The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

起源を求めて終末を知る プロメテウス

 1979年の映画「エイリアン」はダン・オバノンによる原案をH.R.ギーガー、ロン・コッブ、そしてリドリー・スコットという稀代のビジュアリストが作り上げたおどろおどろしくも美しいSFホラーで過去の映画作品やクトゥルフ神話などの影響はみてとれるもの、”エイリアン”という単語の意味さえ大きく変えてしまった*1程の作品だ。
 元々僕も大好きな作品だが、残念ながら最初に出会ったのはTV放送のジェームズ・キャメロンによる続編「エイリアン2」。劇場で初めて見たのはデヴィッド・フィンチャーの「エイリアン3」、そして第一作をきちんと見たのはジャン=ピエール・ジュネの「エイリアン4」公開時期ぐらいだったと思う。それでも1作目は強烈なものだった。その「エイリアン」の前日譚と噂される「プロメテウス」を観た。

物語

 2089年、スコットランドの古代遺跡でエリザベス・ショウ博士とチャーリー・ホロウェイ博士は3万5千年前の壁画を発掘する。それはこれまで数多発見された遺跡と同様同じ星を指す巨人を崇める人類の構図だ。人類の起源がこの指し示す星からやってきた異星人の創造によるものだと信じたショウはこれを異星人からの招待状ではないかと確信する。
 2093年、ウェイランド社が莫大な金額をかけて完成させた宇宙船プロメテウス号はその未知の星、LV223へたどり着く。ショウたちは明らかに人工物と思われる異星人の遺跡を発見、そこを調査する。やがて調査隊は謎のエイリアンの遺体を発見。また人類にそっくりな巨大な顔の彫像とそこに並べられた筒状の物体を見つける。一度プロメテウスに戻ったショウはこの遺体のエイリアンこそ人類を作った創造主「エンジニア」と確信。エンジニアと人間は遺伝子的に同一の存在だった。一方筒を持ち帰ったアンドロイドのデヴィッドは中の液体をホロウェイの飲み物に混ぜる。そのホロウェイと愛し合うショウ。そして遺跡に残ったミルバーンとファイフィールドの二人はなぞの生命体に襲われていた・・・
 次の日、再び調査をするショウたちだったがそこで発見したのは変死したミルバーン。ホロウェイも体調不良を起こし結果として焼却されてしまう。そして妊娠できない体のはずのショウは妊娠していた。一体彼らに何が起こったのか・・・

 リドリー・スコット監督が「エイリアン」シリーズの新作を、それも1作目より物語をさかのぼって描く、聞いたときは「スペースジョッキーがミイラになるまで、とかだったら面白いなあ」などと思っていたのだが、実際監督が再び「エイリアン」シリーズの監督をしようと思った動機はそのスペースジョッキーに関する疑問だそうでエイリアンそのものよりもスペースジョッキーについての物語といえる。
 パンフレットではなぜかかたくなに「エイリアン」関連作であることを隠しているが、冒頭のクレジットでダン・オバノンやシリーズの製作者デヴィッド・ガイラーとウォルター・ヒルの名前がきちんと出てくることから少なくとも「エイリアン」の延長線上にある世界観であることは明らかである(H.R.ギーガーの名がオープニングで出てきたかは忘れたがエンディング・クレジットではきちんと出てきた)。ただ2作目以降のシリーズ全体とつながっているかというと微妙であくまで同じリドリー・スコットの「エイリアン」との関連のみであると思う。「エイリアン」シリーズはその時々で映像にこだわりを持つ監督が監督しシリーズ物でありながらそれぞれに異色な作品シリーズ(毎回前作の余韻をぶち壊すところからはじまるのがちょっとあれだが・・・)。エイリアンそのものの描写については特に「2」で出てきたエイリアン・クイーンの存在が大きく、真社会性の生物として描かれることが多くなってきた。いまやクイーンなしではエイリアンは語れないが、それは1作目のミステリアスな存在としてのエイリアンとはまた別のものだ。今回は「2」以降のシリーズはとりあえず置いておいて原点に立ち返ったという感じなのだろうか。 

