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サニーデイ・サービス web

2010-04-08

5thアルバム『24時』レビュー by兵庫慎司(ロッキング・オン/RO69)


8thアルバム『本日は晴天なり』の発売を記念し、7日間連続で、サニーデイの今までのアルバムについて、いろいろな方々に書いて頂いたレビューを紹介していく<サニーデイ・サービス review week>!

本日のレビューは、5thアルバム『24時』を兵庫慎司さんに書いて頂きました!


サニーデイ・サービス
『24時』

1998年7月15日 発売  MDCL1332

¥3,150


1. さよなら!街の恋人たち

2. 果実

3. 今日を生きよう

4. 月光荘

5. 海へ出た夏の旅

6. シルバー・スター

7. 黄昏

8. 経験

9. カーニバルの灯

10. ぼくは死ぬのさ

11. 堕天使ワルツ

12. 海へ出た夏の旅〜再び

13. 太陽の翼

14. 4月18日のバラード

15. 24時のブルース

disc 2 ベイビー、カム・ヒア組曲




「果てしないレコーディングの記憶」



僕はこのアルバムのレコーディングに、潜入密着取材している。BUZZという雑誌の、98年7月号に、そのレポートが載りました。といっても、今その記事を読み直すと、レコーディング・スタジオに2回、マスタリング・スタジオに2回行っているだけなんだけど、それだけでも、とにかくもう「うわあ、これ大変そうだあ」と思ったことは、よく憶えている。

それまでのサニーデイのレコーディングって、ありえないくらいサクサク録ってサクサク終わるのが普通だったが、このアルバムは違う。今でも彼らが使っている、世田谷区内の住宅地にある、どの駅からもまんべんなく遠い、陸の孤島のようなレコーディング・スタジオに、毎日こもりきり。昼からレコーディングがスタート、翌朝から昼にかけて終了、帰って風呂入って着替えてまたスタジオへ、という毎日。その記事で僕は「3人とも目は血走りヒゲは伸び放題、勉強しても勉強しても偏差値の上がらない異常に要領の悪い浪人生のようなツラ構えになっている」と書いている。

当初は9曲か10曲入りの予定で始まったが、どんどん曲が増える。しかも、どの曲も5分とか6分とかある。最も長い“24時のブルース”は、10分半。これだとCD1枚に入りきらないので、最後に録った“カーニバルの灯”は、「残り何分入れられるかに合わせて曲の尺を決める」という方式でレコーディングされた。が、すべての曲を録り終えたあと、曽我部が「もう1曲録る!」と言い出し、アルバム1枚+その「もう1曲」である“ベイビー、カム・ヒア組曲”が入ったボーナス8cmシングル1枚の2枚組、という、変則的な形でリリースされることになった。全部で16曲、トータル・タイム82分18秒。



さらに。当時の記事と私の記憶から、このアルバムに関するネタ、いくつか書きますね。


・先に書いたように、当初は9曲か10曲入りになる予定だったが、いったんすべての曲を書き終えてから、「シングルのカップリング用の曲を作らないと」と新たに曲を書き始めたところ、作る曲作る曲「これやっぱりアルバムに入れたい」ってことになり、こんなに曲数が多い結果になったという。


・レコーディングは1998年4月の頭から5月11日まで。艱難辛苦の末、5月7日にマスタリングまでを行い、完成。翌5月8日、丸山くんは倒れて入院、田中はオフで仙台へ遊びに行くが、曽我部が突如、1曲はずしてマスタリングをやり直そうと思い立ち、ふたりがいない状態で、5月11日に再マスタリングし、本当に完成。


・のちに曽我部の1stソロ・アルバム『曽我部恵一』に収録された“真昼のできごと”は、このアルバムに収録されるはずだった。私、スタジオで聴きました。そうです。それが、「曽我部が突如1曲はずそうと思った曲」です。外部に依頼してごっついストリングスが被されたアレンジだったので、「これ、ボツにしちゃっていいの? ストリングスの人になんて説明するの?」と心配になったのを憶えています。


・10曲目“ぼくは死ぬのさ”で聴かれるサックスは、菊地成孔によるもの。


・レコーディング中の曽我部いわく、「このアルバムねえ、3部構成なんですよ。1曲目から6曲目の“海へ出た夏の旅”までが第1部、13曲目の“海へ出た夏の旅〜再び〜”までが第2部、残りが第3部」。これは、ボーナスCD“ベイビー、カム・ヒア組曲”を作る前の発言だったので、さらに第4部が加わったことになります。


