Living, Loving, Thinking

2018-04-20

「月の着陸した当日」

ムーン・パレス (新潮文庫)

ムーン・パレス (新潮文庫)

ポール・オースター*1『ムーン・パレス』から。

最後の数冊をチャンドラーの店に持っていったのは*2、たまたま宇宙飛行士たちが月に着陸したその当日だった。九ドルとちょっとの売り上げを手に店を出た僕は、ブロードウェイの帰り道を歩いている最中にふと気が向いて、クィンズに寄ってみることにした。クィンズは一〇八丁目南東の角にあった。地元の連中のたまり場になっていた小さな飲み屋兼食堂である。おそろしく暑い日だったし、ひとつ気張って十セント・ビールを一、二杯飲んでも罰は当たるまいと思ったのだ。僕は三、四人の常連と並んでスツールに腰かけ、薄暗い光と、エアコンの涼しさとを満喫していた。大きなカラーテレビがついていて、ライウィスキーバーボンのボトルに不気味な光を投げかけていた。そんなふうにして、僕はその出来事を目撃したのだった。もこもこに着込んだ二つの人影が、空気のない世界に最初の一歩を踏み出し、玩具の人形のようにあたりを跳ね回って、埃に囲まれて、ゴルフ・カートを引きずり、かつては愛と狂気の女神にほかならなかった星の、その目に旗を突き立てたのだ。光輝くダイアナよ、と僕は心のなかで言った。我らの内にひそむ暗きものすべての象徴よ。やがて大統領演説をはじめた。物々しい、抑揚のない声で、これぞ人類誕生以来最大の偉業であると大統領宣言した。店にいた常連たちは、それを聞いて声を上げて笑った。たぶん僕も、にやっと笑うくらいはしてみせたと思う。だが、その科白がいかに馬鹿げたものであれ、誰にも否定できないことがひとつだけあった。すなわち、楽園から追放されて以来、アダムがこれほど故郷から遠く離れたことはかつてなかったのである。(pp.51-52)

私の記憶では、その「当日」、日本の関東地方では曇りだった筈。


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*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080204/1202096588 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080205/1202235727 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080211/1202747698 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080224/1203875355 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080312/1205292138 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080405/1207333508 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080418/1208492391 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080923/1222197918 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080924/1222265652 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090622/1245646755 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090830/1251570565 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090912/1252725447 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091028/1256705010 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100811/1281540825 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101222/1293049841 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120211/1328987138 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130226/1361850355 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160802/1470138026 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160818/1471499888 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160821/1471797879 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160827/1472320852 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160829/1472446296 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160902/1472795375 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170904/1504545310 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180410/1523327198

*2:「僕」は「ビクター伯父」の遺産である大量の書籍を読んではコロンビア大学「の真向かいにあった、チャンドラー書店」(p.39)に売り、生活費を捻出するということをしていた。

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