デュエット

ずっと楽しみにしていました、この日を。上原ひろみチック・コリアの一夜限りの競演です。昨年のブルーノート公演は仕事が変わったばかりで行かれなかったSuzume、日本武道館という箱の大きさに不安を覚えつつも、優先予約の抽選を勝ち抜いて、それもアリーナのかなり良い席を確保したのでした。
日本武道館でのコンサートは、日本はオフコース、外タレはエリック・クラプトン等々で経験していますが、音響に限界があったり会場が広すぎて盛り上がりにくい等、どうしても制約があります。ましてや今夜は賑やかなロックではなくピアノ2台だけのシンプルな設定なので、音がどうなのかが心配でした。
午後7時を10分ぐらい過ぎたところで、チック・コリア上原ひろみが登場。チックは青いトレーナーに紺のベストを羽織り、ジーンズにスニーカーのカジュアルな服装。上原ひろみは、いつものようにミニワンピと黒いスパッツ、スニーカーです。ステージ中央に2台おかれたピアノ、左側にチック・コリア、右側に上原ひろみが座って、始まった演奏は、ビル・エヴァンスの「Very Early」。座っている場所が良かったこともあるけれど、高品質PAを使っているのか音響は全く気になりませんでした。
彼らがどのぐらいリハーサルで音合わせをしていて、ステージでどのぐらい即興演奏を取り入れているのかがわからないのですけれど、お互いに目配せをしながら次々と音が展開されていく様は、まさに一期一会、この一瞬にだけ生まれた音色なのだ、と思えてなりませんでした。聴衆であるSuzumeにもステージの上の(心地よい)緊張感とライブ性が強く伝わってきました。
チック・コリアのステージを観るのは初めてでしたが、世界的な巨匠とはこういうものか、と感じ入りました。2人の高度なテクニックがイーブンに渡り合うというよりも、ステージで一貫して感じたのは「あぁ、マスターはチック・コリアなんだな」ということでした。曲調によって見せるテクニックは違いますが、上原ひろみは基本的にはアグレッシブで自由奔放に高度なテクニックで走り続け(ある意味、ランニングハイ状態のような感じ)、チック・コリアはパーカッションを使ったりする遊び心を取り入れつつも、彼女の演奏を大らかに包むようにしてデュオ曲を完成させていくような役割分担だと思いました。
演奏はアンコールも入れて全部で9曲。最後は誰もが期待していた「Spain」でした。これが始まった瞬間の聴衆のわぁっという盛り上がりに、実はチック・コリア目当ての聴衆が多かったのだ、ということを知りました。21時で演奏を終了しなければならない事情(舞台撤収スケジュール等)があったのでしょうか、少し短めなステージのような気もしましたが、たった2台のピアノで、あれだけの表現力によって日本武道館の全聴衆を魅了した2人のアーティストとしての存在感・力量に圧倒された夜でした。
デュエット(初回限定盤)(DVD付) 演奏:Very Early / Summertime / Do Mo(Children's Song #12) / Place To Be / Humpty Dumpty / Fool on the Hill / Old Castle, by the river, in the middle of a forest / アンコール Bolivar Blues / アンコール Spain