今川節からの手紙(12)

svelandski2016-02-22

月 旧暦 1月15日 先負 甲戌 八白土星 Pia V8 24474 日目

89年前(昭和2年2月20日)、今川節作曲楽譜第12号が発行された。曲名は「冬の日」(柳 昿  詩)、以下はその手紙の部分の転載。

今月の作曲について 今川 節

私達が作曲する時、無意識的に(或場合、意識的に)自分の崇拝又ハ愛好する作曲家の曲風を真似る事があります。そういふ意味から、この曲も山田耕作先生の「からたちの花」と割合共通点の多いのを皆さんは見出されるでせう。(勿論山田先生の作品と自分の作品とはくらぶべくもありませんが)私自身の考へをいへバ、自分の曲が、他の作曲家の曲風に似るといふ事ハあまり好まないことで、出来得べくバ私自身の曲風をあらはしたいのですが、經驗浅いそうして恵まれない才能の自分にはそれが何時出来る事かわかりません。しかしこれは楽聖又ハ楽匠といはれる人の中にもあったことで、ショパンはバッハの感化をより多く受けたため、作品十の第三エチュードの中程はバッハのロ短調のミサの第二頁に類似して居り、ベートーヴェンもモツァルトの歌劇ジョバンニを非常に崇拝したために、同歌劇のテルゼットの伴奏が有名な月光の曲第一楽章中に引用されて居るといふことを聞いて居ます。
兎も角この「冬の日」は曲の流れから言って「からたちの花」くさい曲ですが、その中に皆さんが少しでも私自身を見出して下されバ大変うれしいことです。飛んだ長談義をしてお許しください。
次号はこの楽譜を出して丁度一週年になるのでせめて頁だけでもましたいと思って居ます。
この頃作曲するいゝ詩が見あたらないので困って居ます。皆さんの中誰かいゝ詩をお持ちでしたらお知らせ下さいますなら、大変幸でございます。

昭和二年二月二十日印刷納本 同日發行 (非賣品)
發行者  今川 節