漁村と共同体(メモ)

村と土地の社会史―若干の事例による通時的考察 (人間科学叢書 14)

村と土地の社会史―若干の事例による通時的考察 (人間科学叢書 14)

岩本由輝『村と土地の社会史』(刀水書房、1989)「はじめに」から、少し抜き書き;


(前略)漁村が漁村として成立するにはかなり広汎な商品経済の展開を必要とするわけで、海や川に面しているからいつでも漁村であると考えるのは早計である。自給経済のもとでは漁村は成り立たないのであり、海産物が商品化される条件が形成されてはじめて漁村は社会的分業の一端をになうものとして登場するのである。しかし、そのようにして成立した漁村の場合、生産手段である漁場は耕地のように分割されるというわけには行かなかったから、共同体的所有が貫徹されなければならなかった。こうして海産物の商品化と漁場の共同体的所有の貫徹という一見して矛盾した状況が現出されることになったのである。そこに近世における村落共同体の性格が濃縮されているということができる。すなわち、海産物の商品化により生産者の欲望は胃の腑の限界を越えて無限の広がりを持つようになるが、もしその欲望のままにまかせれば資源の荒廃を招くことになる。そこで漁場の利用をめぐって成文化された共同体規制が作られ、生産力の上昇とともに一層の強化・精緻化をみるようになる。そのことだけをみると、時代がさがるにつて、共同体がそのものとして強められているようにみえるが、その内容をみると、「……すべからず」という類の禁止条項が多いことがわかる。人は現に存在しない事柄を予測して、それを禁止するという措置をとることは少ない。だから、禁止条項が多いことは、そのようにして禁止されなければならない、いわば反共同体的な事態が海産物の商品化によって現実に多く発生していることを示すものである。(後略)(pp.26-27)
共同体成立の条件は同時に共同体「解体」の条件でもある?