The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

80年代から進化したものしないもの ゴーストバスターズ

 2013年に日本で公開された映画の結構な作品に「魔女」というキーワードがあったように(決して表立ってブームになったわけではない)今年(というか今年の夏は)「1980年代」がキーワードとなっているような気がする。前回の「X-MEN:アポカリプス」のように80年代が舞台のものもあれば「TMNT影」のような1980年代に生まれたキャラクターの作品。そして今回のような1980年代の作品のリメイク作品。1984年は「ゴジラ」「グレムリン」そして「ゴーストバスターズ」!この3作が相次いで日本公開されたため「3G決戦」などと称された。5年後1989年にも「ゴジラVSビオランテ」「ゴーストバスターズ2」が、少し遅れて「グレムリン2」が公開され第二次3G決戦が!そして2016年「シン・ゴジラ」とリメイクされた「ゴーストバスターズ」がほぼ同時期公開されたのであった!*1そういうわけで個人的にちょっと思い入れもある「ゴーストバスターズ」のそのリメイク版を観賞。

物語

 ニューヨーク。コロンビア大学で教鞭をとるエリン・ギルバート博士は大学との契約更新を迎えて困惑していた。過去に友人と出した心霊本を読んだ人物に心霊調査を依頼されたのだ。封印した過去であるはずのその著書を買ってに売っている共著者で旧友のアビーの元へ行くと彼女はヒギンズ理解大学の研究室でホルツマンとともに今も超常現象の研究に勤しんでいた。久しぶりに再会した二人は口論になるも心霊調査を依頼された建物へ。そこで3人は初めてゴーストとの物理的接触に成功する。しかしアビーとホルツマンは大学を追い出され、エリンも契約更新を破棄されてしまう。3人は中華料理屋の2階を借りて心霊調査会社ゴーストバスターズを設立することに。
 受付に雇ったのは美形のマッチョマンだが頭の方はからっきしのケビン。また依頼人で地下鉄駅員のパティも勝手に仲間に加わった。時を同じくしてNYではゴーストの出現が多発し、ゴーストバスターズは一部の批判も受けながら一躍時の人に。そしてこのゴースト騒ぎの裏には一人の男の陰謀があった…

