ジョン・スタインベック『アメリカとアメリカ人』(大前正臣訳)(サイマル出版会、1969年)書評

ノーベル文学賞作家のアメリカ人論である。原作のAmerica and Americansが世に出たのが1966年で、ベトナム戦争の真っ只中であった。アメリカ社会の分裂がピークを迎えるのはもう少し後のことだが、すでにこの時期、アメリカは病んでいた。

スタインベックは国家を破壊するものとして、安楽さ、豊かさ、安全性を挙げる。豊かさの結果、アメリカは目標を喪失し、ますます「滅びゆく国民」(164頁)の様相を呈していると見る。しかしスタインベックは、アメリカの活力を最後まで信じているのである。

「われわれは時に失敗し、誤った道をとり、新しく継続するために立ち止まり、腹を満たし、傷口をなめた。しかし絶対にあと戻りはしなかった。絶対に。」(169頁)

ここにはアメリカ人に特有の「活力信仰」とも言うべき姿勢が現れているように思う。はるかに長い歴史を持ち、国の栄枯盛衰を記憶に刻んできた他の国の人ならば、運命に対して静かに向き合い、もっと寡黙になるのではないだろうか。

こうしたアメリカ人の特性は、今も確かに存在している。それはアメリカの強みでもあり弱みでもある。スタインベックはこの両側面、すなわち自己をも破壊してしまうエネルギーと矛盾を乗り越える活力という二面性を鋭く見抜いていた。

(自分が読んだのはサイマル出版会のものですが、これはすでに絶版で、現在は文庫サイズの平凡社ライブラリーに入っています。写真参照。)