 この作品8月24日公開なのに9日から毎週先行公開、という形*2で既に見てる人もたくさんいたのだが、僕はこれはIMAXで観たかったので本公開まで我慢していた。物語的には突っ込みどころの多いものであったが確かに映像的には素晴らしかった。しかし同時にクリーチャーにおいてはH.R.ギーガーのイマジネーションの素晴らしさを再確認した形でもある。
 冒頭地球とも他の惑星ともつかぬ大自然とともにクレジット。元々IMAXはドラマよりこういう大自然(この場合は偽のだが)を映すのがメインだったりしたわけでここでの映像は素晴らしい。そして宇宙船と見られる大きな影が飛び立つとそこに一人青白い筋肉隆々の異星人が。彼はとある容器からあるものを飲み干す。やがて彼の体は崩れ落ち川の中で分解される。一度遺伝子が崩壊するが再び結合し・・・
 キリスト教原理主義者によるID理論とはまた別だと思うが、人類の発祥には地球外のエイリアンが関わっている、という説があって例えば「スタートレック」シリーズではとある古代のエイリアンが宇宙中に共通の遺伝子を蒔いてそれが各惑星に合わせて知的生命体に進化した、という説を取っている。実際これは地球人とバルカン人のハーフであるスポックの存在を肯定する後付けの説明なのだが、これによってスタートレックの宇宙では地球人含むほとんどの宇宙人同士は混血が可能である。「プロメテウス」ではこの人類を創造した存在を「エンジニア」と名づけている。宇宙船プロメテウス号の名前もこの人類の創造に携わり火を与えながらそれ故に酷い罰を与えられたギリシャ神話の神プロメテウスにちなんでいる。そしてそんなプロメテウスの復権を目指してウェイランド社はこの探索事業に財を費やしたのだ。
 結論からいうと、冒頭の異星人種こそエンジニアであり我々がこれまでスペースジョッキーと呼んできた異星人である。スペースジョッキーの特徴的な顔は宇宙服のヘルメットであり、本来の顔は人類に近い。体格は人間の1.5倍ほどもある巨人だが「エイリアン」の時に比べるとそれほど大きくはない。このエンジニア、やはりギーガーデザインの機械と一体化したまま化石状になるあのオブジェ風のスペースジョッキーに比べると魅力に欠け、いざ正体が分かるとがっかりくるのも確かなんだよね。はっきり言ってスペースジョッキーのあの顔が素顔じゃなかったと知ってどれだけ意気消沈しただろうか。
 そして一応エイリアンに当たる生物も登場する。古いタイプのチェストバスターみたいなのやつ(きちんと首絞めたり切られると強酸性の体液出したりする)。後はショウが妊娠した謎生物(イカみたい)な奴(あれをその後放っておいたのか・・・)が成長して巨大イカもしくはヒトデみたいになってエンジニアと肉弾戦するんだがやっぱりギーガーズ・エイリアンに比べると・・・*3
 これらの謎生物はエンジニアが生物兵器として作り(LV223は実験場)、でも逆にエンジニアがやられてしまった、とプロメテウス号のクルーは推測するがこれがどのようにギーガーズ・エイリアンにつながるかは不明(つながらないのかもしれない)。共通点は多々あるがこれとはまた別の生物兵器なのか、この生物が独自進化するのか(エイリアンは宿主の特徴をコピーする)。ラストにエンジニアの体の中からシルエットはギーガーズ・エイリアンに似た生物が誕生するが、正直この作品でギーガーズ・エイリアンが出てくるとは思ってはいなかったので逆に拍子抜けしてしまった。
 それでもエンジニアの宇宙船が落下する一連のシーンなど映像的にはド迫力でIMAXで見る価値は有ると思う。

