本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

キアズマ/近藤史恵

自転車ロードレースのプロ選手がレース中に巻き込まれるトラブルを描くサクリファイスシリーズの一冊だが、登場人物がほんのわずかに重なるだけで、プロの世界ではなく、学生の自転車競技の世界を舞台にした自転車青春小説である。

柔道部のしごきで友人が障害者にされてしまったこと、そしてそれを助けられなかったことを心の傷にしている主人公岸田雅樹は、新入学の学内で自転車部の学生とのトラブルから交通事故を起こしてしまい、責任を取る形で自転車部に入部する。

元々鍛えた体を持っている雅樹は才能を発揮して自転車にのめり込んでいくが、過去の傷が立ち現れたり、ヤンキー感丸出しの先輩櫻井元紀との葛藤があったり、単に自転車に目覚めてハッピーというようなものではなく、複雑な展開が読みどころを多くしている。

自転車の場面はさすがに手慣れたもので、読んでいても疾走感が味わえる。そして、自転車競技の複雑な駆け引きなどもサスペンスを膨らませている。

挫折と再生を描いていて、青春小説の王道とも言えるが、一筋縄ではいかないのはさすがにミステリー作家の腕かも知れない。