BOY’S VOICE 新・永遠の少年たち

少年の声と少年文化に特化したブログです。

オリバー!とオリバー・ツイストの世界(1)

オリバー・ツイスト

このところ、映画&ミュージカル『オリバー』を立て続けに見る機会がありました。良く知ってるようで実のところ、ちゃんと覚えていなかった(汗)ということが証明されたストーリー。それは、


救貧院*1で生まれた孤児オリバー・ツイストは、劣悪な環境のもと、出された貧しい食事に「もっと・・・(下さい)」と言ったばかりに、外の世界へ追い出されてしまう。その後、家なしとなった彼はロンドンの裏町でフェイギンと泥棒一味と出会って行動を共にするが、稼ぎ頭の少年ドジャーのスリの現場で犯人と間違えられる。捕まったことから裕福な老紳士ブラウンローと知り合い、手厚くもてなされ幸運を掴みそうになるが・・・。


といった内容でした。かなり昔にTVでマーク・レスター主演のミュージカル映画『オリバー』を見て、更に輸入盤「Oliver!」のCDを購入していたものの、物語は記憶の彼方にありました。きっかけは、ジャッキー・クーガン主演の『オリバー・ツイスト』('22 米)のビデオを見てからです。


『キッド』の翌年に撮影されたクーガン7歳の時の作品なので、オリバー役のイメージからするとちょっと幼すぎますが、相変わらず小さな体でこれでもかの体当たりの演技。おかっぱ頭も変わらずにスクリーンでちょこまか動きまわります。モノクロの無声映画だと、かなりリアリティが感じられるのですが、ジャッキーのプリティさは若干説得力が乏しいかもしれません。


(綺麗な服を着せられた時の愛らしさは格別でしたが)この映画で驚いたのは、泥棒一味の手下達が少年ではなく青年2,3名になっていたこと。教育的配慮なのでしょうか?ともかくも、この映画を見て「オリバーってこんな話だったのかぁ」と理解できました。

まさにリアルな人間描写、オリバー・ツイスト

今年1月28日に封切られたロマン・ポランスキー監督の最新作『オリバー・ツイスト』を観に行きました。『戦場のピアニスト』を見た時に、作風にかなり現実主義的な厳しさを感じたのでどうなることやら・・・と少し躊躇しながら見たのですが、非常にリアリティがあるものの、底辺にオリバーへの深い愛着を感じることができてホッとしました。ミュージカルで描かれる「オリバー」とは全く違っていて、オリバー・ツイスト少年の目を通して見える世界をキッチリ描いてます。


ロンドンへと歩いて向かったオリバーは、ろくに食べることもできず、靴もボロボロ、死んだ魚のような目をしています。目的地にはやっと着いたものの街中で力尽きて寝そべっている・・・どんなに限界な状況、貧しい格好でも、どこかしら気高い魂を感じさせるバニー・クラーク(BARNEY CLARK)が、とても好演していました。ことさら目を引くような派手な演技ではなく、声もか細くて、いつもオドオドと自信が無さそう。確かにオリバーという役は、滅多に人に笑顔も見せず、何かに怯えているようなタイプの少年が正しいのかもしれません。幼くしてかなりの演劇好きだというバニー少年のどこか”夢見る瞳”は印象的です。


映画はラストに向かって、どんどんバイオレンス&悲劇色が強くなっていきます。オリバーを庇おうとしたナンシーが恋人ビル・サイクスに撲殺され、オリバーも絶対絶命「逃げきれるか・・・?」というハラハラな場面、そして、ラストシーンで悪党だが憎めないフェイギンとオリバーの別れのシーン、映画的な見せ場を丁寧に描いてました。この印象的なラストシーンは、これまでで初めて見たものでした。ミュージカル版と全然違うんですね。


この映画の一番凄いのは、プラハに建てられた19世紀ロンドンの街並みを再現したセット。今まで映画に出てきたどんなロンドンとも違う、ピッカピカの石畳と明るい陽光に驚きました。更に少年達の衣装も当時の材質で作られたものでかなり着心地悪そう(笑)です。


映画で着用されたオリバーの衣装。(劇場で展示されてました。)


通行人をはじめとする多くのエキストラまで「当時ロンドンに住んでいた市民の顔」をイメージして選ばれた、ということですから(すごいマニアック!)気合とお金のかけようが違います。全てをひっくるめてとても強い印象が残った映画でした。「オリバー」映画の集大成となる作品かもしれません。

(次回は、ミュージカル編「オリバー」について書きます。)


オリバー・ツイスト(上) (角川文庫)

オリバー・ツイスト(上) (角川文庫)

原作です。

オリバー・ツイスト [DVD]

オリバー・ツイスト [DVD]

DVDが発売されました。


boysvoice-2.hatenablog.com

*1:イギリスの貧民収容施設。17世紀後半から20世紀初頭までみられた−『大辞林』より