供給曲線を成立させる仮定は相容れない
供給曲線を成立させるために、一般に以下のような反現実的な仮定がなされている旨、先日のエントリに書きました。
これらの仮定は、反現実的なだけではなく、相互に矛盾する相容れないものです。
水平な需要曲線は需要量が無限大であることを意味する
水平な需要曲線は、需要量が無限大であることを意味し、市場価格でいくらでも売ることができることを意味しています。個々の企業にとって、需要量が無限大であるかのように行動すると仮定されています。
限界費用逓増は需要量(の増加)が小さいことを仮定している
限界費用逓増は需要量(の増加)が小さいことを仮定した上での仮定です。
例えば、『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』(井堀利宏著)の50ページ目には以下のように書かれています。
たとえば、労働者の働く時間が長時間になると、生産の増加スピードは下がります。しかし、賃金は時間当たりで一定額を支払うことが普通ですから、仕事時間が増える分だけ賃金の総支払額が増加して、企業にとっては費用がより増大する結果となるからです。
ここでは、「労働者を増やして、労働者一人当たりの働く時間は増やさない」というケースが排除されています。これは、「需要量(の増加)が小さい」という仮定の下でしか合理的ではありません。
「需要量(の増加)が大きい」場合、限界費用を抑制するため、人を雇い、設備を増強することが、合理的になります。需要量に対応し生産量を増やせば総費用も増大しますが、限界費用を低く抑制することにより総費用の増大を抑制し、利潤を最大化できます。生産量が大きければ大きいほど、限界費用を低く抑制することは効果的です。
需要が十分に大きい場合、労働者を増やしたり、設備を追加したりすることで、限界費用を低く抑制できるのならば、企業はそれを行い、供給量を増やします。
労働者や設備が一定のままというのは、需要量や、需要量の増加が小さい場合、もしくは、需要量の増加がごく短期間といった場合でしょう。
供給曲線は、「需要量が無限大」かつ「需要量(の増加)が小さい」という矛盾する仮定の下にある
このように、一般に供給曲線は、個々の企業にとっての「需要量が無限大」かつ「需要量(の増加)が小さい」という矛盾する仮定の下にあります。したがって、これらの仮定の下では、論理的にも供給曲線は成立しません。