 宇宙船プロメテウス号で最初に登場するのはアンドロイドのデヴィッドで、これまで「エイリアン」シリーズに登場したアンドロイドと違って感情に乏しく(しかし好奇心は旺盛ぽい)動きが不自然なところがある。また人間の文化を学ぼうとしているさまは「新スタートレック」のデータ(ブレント・スピナー)っぽい。白い肌に金髪でマイケル・ファスベンダーが演じている。ある意味人間よりも共感はできるが謎の行動も多くホロウェイの飲み物に謎生物の元を飲ませる(理由は不明)など使命の第一義が人命を守ることではないのだろう。過去のアンドロイド同様破壊されるシーンもある。実質主役。その彼の創造主が、ピーター・ウェイランド。
 おそらく今回はもちろんシリーズとしても番外編であろうが「エイリアンVSプレデター」ではウェイランド社の社長としてチャールズ・ビショップ・ウェイランドが出てくる。そこでは「エイリアン2」でアンドロイドビショップを演じたランス・ヘンリクセンが演じている(アンドロイドビショップは彼をモデルにしているという説あり)。もしもこのシリーズの設定が生きていればピーターは彼の孫あたりになるのかと思うが、見た目100歳を過ぎた老人として登場。既に死んでいるとおもいきや実はプロメテウス号に乗り込んでいてエンジニアに出かけるのだった。演じているのはガイ・ピアーズでつまりこの極端な外見は特殊メイクによるものなのだが、ネット上のおまけムービーなどでは若い頃のピーターの姿も見られるそうです。
 ちなみにこのウェイランド社。「エイリアン」では単に会社とだけ呼ばれ、後に「エイリアン2」ではウェイランド湯谷社と名前が判明する(この社名の設定自体は1の時点であった)。「エイリアン」ではアッシュ(アンドロイド)がリプリーを殺そうとする際、クルーの持ち込んだ平凡パンチを丸めて口に入れようとするので話題になった。また壁にはりんごヌードでお馴染みの麻田奈美のピンナップが貼られていたりする。それ故に当時から「”会社”とは日本企業では?」などと話題になっていたらしいのだが、それが2で「ウェイランド湯谷社」であると判明、事実であったことが判明する。このウェイランドと湯谷という名前はリドリー・スコットの当時のご近所さんの名前らしい。パンフレットのリドリーによると、この「プロメテウス」の後、日系企業湯谷社と合併することになるらしい。ちなみに湯谷社の女社長は「AVSP2」のラストに出てくるがこちらは「AVSP」以上に無かったことになりそうだ(てかして欲しい)。
 ウェイランド社を代表して船を統率するのがシャーリーズ・セロン演じるメレディス・ヴィッカーズ。デヴィッド同様白い肌に金髪の偉丈夫。ふたりとも美しくてまるでアンドロイドのようだが劇中では明らかにならぬまま終わりを迎えている。でもおそらく実はアンドロイドで、後にショウが使うヴィッカーズの部屋にある救急ポッドが男性用であったり(おそらくピーター用なのだろう)ピーターをお父さまと呼ぶのが年代的に実の娘であるよりデヴィッド同様アンドロイドであると考えたほうが腑に落ちる。感情的に制御されていないアンドロイドなのだろう。
 一応主人公であるショウは「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」や「シャーロック・ホームズ シャドウ・ゲーム」のノオミ・ラパス。考古学者で女性主人公ということでリプリーを思わせるがむしろヴィッカーズの方がリプリーに近い。ところで未来の技術で手術したはいいけど縫合が思いの外雑よね。
 船長のヤネックはイドリス・エルバ。「マイティ・ソー」では虹の橋ビフロストを守る守護神ヘイムダルを演じていたがここでは地球に異星人を来させないように頑張っている。この作品、ホロウェイ役のローガン・マーシャル。グリーン以外はキャストが全員イギリス、南アフリカスウェーデンなどアメリカ以外が出身である。

プロメテウス アート・オブ・フィルム

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 人類の起源、と言うよりは脱・人類とでも言うべき作品であった。結果として登場するクリーチャーはやはりギーガーやオバノンの魅力によるところが大きく、新しいデザインはそれを超える魅力は薄いが、それでも映像は迫力があり素晴らしい。物語的には難あり、もしも「エイリアン」につなげるのならこのままリドリー・スコット監督で続編を撮ってほしいと思う。
 

P.S.

 リドリー・スコット監督の弟でやはり映画監督のトニー・スコット監督が自殺という形でこの世を去った。不治の病を気にしてのことだという。兄弟監督といっても一緒に一つの作品を作るわけでもなく作風もぜんぜん違うのに長く兄弟で活躍していたのは凄いことだと思う。ご冥福をお祈りします。R.I.P
 

P.P.S

 「プロメテウス」で商品検索したら原発事故関連の書籍が幾つか引っかかった。ギリシア神話のプロメテウスは人類に火を与えたが、人類はまだその火を使いこなせていないのかもしれない。

プロメテウスの罠―明かされなかった福島原発事故の真実

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ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))

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*1:元々は「外国人」「異邦人」という意味だったがこの映画以降ほとんど「異星人」という意味で使われるようになった

*2:本公開の直前に先行公開というのとあわせてよくわからない形だ

*3:ところでタコと巨人の戦いと言うと円谷英二が好むモチーフでもありますね