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夏コミ 日曜日 東地区“ホ”ブロック−08a

  

2015-04-18

[]あの頃「テキストサイト」を愛していたすべての人に捧げたいライトノベルがあります。『天網炎上カグツチ3』、本文一部公開。 12:28 あの頃「テキストサイト」を愛していたすべての人に捧げたいライトノベルがあります。『天網炎上カグツチ3』、本文一部公開。を含むブックマーク

こんにちは、ライトノベル作家の砂義出雲です。


私は『天網炎上カグツチ』というライトノベルのシリーズを書いておりまして、題材は「インターネット」の諸々となっております。

各方面でご好評いただいてます。ありがとうございます。

今週金曜日、その最新刊、3巻が発売になりました。

f:id:sunagi:20150418044507j:image:w200

この作品、1巻ではネット炎上、2巻ではリベンジポルノ、デスブログ、承認欲求などを題材に取り上げてきましたが、

3巻でひとまず区切りをつけることにしまして、さしあたって締めに相応しい題材の一つとして、とある念願の題材を扱うことにしました。


その題材につきまして、内容をお伝えするのに言葉を尽くすより、本文を一部引用した方が早いかと思いまして、

私に著作権のある文章ですし、今回ここに内容の一部を抜粋して宣伝させていただきます。


以下、本作「第二話」、本編からすると「過去編」にあたり、「西暦2001年」が舞台になっている、冒頭部分になります。

そんなに長くもないのでよろしければお読みください。

『天網炎上カグツチ3   カグツチ/GROUND ZERO』(抜粋)


 少年は時計を凝然と睨み付けたまま、ピクリとも動かない。

 その時が来るまであと、五分。やがて、短針は十一、長針は十二に重なり――。

「……回った!」

 午後十一時。『テレホーダイ』が始まる時間だ。

 少年は慣れた手つきで回線を電話機から引っこ抜き、モデムへと差し替える。


 当時、インターネットへの接続は電話回線を流用するのがまだ一般的だった。

 普通に使うと、接続料だけで三分十円。

 よって、電話回線の通話料金が定額になるその時間帯こそが、インターネットユーザーにとってのマジックアワーだったのだ。


 少年は逸る気持ちを抑えて、深呼吸してから『接続』ボタンにカーソルを合わせ、マウスをクリックする。

 そして、耳を澄ませて福音を聞く。

 自分を異世界に誘(いざな)う、魔法の旋律を。


 ポピピポピピポピポパ。ビーガガガポピーポピーウィンウィンウィンガガガガーガーガー。


 非日常感と、未来感と、期待が綯い交ぜになったような独特のパルス音。

 今夜もネットサーフィンの始まりである。


   *  *  *


 九十年代後半から○○年代前半ごろにかけて、この国にはテキストサイトという文化が存在した。

 当時はインターネットの回線速度がまだ貧弱で、画像を一枚表示するのにさえ膨大な時間がかかっていた。エロ画像を表示しようと思って数分放置して待ってたら、下半分が実はグロ画像になっていて腰を抜かす、みたいな悲喜劇が日常茶飯事だった。よって、ネット上でやり取りされる情報は自然とテキストベースになる。

 そのため、ネットで何かを表現しようとする者たちは、「歌ってみる」のでも「踊ってみる」のでも「ゲーム実況」でもなく、「文章」の力だけで人を魅了することを目指した。


 ホームページという文化は現在でも残っているが、その中でも特にテキストによる「芸」を中心に構成されたホームページ。それが『テキストサイト』だった。


 とりわけ二○○一年は、テキストサイト史においても重要な年であるといえる。

 この年、ネット界には、『魂侍』、『バーチャルネットアイドル・きゆ12歳』といった、カリスマ的人気を誇るテキストサイトが相次いで開設される。

 それはまるで、ビッグバンだった。あるいはカンブリア紀の生命大爆発のようだった。

 次々と彼らのスタイルを真似たテキストサイトが誕生し、人気を博していった。

 テキストサイト文化が一気に花開いたのだ。


 そして、ここに一人の少年がいる。

 一九八四年生まれで、娯楽も少ない地方に住まう高校生だった少年は、その洗礼を直撃で受けた。


 衝撃的だった。この世界の裏側には、別の価値観で動くもう一つの世界があるのだ。


 ある者は上司と喧嘩して無職になった顛末を面白おかしく書き綴り、ある者は二次元キャラクターとの新婚生活を克明に描写し、ある者はストーカー騒動に巻き込まれたことをユーモラスに表現していた。


 まだ高校生の自分にも想像が付く。この人たちは、たぶん世間一般的には「悲惨」と思われるような人生を送っている人たちだ。だけど、そんな人たちでも、ネットの中ではヒーローになっていた。


