エンリコ・フェルミは近代物理学を勉強した人ならみんな知っている物理学者です。あるいは物理学を勉強していなくても、アメリカの核開発史に関して本を読んだことがあるのなら、量子力学の解説書を読んだことがあるのなら、半導体工学を学んだことがあるのなら知っている名前です。
その彼が職場の仲間と昼食後の雑談で宇宙人がいる確率を論じたときにふと漏らした質問が、この本の主題です。「みんなどこにいるんだろうね」。
広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス
- 作者: スティーヴンウェッブ,Stephen Webb,松浦俊輔
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2004/06
- メディア: 単行本
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主題は単純ですが、内容は恐ろしく広範です。全体は大まかに三つに分かれており、それぞれの範疇ごとに地球外知的生命について各種の仮説やシナリオが論じられます。
- 実は来ている
- 存在するがまだ連絡がない
- 存在しない
想像どおり、1部はやや荒唐無稽な話が多くを占めます。ところが、2部になると突然通信技術や航宙術の話が始まります。そして3部になると宇宙論や進化論、分子生物学、統計的予測などがからんできます。その広がり方はまさにめまいがするほどで、通俗的科学解説書好きなら大喜びすること間違いなしです。
内容に関しては序盤、三段論法の説明でいきなり派手な間違いがあり、ちょっと心配してしまいましたがあとはしっかりしており一気に読み進むことができました。範囲が広いだけあって初めて目にするような話題もあり、お得に思えました。語り口は平易です。
主題に関してですが、これだけの説を読み終えると、改めてフェルミの問いの深刻さが突き刺さります。筆者は最後に自説を披露していますが、一冊読み終えた後では非常に説得力のある説に思えます。私自身はというと、恐竜時代に知的生物が現れなかったことが気にかかります。数千万年の長きにわたって地球上のあらゆる場所の空・陸・海に進出したうえ、二足歩行までなしえていた恐竜がなぜ知的な種を生み出さなかったかに思いをめぐらすと、知的生物が本当に進化の必然なのか、疑問を持たずにはいられません。
好奇心だけで気楽に読んでもよし、それぞれの説に真剣に向き合ってもよし、間口が広くて多くの人に楽しめる本に仕上がっており、お勧めできます。