瀬戸口明久(2009)「「自然の再生」を問う――環境倫理と歴史認識」

きょうの授業の発表資料。

2010年4月15日(木)
2010年夏 科学史III 「科学史学の地平と試み」


瀬戸口明久(2009)「「自然の再生」を問う――環境倫理歴史認識
鬼頭秀一・福永真弓編『環境倫理学』 pp. 160-170.
住田 朋久


10.1 自然保護と歴史認識

自然保護は「過去から変わらない自然」を残すために始まった(Guha, 1999)。
最近は「過去の自然」を取り戻すことを目的とするものが少なくなく、「過去の自然」をめぐる歴史認識が繰り返し語られる。
本章では、外来種問題、里山保全、自然再生事業の3つの自然保護において語られる、過去の自然をめぐる歴史認識を検討する。


10.2 外来種をめぐる歴史認識

2005年、外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)。
「もともとの自然」を取り戻すため、外来種を駆除できるように。
生物を移動させてきたことを反省する「反省史観」。
↔ 外来種とつきあってきた人間の側の多様な歴史。
沖縄でネズミやハブを駆除するマングース。緑化のためのギンネム


10.3 里山をめぐる歴史認識

2007年「第三次生物多様性国家戦略」〔や2010年「SATOYAMAイニシアティブ」(社会生態学的生産ランドスケープ)〕。
日本の里山が持続的に利用されてきたという「共生史観」。
しかし実際にははげ山も多く、農村の周りも「草山」だった。

委員「里山というものを一つのものにまとめてしまおうとする整理の仕方は一番危険。むしろ「日本」の里山というものは実はないと認識すべき。・・・里山は日本という国がつくったのではなくて、そこで生活していた人々が生業の中からつくってきたもの。こういう形でひとつにまとめてしまうと里山の理解をむしろそぐのではないか。」(「第三回里地里山保全・活用検討会議議事概要」、2009年3月4日)


10.4 自然の再生を問いなおす

2003年、自然再生推進法。
コウノトリ野生復帰事業、地域の人々の語る歴史認識は「美しい過去」ばかりではない。

「美しい過去の自然」が守るべき対象として語られるとき、人々が持つ歴史が切り捨てられ、単一の歴史認識がおしつけられるおそれ。
語り残しを問いなおす。


「環境の理念の問題の歴史的政治性に深い関心を持ち、現実の政治のなかに身を置く環境倫理学や地域研究、生態学の研究者を冷やかに見つつも、理念の問題に鋭い問題提起をしている。」(鬼頭、p. ii)


・ 何のために歴史を語るか。あえてその歴史認識を選んでいる側面も。

環境倫理学

環境倫理学