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   去る09年7月16日のトムラウシ山での遭難事故で亡くなられた方へ心よりご冥福をお祈りいたします。
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2010-03-02

[]日本山岳ガイド協会 トムラウシ山遭難事故最終報告書まとめる

日本山岳ガイド協会が3月1日にトムラウシ山遭難事故最終報告書(PDFファイル)を公開しました。

http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf


あの事故が発生してから8月中旬までの約一ヶ月の間、私は自分なりに考えた提言をこのブログにまとめてきました。

正直にいって、昨年の8月半ばくらいまでは心ここにあらずで仕事が手につかない日々がつづきました。

それほど思い入れのある北海道の山であったし、なにより事故を引き起こしたガイドスタッフの一人が大学のクラブを通じてよく知る人間でした(彼が山スキー部で私が山岳部と部室が隣だったのです)。

8月以来更新をやめてしまった理由のひとつには、当時書きたいことは山ほどあったのですが、思いがにじみ遅々として進まなまったというのがあります。

そして今改めて、報告書について少しでもコメントを残すべくエントリを起こしてみましたが、年度末の仕事に忙殺されてとても難しい状況です。

ですので、ざくっとした感想を述べるにとどめたく思います。

私が報告書に期待していたこと

上記報告書P36−P48に本遭難事故要因の検証と考察〜今後のガイド、旅行業界および登山界に対する提言が述べられています。そのほか運動生理学的な観点からみた本遭難の問題点と提言(P64〜)が本報告書の重要な核心部分になるように思えました。

いずれにしても、8月に私が当ブログで書きなぐった粗雑な提言からみると、はるかにきちんと考え抜かれたよくできた報告書であると思います。私がポイントとしてあげていた点はすべて網羅されていただけでなく、より具体的で正確な議論が展開されています。気象や運動生理学的な観点からの考察は大変有益でした。

また報告書P36-38ではリーダースタッフ間のコミュニケーション不足(リーダーシップとフォロファーシップ)について言及されており、報告書はこの欠如がこのパーティの命運を左右したと述べています。全くその通りという印象をもっています。

全体としては、事故の原因はガイドのリーダーシップの不足と危機管理能力の欠如によるものであり、提案として有能なガイド育成の仕組み作りを急ぐべきである、というのが報告書の骨子のようです。

ただひとつ残念な点をあげるとすれば、(というより私が本来このブログで目指そうとして頓挫した点だったのですが)各旅行会社が同様の縦走計画を立案するにあたり、教訓を活かし今後の参考となるような、具体的なモデルプランを提示してもらいたかったという気持ちがあります。

私は現場の判断ミスが起きにくい仕組みを計画段階でビルトインするべきだったと一貫して主張していますが、計画段階から事故を予防する仕掛けについては、この報告書は提言として、この点についてあまり重視されていないように思えました。これが残念な点でした。

私の主張をもう一度繰り返します。

登山計画というのは、地形、気象や運動生理学・医療その他の背景となるさまざまな知識を総動員したうえで、可能な限りシンプルな形にするのが非常に重要です。現場でのリーダースタッフの頭脳労働の負担を軽減する必要があるからです。

ですから例えば、天候悪化時の対応として小屋への引き返しという戦略ひとつとってみても、

その判断が必要となる理由を考えれば、少なくとも以下の項目について計画上明らかになっているのが効果的といえます。

1.行動を阻む要素(ここでは天候とします)

2.天候悪化の基準(行動可能な気象条件 例:実測気温、風上に顔をむけられない、ふらつくなど現場で具体的に共有しうるモノサシ)

3.行動変更の選択肢(引き返し、エスケープ、その場での停滞)

4.タイムリミット

5.最終判断地点

「どこで何時に何を最終判断しなさい」ということを計画に書き込めばリーダーは計画にのっとってしかるべきタイミングがきたら判断を迫られる仕掛けが自動的に出来上がるわけです。

天候による引き返し判断については、報告書でも言及されていました。

引き返すか、もしくは緊急避難路選択の判断をするなら、日本庭園までの間、すなわちロックガーデンを登り始める前がリミットだっただろう。(上記報告書P37)

と述べられていますが、この記述自体があいまいで、結局、リーダーはいつどこで何を基準に何についての判断をしなければいけない、といっているのか不明確です。(同じように、ガイドCが心積もりがあったという天人峡へのエスケープについても評価を濁しています。)この登山パーティのこの判断についていえば、最終判断地点は避難小屋であるべきだったと言い切ってしまってもよかったはずです。ラジオも持たず、当日の判断材料が極めて乏しい条件を考えれば、ロックガーデンまで最終判断ができないということ自体が計画上あってはならないと私なら考えます。もちろん最初の故障者が顕在化した地点が天沼付近だったので、結果から逆算すれば、ロックガーデン付近で引き返していれば故障者が現れることはなかったかもしれませんが、結果論というものでしょう。現実には日本庭園で暴風雨に晒されてまもなく故障者が顕在化した可能性だってあるわけですから。

ツアー企画会社に対する提言が具体性にかけている

また、報告書のこのあたりの記述には、この判断の問題をリーダーの能力の問題だけに落とし込んでしまう傾向がみてとれます。もちろん能力の問題でもありますが、現場判断のずさんさにだけスポットを当ててしまうと、「なぜリーダーは適切な判断をなしえなかったか」という問いをいつまでも循環することになり、結果論に陥りやすく非生産的だと私は思っています。リーダーが現場で判断すべき5W2Hについてはあらかじめ計画にインプットしておくことで判断漏れを未然に防止し、それこそが実質的な企画会社のツアーリーダーに対する監督部分にもなるからです。