 年齢も、性別も、地位も関係ない。ネットでは、ただ文章が面白ければ、輝ける。


 現実世界では友達もあまりおらず、もちろん女の子とも話ができず、運動もできず、自分には何もないと感じていた少年にとって、その世界に憧れることは必然だった。

 猥雑で、面妖で、選民的で、その他この世のあらゆるドロドロしたものが詰まった世界だったことも、魅力の一つだった。


 そして、少年は先人に倣い、少しずつでも自分の妄想をテキストサイトにすることを始める。

 まず父親の契約していたプロバイダーから、空いているHPスペースを借用した。

 HTMLという言語の本を図書館で借りてきて、コマンドを写しながら手で打ち込んだ。

 『テキストサイト』文化の特徴は、「フォントいじり」と呼ばれる技術によって、フォントサイズや色を変更し、行間をたっぷり取って「間」を大切にすることだ。

 フォントの色を変える以上、背景は単色系などシンプルなものが好ましい。

 そうして数時間苦闘した末に、ようやくネット上から自分のホームページを初めて確認できた時には、涙が出るほど感動したものだった。


 構えたキャンバスは広大だ。

 だが、少年にとって、書くことはたくさんあった。

 現実には、つらいことがいくらでも押し寄せてきたからだ。

 つらいことがあればあるだけ、書くことはある。

 日常を、いかに面白おかしく表現するか。

 もちろん、最初は習作である。

 好きだったサイトのスタイルの模倣にすぎない。

 だが、少年はとにかく書いた。

 生きるために、文章を書き続けた。

 学校では、空気のような存在。いなくてもいい人。

 だけど、ネットの世界では確かに存在することができる。

 僕を見てくれ。僕の話を聞いてくれ。

 世界中のみんな、僕はここにいる。そう叫ぶように、キーボードを打ち続けた。

 誰かに楽しんでもらえるなら、自分の存在価値を生み出すことができる。

 そうやって、映画評も、漫画評も、音楽評も、偏ること無く載せた。

 書きたいという気持ちさえあれば、すべてがメインコンテンツだった。


 そのうち朧気ながらも自分のスタイルが出来てきたな、と感じられるようになった。

 オリジナルの小説なども載せ始めるようになり、掲示板に「面白かったです」、そんな反応でもたまにあれば、嬉しさに枕を抱えて転げ回った。

「新作出来たんで、よかったら読んでください」

「読みました! 面白かったです!」

 その繰り返し。

 だけど少年は、それで良かったのだ。

 そうしていつか、一つの人気テキストサイトが生まれた。


 少年の名前は、高浪栄太郎。


 これから語るのは、思い出すのも恥ずかしいような青春の話。

 花火のように燃え上がった、恋の話。

 そして何より、インターネットがまだ希望に輝いていたあの時代の話だ。

……ということで、今巻中、第二話の題材は「2001年頃のテキストサイト」になります。

テキストサイトを訪問するユーザーのアクセス数を燃料にして闘うヒーローの話とか、オフ会とか、フォント芸とかです。

『魂侍』『バーチャルネットアイドル・きゆ12歳』あたりが正しく変換できる方なら、きっと問題なくご共感いただけるかと。


そして、以上の文章でお解りかと思いますが、この章が中核を成す本巻は

私の人生と思い入れがぎゅんぎゅんに詰まった一冊となります。


Twitterでこんなことを書きました。

人生全部を込めた。

決して、これは過言ではないつもりです。


昔から現実に希望なんて持てなかった僕は、インターネットに生かされてきて、インターネットでずっと生きてきました。

中にはそれを暗い人生、つまらない人生と笑う人もいるかもしれません。

でも、僕にとってインターネットは、人生で何よりも切実なものでした。

だから3巻のオビのキャッチコピーは、僕が自分で作らせていただきました。

(写真:とらのあな秋葉原店A様twitter

それが『大事なものは、いつもインターネットの中にあった』です。

この本そしてシリーズ全体で、インターネットに対する思い、その全てをなんとかぶち込むことができたと思います。


なお、第二話は過去編ですが、もちろんその時代を知らない若い方にも、

僕たちネットユーザーが命を賭けて生きていた2001年のネット界隈(あの頃)、

若者たちがどんな思いを抱いていたのか、その断片に思いを馳せる材料として、お読みいただけたら嬉しく思います。


人間、いつ死ぬか解りません。

僕の敬愛する作家の一人である唐辺葉介先生も、『電気サーカス』というテキストサイト時代を描いた作品を書いてらっしゃって、

唐辺先生は「この話を発表出来たら、こんな商売もういつ辞めたっていい」とおっしゃっていましたが、

僕もやはり自分の人生を賭けて書き残す本があるとしたら、本作だったかと思うのです。


なので、僕が死んだら結構マジでこの本を一緒に墓に入れてほしいぐらいです。現時点では。間違いなく。

少なくとも、ここまで自分を開帳した本を出すことは、今後しばらくないと思われます。


僕にとっての青春、僕にとっての全て、「インターネット」。

それをこうして、大人になった僕が形として残すことができたことに、ガガガ文庫編集部様をはじめ、関係者そして読者の皆様に感謝いたします。


ありがとうございました。


なお、先ほども申しました通り、『天網炎上カグツチ』というシリーズ自体もこの3巻で一区切りになりますので、

まだ未読の方にも、ちょうどまとめてご購入いただきやすい長さになっているかと思われます。

ここまでの語りでご興味持っていただけたインターネッター同志がおりましたら、よろしく頼むぜブラザー。

3巻はテキストサイト以外に扱った題材としても、「ネットゲーム」の話とクライマックスを含んだり盛りだくさんです。

特にクライマックス辺りの展開は、個人的に最高傑作が書けたと思っております(自負)。

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ということで、インターネットを愛する皆様、『天網炎上カグツチ』、

よろしくお願いいたします。なにとぞ。

そして、僕を育んでくれたインターネットにも。改めて、ありがとうございました。