 オリジナルは1984年のアイヴァン・ライトマン監督作品。レイ・パーカーJrの主題歌も相まって大ヒットした。1984年の3G作品の中では僕は「ゴジラ」が最初に劇場に観に行った映画作品であったが、ほぼ同時期に「ゴーストバスターズ」も観たと思う。また1989年の年末には「バットマン」「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」「ゴジラVSビオランテ」と並んで「ゴーストバスターズ2」が話題の超大作としてラインナップされていて、少なくとも僕の周辺(小学6年生)では「ゴーストバスターズ2」が一番人気だった。こちらも他の作品を差し置いて劇場で鑑賞(今ならもちろん全部観るが、当時の小学生はどれか一つ、という選択肢しかない)。多分初めて劇場で観た洋画シリーズなのでそれなりに思い出深い作品である。2の方にはピーター・マクニコルも出てるしね。
 で、これらの2作やジョン・ランディスの「ブルース・ブラザーズ」「大逆転」など一連の「サタデー・ナイト・ライブ」映画とでも言うべきジャンルがあった。テレビのコントスケッチ番組「サタデー・ナイト・ライブ」のキャストが活躍する作品群。最近だとベン・スティラーの「ズーランダー」や「トロピック・サンダー」などもそのくくりに入れられると思う。本作もリメイクという形であるが主要キャストの多くがサタデー・ナイト・ライブ出身者である。
 その中でも「ゴーストバスターズ」はビル・マーレイの無責任かつ飄々としたキャラに焦点を当て人気となった作品。日本だと高田純次といったところだろうか。その人気は根強く2001年のアイヴァン・ライトマン作品「エボリューション」などはSFに置き換えた「ゴーストバスターズ」と言ってもいいくらいだった。直近の作品だと「PIXEL」が「ゴーストバスターズ」を換骨奪胎したものと言えそうだ。
 当然続編の企画は1989年の2以降もずっと浮かんでは消えて、という状態が続いていたのだが、21世紀に入ってやっと具体的に動き始めたところで主要キャストの一人ハロルド・ライミスが急逝。全員揃っての出演が不可能となったことで続編製作は頓挫した(ハロルド・ライミスとダン・エイクロイドは脚本も手がけていた)。代わりに浮かんだのが続編ではなくリメイクである。
 最初に前作の設定から男女を入れ替えたものと聞いた時はなるほど21世紀にふさわしいアプローチだと思ったし、それがいわゆる美女(美少女)ではなく一癖も二癖もある面子を集めた時は感心した(この時点で文句を言っていた人もいたが、そもそもオリジナルが冴えないおっさんたちのコメディであったのになぜ男女逆転したら美少女になると思ったのだろう?)。ただ後述するけれど、人種構成がオリジナルのままだったのはちょっと納得いかなかったリもした。
 予告編を観た時は男女逆転という部分こそ大きな変更点だが、それ以外のところでは(VFX部分まで含めて)驚くほどオリジナルの雰囲気のままで逆に2016年に制作されたとは思えない感じすらした。男女逆転したことでアメリカ本国で女性差別的な評価も上がり、それに対してキャストが声を上げたりしたことで話題にはなったけれど、逆に正当な評価からは遠ざかっってしまったのでないかという不安も(ちょっと批判を言えない雰囲気になっていた)。
 実際に観ると大変面白かったけれど、肝心のゴーストストーリーの部分はオリジナルの方に軍配があがるがそれ以外のところは新作に、といったところ。最もオリジナルは1980年代の雰囲気を色濃く残したコメディ映画なので現在の感覚で見るとちょっと首を傾げるところも多いので特にコメディ部分は一概には比べられないだろう。ビル・マーレイ演じるピーター・ベンクマン博士の無責任で女好き、かと言って物事から一歩引いて接するシラケ感たっぷりの演技は当時のサタデー・ナイト・ライブでのマーレイのキャラを知っていないと現在の視点で見て結構きついところがあるし、リック・モラリス演じる隣人も今見たらストーカーじみた感じである。特撮(狛犬みたいなモンスターのストップモーション・アニメーションによる動きと合成)も今見るとかなり拙いのだが、一方で作品の雰囲気にあった味となっていると思う。
 話の肝であるゴースト退治のストーリーはヒッタイトの邪神ゴーザやズールといった神や中世カルパチアの独裁者で肖像画の中から物事を操るヴィーゴ大公といったオリジナルシリーズの個性ある敵キャラに比べると今回の冴えない非リア男の社会への復讐というものはかなり弱い。この今回の敵ローワンはおそらくオリジナルの主人公3人のダークサイドを合体させたようなキャラクターだが、ちょっと個性が弱かった。

 新生ゴーストバスターズの4人のうちオリジナルメンバーとなる3人は旧作のピーター、レイ、イゴンの3人をミックスさせて分けたような役回り。一応の主人公格はクリステン・ウィグで真面目な慎重派でダン・エイクロイドのレイの色が強い。メリッサ・マッカーシーのアビーとケイト・マッキノンのホルツマンはイゴンとレイの研究熱心なところ、ホルツマンの何処かシニカルなところはピーターの性格も加味されているか。
 僕がオリジナルで一番好きなキャラクターはアーニー・ハドソンのウィンストンで、この後から加わるキャラクターが今回はレスリー・ジョーンズ演じるパティ。僕は男女逆転という部分には全く問題はないし、むしろ素晴らしいと思っているけれど、大学勤めの3人は白人で後から加わるのが黒人というオリジナルのままな設定はどうにかならなかったのかと思う。パティも面白いキャラクターだったけれどやはりインテリが白人で、そうではない黒人という偏見をそのまま残しているようにも思える。更に言うなら現代なら例えば理系の研究者として東洋人のキャラがいたっていいのではないか?田舎を舞台にしているのならともかくNYが舞台ならそう不自然でもないと思う。
 女性の観客にはホルツマンが大人気のようだけど、男性視点(というかあくまで僕個人の視点)ではホルツマンはもちろんキャラが立っていたけれど、そんなに夢中になる感じではないかな。