・“4月18日のバラード”のベーシック・トラックは、いわゆる「マルチテープの逆回転」という手法が使われている。昔のサイケやプログレなどで多用された手法で、曽我部がそれをやろうと言い出したんだけど、ただその時スタジオには、メンバーもエンジニアもスタッフも含めて、それをやったことがある人がひとりもいなかった。なので、「逆回転のやりかた討論会」が始まってしまい、1時間経っても2時間経っても結論が出ず、夜中の3時を回る頃には、お互い何を言っているのかわからなくなって、全員爆笑し始めるありさま。結局その日は録音できず、翌日に持ち越しとなる。この曲、元は“4月17日のバラード”というタイトルだったんだけど、1日ずれたのはそういうわけです。


・このアルバムを作り終えたあとの、取材などでの曽我部のコメントです。

「とりあえず、現状全部入れとくんで、あとはよろしくって感じ」

「今回はもうほんとに混乱した感じの作り方ですよね。曲ができたら入れる、っていう」

「前のアルバムって、まっとうにいいんですよ。正論調というか。それがね、ヤだったんですね。わけわかんないよさみたいなのがなくて」



というようなアルバムです。当時はよくわかっていなかったけど、この時期のサニーデイがどういう状態であり、この作品がどういう位置づけであるのか、今なら明快にわかる。

つまり、最高傑作である(と僕は思って入る)4thアルバム『サニーデイ・サービス』で、ロック・バンドとしてのサニーデイ・サービスが完成してしまったので、次にやることがわからなくなったのです。この3人で、今やれる、最高の形を作ったことによって、その可能性と限界が両方わかってしまい、ゆえに今後の方向性を見失い始めた、ということです。

だから、今やりたいこと、今思いついたことを未整理に全部詰め込んだ、サニーデイにしてはサイケデリックでアシッドで混沌としていて、なんかコンピレーションみたいなアルバム『24時』を、まず、作った。で、次は逆に、ポップでいい曲がコンパクトに並んだ『MUGEN』を作った。そして、その末に、もうバンドであることをあきらめて『LOVE ALBUM』を作り、解散した。と考えると、わかりやすいと思います。



加えて、あとひとつ。サニーデイ・サービスというのはデビューと共に結成したような、いや、下手するとデビューしたあとに結成して、バンドとしての成長の歩みをそのままファンに見せてきたような、言わば、とても青春的な成り立ちのバンドだった。毎夜のように一緒に飲み歩いたり、メンバー同士でライブを観に行ったりするような、つまり「友達同士がプロになった」みたいなバンドだった。実際には、丸山くんはエレクトリック・グラス・バルーンという、別のプロのバンドをひとつ経て加入しているわけで、そういう結びつきではなかったんだけど、でもそんな感じだったのは、ファンはみんな知っていると思う。

でも、その関係は『サニーデイ・サービス』でバンドが完成したことによって、終わってしまった。クサくいうと、「バンドとしての青春期が終わった」ということだ。よって、そこからは、別の関係性を作り上げないと、続けることができなくなる。もっと大人の関係というか。たとえば「友達同士じゃないけどビジネス・パートナーではある」とか。でも、3人が3人とも、それができなかった。だから、このアルバムの2枚後までやって、終わった。ということでもある、と思います。



僕が個人的に一番好きなアルバムは、4thの『サニーデイ・サービス』だ。次が『若者たち』と『東京』、その次が『LOVE ALBUM』と『愛と笑いの夜』で、『24時』と『MUGEN』の2枚が、最も聴き返す回数が少ない。なんだけど、今回これを書くために聴き直してみて、ちょっと驚いた。そんなふうな、混沌としていて重苦しいイメージを、僕はこのアルバムに持っていたんだけど、今聴くと、「美しい曲」「いい曲」「これまでと違うところが輝いている曲」が、意外と多いのだ。

実は、この時期のサニーデイは、何か新しいものをつかみかけていたのかもしれない。でも解散したってことは、つかみきる前に終わってしまったのかもしれないが。



それから。そんな感じだったので、このアルバムの頃は、メンバー的にはあんまり思い返したくない時代なんじゃないか、と僕は勝手に思っていたんだけど、サニーデイ、再結成してからのライブでは、意外とこのアルバムの曲をやっています。“経験”とか。“カーニバルの灯”とか。

サニーデイ・サービス』まではよかったけど、『24時』から迷走が始まってしまった。あそこで迷走方向に足を踏み入れなかったら、ちゃんと歩めていたら、どういうふうに進めていたんだろうか。そういう思いが、メンバーそれぞれにあって、だから再結成した今、それを実際に、やろうとしているのかもしれない。

と思ったんだけど、本人たちにきいたら、「いや、別に。ただ、各自がやりたい曲を持ち寄って、そっから選んだら、たまたま」だそうです。そうですか。



兵庫慎司(ロッキング・オン/RO69)


兵庫慎司の「ロック走馬灯」

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