ミヒャエル・エンデ『モモ』、ほか


 ごく簡単に。例によって不親切なレビューです。


 『モモ』をたしか1か月ほど前に再読した。

愛蔵版 モモ

愛蔵版 モモ


 だいぶ前に読んでから人にあげたのだったろうか、長い間なくしてしまっていた。再び読もうと思って今年初めに買っておいた。

 今読むと昔のおぼろげな記憶とだいぶ違った。憶えていたよりもさらに豊かな物語だった。〈時間の花〉や不思議な声たちの描写を引用しようかと思ったが、部分的に抜き出しても味わいが損なわれるのでやめることにした。


 今回この『モモ』を読む前に私が読んでたのが、じつは『超「高速」時間術』とか『超「高速」整理術』といった本なんですよね。モモを読み終わってそのことに自分でちょっと笑った。

超「高速」時間術―「10倍頑張る人」より「10倍速い人」になる本 (成美文庫)

超「高速」時間術―「10倍頑張る人」より「10倍速い人」になる本 (成美文庫)

超「高速」整理術―10倍速く仕事をこなす魔法の習慣 (成美文庫)

超「高速」整理術―10倍速く仕事をこなす魔法の習慣 (成美文庫)


 だが私はこうしたlifehacksの類と『モモ』のメッセージを矛盾しない形で受けいれているようだ。その鍵はたとえば『TQ』のような考え方にあると思う。

TQ―心の安らぎを発見する時間管理の探究

TQ―心の安らぎを発見する時間管理の探究

  • 作者: ハイラム・W.スミス,Hyrum W. Smith,黄木信,ジェームススキナー
  • 出版社/メーカー: キングベアー出版
  • 発売日: 1999/01/01
  • メディア: 単行本
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 自分の価値観を宣言として言語化し意識する、自分の中での各種の価値の優先順位を明確にするという作業は相当しんどい。もちろん他人に内容を話す必要は全くないのだが、一つ一つ(本当にそうか?)と自分の内面に問いかけながらの試行錯誤になる。こんなことを思いつくのはさすが西欧人だなというか発想がバタくさいというか。たとえば『小倉昌男 経営学』に出てきたように、ただ「安全第一」と言うだけでなく、「安全第一、能率第二」とはっきりさせるのはあんまり私たちの発想にはないことだと思う。

小倉昌男 経営学

小倉昌男 経営学


 自分にとって何が大切かということを言葉にして自分の意識上明確にしていくこと自体、そもそも特定のパラダイムにしかあり得ないこととさえ言える。cf.religion of japan

 でもそのようにして自分が大切にするものをはっきりさせれば、その価値あるものに時間を割くため、それ以外の部分にかける時間を減らすことができる。その「減らす」という、まあ限定された領域において効率化は役に立つと思う。ここで何かにかける時間を「減らす」と表現した時点で私はエンデとは少し、でも決定的に違いが生じている(エンデが徹底していることは『鏡のなかの鏡』などでよくわかる)。が、なにが大事かというとそれは「大事なことはなにか」ということ。もちろんそれは自分にとって、ということでいい。

鏡のなかの鏡―迷宮 (岩波現代文庫)

鏡のなかの鏡―迷宮 (岩波現代文庫)


 私が読んだ中では『鏡のなかの鏡』にもっとも特徴的に現れていることだが、エンデの作品はどれも豊かなイメージに溢れていて、それぞれの場面や登場人物を何かのメタファーとして読み解こうとしただけでもかなり重層的で複雑な味わいがある。もちろんそんなことをしなくてもそのままの姿としてまっすぐに読むだけで何かに圧倒される、つまり物語としてたいへん優れた作品が多いと思う。何かに圧倒されるというのは、何かの感情にではない、あえていうならこの世界の不思議さに。

 その中で『モモ』は(ジム・ボタンシリーズ以外では)初期の作品ということもあってだろうか、比較的シンプルで読みやすいように思う。

 もしまだ『モモ』を読んだことのないかたがいたらぜひお勧めします。もう一おし、余計だろうなと思いつつも別の方向からアピールしてみますが、商業的なあざとさを帯びてしまった「ロハス」とは違う魅力的なスローライフに目が開かれますよ。