白川静博士の「故郷」

svelandski2017-06-15

木 旧暦 5月21日 先勝 癸酉 九紫火星 Margit Margot V24 24964 日目

白川静博士が日本経済新聞の「私の履歴書」に執筆されたのは 1999 年 12 月のことであった。当時はまだネット上で新聞を閲覧できる時代ではなかったので、ヨーロッパに住む僕がそれを知ったのはずっと後のことであって、本にまとめられたもの(回思九十年)で読んだのだが、その二日目の冒頭に次の様な文章がある。「故郷とは、故郷を離れて住む者が、その「うぶすな」の地を呼ぶ名である。異郷にある者のみが、この語を用いることができる。それで故郷という語は、つねに郷愁を伴う。」この部分だけを僕は何度読み返したことだらう。この客観的な故郷の記述の中に、博士ご自身の限りない故郷への思ひが語られてゐる。僕は一年のうちに何ヶ月かは「故郷」へ帰ってしまふので、そんな人間は「故郷」といふ言葉を使ふことは許されないのかもしれない。未来の人類は地球といふ星を出て行くのかもしれない。そして、遠くに浮かぶ小さな小さな青い星を「故郷」と呼ぶ様になるのかもしれない。その時、未来の人類の胸の内にはどの様な郷愁が去来するのだらう。