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2006-06-12

[] Smalltalk は死んだ言語だ。by アラン・ケイ


Matzにっき - Alan Kayといっしょ日本 Ruby カンファレンス 2006(RubyKaigi)の まつもとさんの基調講演での言及から、一部の隠れ Smalltalk ファンの方々には衝撃をもって受け止められたり、あるいはおもしろおかしく取り上げる向きもある、くだんのセリフ。実は、アラン・ケイが Smalltalk への失望や批判的評価を述べることはそんなに珍しいことではありません。(…ので、びっくりしちゃった人は、これを機会に“耐性”を持つようにしましょう!w)



たとえば、このブログではお馴染みの The Early History of Smalltalk には、こんなくだりがあります。

When I looked at Smalltalk in 1975, I was looking at something great, but I did not see an enduser language, I did not see a solution to the original goal of a "reading" and "writing" computer medium for children. I wanted to stop, dynamite everything and start from scratch again.

The Early History of Smalltalk

もうすでに30年前に(つまり、Smalltalk-80 が '81〜83 にデビューする5年以上も前に!w)、アラン・ケイは Smalltalk のあり方に疑問を呈していたわけです。



OOPSLA'97 カンファレンスの基調講演でもこんなことを言っています。

Smalltalk died when it left Xerox Parc and became a fixed environment unable to evolve into something new.

Jeff Sutherland's Object Technology Web Site - 13 October 1997 - Will Squeak Save Smalltalk?


最近もインタビュー記事で、こんな発言もありました。

Basically what happened is this vehicle became more and more a programmer’s vehicle and less and less a children’s vehicle―the version that got put out, Smalltalk ’80, I don’t think it was ever programmed by a child. I don’t think it could have been programmed by a child because it had lost some of its amenities, even as it gained pragmatic power.

So the death of Smalltalk in a way came as soon as it got recognized by real programmers as being something useful; they made it into more of their own image, and it started losing its nice end-user features.

A Conversation with Alan Kay - Lisp

まつもとさんとの会話でくだんのセリフが発せられた文脈は、その場にいなかった私が知るよしもないのですが、少なくとも、これまでの同様の発言においては、コンピュータ・リテラシー教育を意識した当初の開発目的を鑑みて、子供向け、エンドユーザー向けではなくなってしまった時点で、あるいは、さらにそうした傾向が進むことで、商用化や標準化が新たな目的となり“変化すること”をやめた時点で…、ということのようですね。たしかにそういった前提ならば、「(アラン・ケイにとっての)Smalltalk は死んだ」という言葉が設計者、自らの口から発せられたとしても、それは、高い理想を持つアラン・ケイならば、なおさらのこと、しごく当然のことのように思われます。


同じ「 Smalltalk は死んだ」でも、自分は Smalltalk が有効活用されている場面に遭遇したことがない…という文脈で、それこそ 3 + 4 を print it したこともないような Smalltalk のスの字も知らない輩にしたり顔で言われるのとはわけが違います。w (まあ、実際は、こういうことを書いたり言ったりする人の多くは、Smalltalk で昔、自称それなりに仕事をした経験がある…という人が多いのですが(^_^;))


たしょう杞憂に過ぎるとは思いますが、今回のことで「Smalltalk は死んだ言語だ」という衝撃的なフレーズや、それをアラン・ケイの口から(ここにきての、まさに打ち明け話のように)発せられたという事実(や、事実に反するイメージ)だけが一人歩きし、すでに生みの親にまで見捨てられた過去の遺物である Smalltalk から学ぶことなどもうありはしない…というような早とちりをしてしまう人が出てくることのないようにと、切に願うばかりです。



追記

冒頭でご紹介している まつもとさんの講演の内容が音声データとして公開されましたので、くだんの「…は死んだ」フレーズだけが取りざたされて誤解を生むことのないよう、言及の前後部分について書き起こしてみました。

で、えーと。アラン・ケイ、という人がいましてね。Smalltalk を作った人。[はい? だれ、誰ですか、なんか言った? ん、うん。] で、アラン・ケイという人がいてですね。えーと、これ、Smalltalk をデザインした人なんですけれども。で、えー、この人、今、日本に来ててですね、おとつい、えー、お昼ご飯を食べに。なんか、おいしいお昼ご飯をごちそうになってですね、ラッキーって感じなんですけれども。


で、えー、Smalltalk について話をしました。で、ですね。アラン・ケイ。ああ、今日の日記のエント…、ああ、今日書いた日記のエントリーを見たかたはお気づきかもしれませんけど、アラン・ケイ、なんか結構不穏当なことを言ってですね「Smalltalk はもう死んだ言語だ」とかですね[しばし笑い]。とか、あのぉ、いや、「僕は Ruby が好きだ」とかいって、「もう Smalltalk は好きじゃない」とかですね[笑い]「Squeak を作ったのは、ツールが欲しかったからで、別に Smalltalk を復活させたかったからじゃない」とかですね、かなり不穏当なことを平気なこと、平気な顔で言っててですね。で、「僕、ブログ書いているんだけど、それ書いてもいい?」って訊いたら「いいよぉ」とかって非常に気楽に言ってましたので、ええ。…、だそうです。


で、えーと、アラン・ケイが言うにはですね、あの、Smalltalk-80 っていうのは、えー、実際は、その、ま、彼が、ほんとにその、最初、ダイナブック構想の中で作ろうと思っていた、そのぉ、ま、言語ではないというふうに言うんですよね。一番近いのは Smalltalk-76。ま、(Smalltalk の)76 年版ですね。


で、えー、で、そのあと、まあ、コンセプトのアラン・ケイと、その、実装の…デ、あーなんだっけか、ああダン・インガルスか、とのあいだの、非常に、こう、せめぎ合いがあってですね、で、こう、ま、最終的には LISPer(…的なもの)が勝ってですね、ああいうこう非常にシンプルな Smalltalk-80 ができたんだけれども、アラン・ケイ自身が欲しかったのはどっちかっていうと、こう、もうちょっと、なん…、トラディショナルというか、文法なんかもメッセージングじゃなくてもいいじゃんとかという感じなものだったらしくて、ですね。


えー、僕まだ、ちょっと確かめて…、まだ裏とっていないんですけど、アラン・ケイが言うにはですね、「Smalltalk-76 は(Smalltalk-80 より)もっと Ruby に近かった」と、いうふうに言って、「Ruby、いいよね」とか言ってくださいましたので、ラッキー。


Ruby と Smalltalk-76 との類似点(あくまで、エンドユーザーから見た表層的な…ですが)やその関連した事柄については、私なりに調べて、次に挙げるエントリーでまとめてありますので、よかったら訪ねてみてください。

abeeabee 2006/06/12 17:44 最近のコミュニティ行脚は、本当の意味で「コンピュータ革命」を起こすには、それぞれの立場を越えて、皆の力を結集しなければならないと言うことでしょう。
過去に作られたものは常に過程に過ぎないので、執着を戒めているのかもしれません。
ただし、少なくとも現時点において、アランさんご自身も含め、一緒に開発している連中は、主にSmalltalkを(改良しつつ)使っているのは事実です。

まつもとまつもと 2006/06/12 18:48 Smalltalkの発展のじゃまをするつもりはないので、迷惑をかけたのなら「ごめんなさい」です。

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