Rudwick 2008 Chap. 9 層序学・古生物学・地球物理から地球史へ

Worlds Before Adam: The Reconstruction of Geohistory in the Age of Reform

Worlds Before Adam: The Reconstruction of Geohistory in the Age of Reform

Ch. 9 The engine of geohistory (1824-29) 地球史のエンジン


9.1 Brongniart’s global stratigraphy ブロンニャールの地球層序学

 地球史の基礎として層序学を用いるためは、信頼できる層序学が必要だった。1820年代には地質学者は少なくとも二紀層の層序学については自信をもつようになっていき、1829年、ブロンニャールは「地球の地殻構造の理論」でそれまでの層序学の研究をまとめあげた。これは、地球史を探究するための信頼できる枠組みとなった。
 そこには生命の歴史も描かれている。爬虫類は哺乳類より先行するというキュヴィエの推測は20年以上にわたって追認されていた。魚のようなより「下等な」脊椎動物は二紀層の古いところにおかれ、地球史が進むにつれて「高等な」生命が加えられた。これらは脊椎動物の指向性 directionality 、そして進歩を示しており、さらに生命の歴史全体にもあてはまると考えられるようになった。その原因として、地球の冷却が考えられるようになっていた。


9.2 Fourier’s physics of a cooling earth フーリエの冷却地球の物理

 18世紀の末にラプラスは太陽系の起源を説明するために「星雲仮説」を提唱し、地球は熱い状態から冷えてきたと考えた。フーリエは現代でいう物理学で多くの業績を残したが、自分の理論を地球物理学や、ラプラスのような宇宙論に応用することを目指していた。
 ラプラスは一日の長さが変わっていないため古代から地球は定常状態にあると考えたが、フーリエはいまも地球の内部は熱いままであり、地球史の初期には急速に、そして徐々にゆっくりと冷えていったという「指向性」を提示した(「地球の長期冷却」1820、「地球の温度」1824)。
 フーリエの理論を補完したのはコルディエである(「地球内部の温度」1827)。地温勾配に注目して、地殻は薄く、地殻の冷却によって地震や火山が生じるとした。こうした観察や推測は19世紀末まで地球物理学の議論を活気づけた。


9.3 Scrope’s directional geotheory スクロープの指向的地球理論

 ロンドン地質学会ではフーリエのモデルは、コルディエによる補完の前に、新人スクロープによって紹介されていた。スクロープはフランスやイタリアに6か月滞在し、フランスの死火山について詳しく記述した(1822)。1824年にスクロープは推薦されてロンドン地質学会に入会し、さらに書記になった。
 スクロープは『火山考』(1825)で、火山の原因を検討し、その地球史を描くことに加えて、創立以来学会が拒絶してきた、新たな地球理論の確立をめざした。そこでスクロープは、観察できることを研究しつくす前に推測することを批判し、現在因の価値を主張した。
 しかし、スクロープによる現在因の強調は、同じ状態の繰り返しというハットンの説とは異なるもので、冷却が進行するという指向的なものだった。とはいえ、山の隆起や津波など急激な出来事を否定しているわけではない。


9.4 Élie de Beaumont’s sequence of revolutions エリー・デ・ボーモンの変革の連なり

 同じころ、もうひとつの主要な理論が形をなし、スクロープの理論と結びついた。フォン・ブーフは、火口などの隆起とともに、〈過去の〉地殻の動きを描き、欧州では4回の褶曲や断層が生じたと結論づけた。しかしこの考えを発展させたのは主にエリー・ドゥ・ボーモンだった(1829-30)。エリー・ドゥ・ボーモンはキュヴィエによる突然の変革とフォン・ブーフによる山脈における褶曲を結びつけただけだと述べるが、9つもの変革を扱い、独創的な図にまとめあげた。エリー・ドゥ・ボーモンはこれらの変革を長い穏やかな時期を中断させるものとして描いた。デ・ボーンによる統合の革新性は正確さにある。これは、変革の相対的な時期がわかるような化石に基づく層序学を用いたことによって実現された。こうして、層序学、古生物学、地球物理学が統合されることが示唆された。エリー・ドゥ・ボーモンは印刷物では因果の説明は拒絶したが、口頭では、冷却に伴って地球が縮むことで変革が生じると述べている。


9.5 Conclusion 結論

 層序学、古生物学、構造(テクトニクス)地質学の統合は大きな影響力をもった。それを説明する前に、当時の地質学者が変革の合間の地球の状態をどのように考えていたのかを明らかにしよう。