイ大作戦』のフレーバーを感じさせる。

トム・クルーズの一人舞台になりがちなシリーズの方向性は相変わらずだが、それでもイーサン・ハントというキャラクターがただの「無謀」な人間に見えないシナリオの力は大きい。中盤の見せ場であるドバイの超々高層ビルのアクションでは、「何か他の手はないのか」と真顔で外壁アクションを渋る姿が絶品。どうしても「アクションのためのアクション」になってしまいがちなこの手のアクション・シーンにスリルとユーモアを丁寧に盛り込んでいる。

ドバイの高層ビルにおけるブラッド・バードのカメラワークは近年稀な高所恐怖症感が味わえる。『カリオストロの城』などの宮崎駿監督のファンである同監督の愛情あふれるレイアウトに唸る。ただ一つもったいないなと思ったのは、「高所効果=俯瞰」というセオリーに縛られすぎている事。1ショットでもいいから「何も遮るモノのない塔が天に屹立している仰角」ショットをトム越しに観たかった。そのショットがあるだけでも足元がすくむ効果を生んだのではないだろうか。

高層ビルアクションで用いたゴーグルを、ギャグとして見せつつ、砂嵐のシークエンスで再度有効に使う小道具の処理は細かい部分だがこの作品が丁寧に作られている証拠。マイケル・○イに爪の垢を煎じて飲ませたい。

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中盤以降が極端に尻窄みになってしまうのは最近の大作映画の傾向としてこの映画も漏れておらず、実際の陰謀のスケールは巨大な割には敵も味方もこじんまりとした描写に収まってしまっているのは残念。どうでもいい年寄りと立体駐車場で殴り合いなど陳腐の極み。

カットバックによるサスペンスの盛り上げも成功とは言いがたく、どうせ何とかなるのは明白なだけにもう何個か工夫を盛りこまなければ退屈なだけ。

マイケル・ギアッチーノの音楽はラロ・シフリンの有名なテーマだけでなく様々なモチーフも流用しており、前述の『スパイ大作戦』風味を強化している。ただし、他の部分は耳に残らないのは残念。

スペシャル・イフェクツが冗談かと思うほど質が低いのも疑問。あれだけ実写部分と乖離していると、バード監督の指示による意図的なものかとも思えるのだが、何を狙っているのかは残念ながら不明。

しかし、それを補って余りある強烈なサウンド・デザインを手がけているのはゲイリー・ライドストローム。名前だけでもお釣りがくるぐらいの名サウンド・デザイナーだが、この映画でもクレムリン爆破シーンの地下からくる衝撃や、砂嵐内でのカーチェイスで抜群の音を聞かせてくれる。正面衝突した車がイーサンの間近に落下するシーンなどの硬質な響きは絶品。また、本編の中で最も印象に残った「クレムリン中枢部での潜入作戦」シーンでは、秘密道具として「水滴の音を擬似的に作る」装置が登場。ファンタジーにおける”腹話術”のスキルの変形。あのシーンでの音の定位感や、静まり返った通路におけるサスペンスを衣擦れや細かい呼吸音などで巧みに盛り上げる手腕は素晴らしい。また、音楽などに頼らずそのシーンを預けたブラッド・バード監督の選択も正しい。


手放しで満足できる作品とは言えないが、いつも何か欠けている消化不良感がつきまとっていた同シリーズの中では屈指の快作に仕上がっている。


もっとも、オープニングぐらいは『スパイ大作戦』風味ではなく、一作目のダニー・エルフマンカイル・クーパー並の盛り上がるテイストが欲しかったところだが(本作のオープニングも嫌いではないが)。



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ブラッド・バードはこの『アイアン・ジャイアント』が少しでも多くの人に観られ、そして資金の回収ができるように一生懸命大作を手がけているという発言をしているぐらい愛着があるようだ。そして、この映画を当時限定で公開していた同じワーナー・マイカルで本作を観られたのは偶然とは言え嬉しい。