 主要男性キャラで一番人気なのがクリス・ヘムズワース演じるケビンだろう。というかこの次がローワンとか嫌味な大学関係者、あるいは中華料理屋の店員(中国人ではないっぽい)とかになってしまうのでほぼ独占枠だ(アンディ・ガルシアが感じ悪い(外面は良さそうな)市長役で出てる)。オリジナルではアニー・ポッツが演じた受付嬢ジャニーンの男性版だが、別に変人ではなかったジャニーン*2に対して今回のケヴィンはかなり変な感じに。そして本作のヒロインの座も射止めた。少し前ならブレンダン・フレイザーが担当していただろう。クリス・ヘムズワースは「マイティ・ソー」はじめのMCUで演じた雷神ソーも愛すべき筋肉バカだったが、本作のケビンはずば抜けている。例えるなら「課長バカ一代」並みのバカ。話がかろうじて通じる、と言った風情でそのケビンとの全く咬み合わない会話は逆に高度に哲学的な会話か禅問答を聞いているような、あるいは達人過ぎて逆にゆっくりに見える武道の組手を見ているようなそんな不思議な感じ。その愛すべきおバカにクリへム独特の表情の愛らしさも加わって必見のキャラクターとなっている。
 ゴーストバスターズとケヴィン以外の主人公といえばゴーストたちだが、そのへんもオリジナルに比べるとちょっと弱い。一応デザインそのままでスライマー(アグリー・リトル・スパッド)は登場するけれど、最初に登場するガートルード(およそ100年前に猟奇殺人を犯したため家族に幽閉され死んだ金持ちの令嬢)も2に登場したスコレリ兄弟みたいなデフォルメに欠けているので魅力が薄い。逆にドラゴンの姿をしたメイハムはその個性がゴーストに似つかわしくない。マシュマロマンなんかも出てくるけれど(パレードのバルーンにゴーストが取り憑いた感じか)、すぐいなくなる。やはり大ボスのローワンがキャラとして弱いのでもっとローワンを操る別の大物ゴーストとかを用意したほうが良かったと思う。

 NYを舞台にしたNY映画*3ということでは「ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影」の方が良かったと思う。この辺はまた「TMNT」の感想で。
 オリジナルの主要メンバーは亡くなったハロルド・ライミスと役者を引退した(知らなかった!)リック・モラニス以外は特別出演していて、特に先輩科学者であるシガニー・ウィーバーとパティの父親であるアーニー・ハドソンは個人的に見どころ。そしてビル・マーレイゴーストバスターズをインチキだと吹聴する科学者として出てきて、完全にピーター・ベンクマンのネガ。今回は世界観的には旧作とは一切つながりがない完全リメイクだが、下手にビル・マーレイゴーストバスターズに理解を示す役として配置せず、むしろ敵対する役として配したのは効果的だったともう。先述したとおり、現在の目で見るとオリジナルの「ゴーストバスターズ」の特に主人公であるピーター・ベンクマンはかなり危ないキャラクターだったりするし。


この「ド〜♪」「レ〜♪」「イゴーン〜♪」のシーン好き。
「ゴーストバスターズ」オリジナル・サウンドトラック

「ゴーストバスターズ」オリジナル・サウンドトラック

ゴーストバスターズ オリジナル・サウンドトラック

ゴーストバスターズ オリジナル・サウンドトラック

ゴーストバスターズ

ゴーストバスターズ

サントラもいろいろ出てる。3番めがオリジナルの。1番目と2番めがどう違うのか不明。どっちかがスコアかな?レイ・パーカーJrのあの有名な曲も使われるけどあんまり効果的とは言えなかった印象。
 アイヴァン・ライトマンは製作に周り、監督はポール・フェイグクリステン・ウィグメリッサ・マッカーシーとは「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」でも一緒だった。そういえばこれも今のSNL映画かもしれない。今回は3Dの字幕で観たのだけれど、最初から上下に少し黒い余白(変な日本語)を作ることでゴーストが飛び出るときはその黒い部分にはみ出ることでより効果的に見せていました。良質なアトラクション映画でもあると思う。

*1:グレムリンの新作はまだですか?個人的には「ONE PIECE FILM GOLD」を加えての3Gでもいいんだけど

*2:ジャニーンが特徴的な髪型になってより漫画っぽくなるのは2の方

*3:スパイダーマン」で見られるようなヒーローとNY市民が一体となって盛り上がるようなシーンがある作品