Living, Loving, Thinking

2018-06-14

妊娠小説として

ムーン・パレス (新潮文庫)

ムーン・パレス (新潮文庫)

数日前にポール・オースターの『ムーン・パレス』*1を読了。オースターの小説はどれもそうなのだろうけど、そのテクストの中に、「深い余韻が胸に残る絶品の青春小説*2以外にも幾重もの意味の層を確認することができる。そうした豊饒な意味可能体を二言三言で要約してしまうのは野蛮かつ野暮なことなのだろうけど、孤児である「僕」(「マーコ・フォッグ」)が肉親と出会い、そして死別するという話ということになる。もうちょっと、詳しく言うと、「僕」は卒業した大学の紹介で、「トマス・エフィング」という偏屈な老人の家に住み込んで、彼の自伝(「遺書」)の口述筆記を行うことになるが、「トマス・エフィング」は「僕」の祖父であることが事後的に明らかになる。「トマス・エフィング」の死後、その息子である肥満体の歴史学者ソロモンバーバー」と出会うが、「僕」は彼が自分の実父だということに気づく(そこから遡行して、「トマス・エフィング」が祖父だということも)。

さて、斎藤美奈子さん*3に『妊娠小説』という本があるけど、そのタイトルをいただいて、『ムーン・パレス』は「妊娠小説」である(「妊娠小説」として読める)といいたい。「トマス・エフィング」がまだ「ジュリアン・バーバー」という名前だった頃、「エリザベス・ウィーラー」という女性と結婚したが、彼女は結婚して4年経っても夫とのセックスを拒否していた。「ジュリアン・バーバー」は南部の沙漠地帯への長期旅行を計画するが、出発の前夜になってやっと夫に体を許す(pp.221-224)。そのたった1回の交わりによって、彼女は妊娠し、「ソロモンバーバー」を産む。その数十年後、「オハイオ州オールドバーン」の大学の講師になった「ソロモンバーバー」は自らの歴史学の講義を受講していた「エミリ・・フォッグ」という女子学生と1度だけ肉体関係を持ったが、教師と女子学生との不適切な関係が発覚したため、彼が大学を解雇され、彼女は大学を中退し、ボストンの実家へと戻った。やはり彼女はたった1回のセックスで妊娠し、「僕」(「マーコ・フォッグ」)を産み、シングル・マザーとして実家で「僕」を育てた。このように、親子二代に亙って、たった1度のセックスで妊娠し子どもが生まれるが父母はそれから永遠に別離するということが反復される。孫(三代目)の「僕」(「マーコ・フォッグ」)はどうか。「僕」の恋人である「キティ・ウー」という中国系の女性が妊娠するが、「僕」の意に反して、中絶してしまい、それを契機に二人の関係は破局してしまう。この小説では、女性の妊娠によって物語が新しい局面へと進むことになる。ただ、、父や祖父と「僕」(「マーコ・フォッグ」)との間には、


1度限りのセックス/複数回のセックス

妊娠するセックス/妊娠しないセックス

出産/中絶


という対立があるのだが、その意味の差異についてはまだ明らかではない。

妊娠小説 (ちくま文庫)

妊娠小説 (ちくま文庫)

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