本報告書は、このツアー企画の問題点について指摘していましたが、私には具体性に欠けるようにみえました。とくにP45-46の「ツアー登山旅行会社が取り組むべき問題点」については、問題点の列挙にとどまり、提言としては不十分なものでした。

例えばP45(4)ではガイド管理体制が不十分だから業務管理マニュアルを作成せよ、とありますが、これを提言というならあまりにお粗末です。どのような業務マニュアルを作成すべきかについて、もう少し具体的にアミューズトラベル社の実態に踏み込んだうえで、欠けている部分を指摘し、ありうべきモデルを提示すべきでしょう。報告書からアミューズトラベル社の通常業務の実態がいまひとつ見えてこなかったのは、消費者の立場からみて不満の残る報告書であるということはいえそうです。

もちろん報告書のページの都合もあるでしょうから、あまり欲張ったことはできないのかもしれませんし、モデルプラン自体も一人歩きしてしまう恐れがありますから、諸刃の剣であることは確かです。しかしながら、旅行会社がどのような計画作りをしていけばいいかのコンサルティング的な役割を多少とも果たしてもらいたかったというのが本音です。山岳ガイド協会は企画会社、ガイド、参加客のすべてにわたって調査する権限があったのだから、それゆえに、本来ありうべき7月14ー17日のトムラウシ山縦走の企画書を提示してもらいたかったように思います。本当はどうすべきだったのか。

私がブログで書ききれなかったくせにいうのもなんですが。

私個人はアミューズトラベルをひいき目にみているのかもしれませんが、私が知る数人の社員の方の能力と誠意ある仕事ぶりを思い起こすと、信頼回復のポテンシャルは高いとかたく信じています。

しかし、それまでにやるべきことは山ほどありそうです。

社内セミナーの開催

ひとつ提案したいのは、今回の事故報告書の事実経過および考察をたたき台にして、ツアーリーダーの間でシミュレーションスタディのセミナーを開催してはいかがでしょうか。

「あなたは今7月16日早朝、3名のガイドと同じ条件下に置かれていたとします。

何についてどのように判断すべきことがありますか」

といった具合にブレーンストーミング的なスタンスで、忌憚ない意見を述べてもらうのです。

そうすれば現場でいかに判断すべきことが多いかについて思い当たり、それを事前の計画でいかに効率よく整理していくべきかに気がつくはずです。

このような事前学習方法は、旅行会社のみならず同好会や個人の登山者グループにも実践可能ですので、ぜひ試していただきたいと思います。

ツアー登山をめぐる利害関係者〜取りこぼされた一般登山者への提言

トムラウシ山はプロフェッショナルとしてのガイドなしでは登れない山なのだというのは誤解です。

事前の準備と必要な知識と能力さえあれば誰でも挑戦可能です。ガイド付にこしたことはありませんが、適切な判断能力をもちリーダーシップを発揮できる人間がいれば十分なのです。

私は7月の遭難が発生し、その後の報道を目にしたときに、一般登山者がトムラウシ山を魔の山と恐れて寄り付かなくなるんじゃないかという懸念を覚えました。能力の劣ったガイドが引率すると悲惨な事故が起こる可能性があるとすると、知識も乏しい私たち素人にはとても無理だわ、という反応です。

しかし、一般登山者に理解してもらいたいのは、登山のリスクのかなりの部分は現場ではなく、計画上で未然に防ぐことができるということです。

例えば、現場で低体温症を判断するだけ知識も経験もない、としても、現場で低体温症を判断しなくてもいい天気基準を設定しうるのです。各種ガイド協会や旅行会社といった組織は一般登山者や消費者にとって、半ばパブリックなリソースです。旅行会社の立案やガイド(ないしガイドブック)の意見を参考に一般登山者は自分で判断基準を決めるのですから、モデルプランという考え方は、今後の事故防止に極めて有効だと私は思っているわけです。

登山の知識が少ない初心者自身についていえば、まず第一に心がけるべきことは「知らないことには手を出さない」です。初心というのは重要です。

またこれは企画会社も同様です。経験を積んだ人間より知らないことが多いからといって、チャレンジをやめる必要はないはずです。知らないならば知らないことを前提に計画を立てればよいだけの話です。低気圧の接近中は登山を見合わせる、と、たったこれだけでも立派な方針たりえます。(大津波警報がでたら避難指示を出す、みたいな話と同じで、人知を超えるような自然現象についてギリギリの判断基準などもたなくとも安全な判断は可能なのです)いいかえれば、高度な危機管理能力や経験を必要とせずとも貫徹できる計画をつくればよいのです。具体的には中止や撤退のタイミングをリスクの顕在化する前に設定すればよいのです。ギリギリまで危ないところまでいってしまうから、逆に危機管理能力が必要になってしまうわけです。

ともあれ、ハイキング業界に関わる人たちは、この報告書をもとに、特に北海道の登山についてより突っ込んだ議論を重ねてもらいたいと思います。

最後に。

同報告書は、もちろん登山企画の具体化も提案していますが、その提案自体が具体的ではないのは非常に残念でなりません。むしろ力点は、プロフェッショナル(ガイドやツアー企画会社)の育成にあるように感じました。

この傾向の背後には、恐らく、登山ツアーの利害関係者というのは、とりあえずの企画を旅行会社が作成し、それを現場にアウトソースしたガイドに投げて、あとは現場でなんとかやりくりしてもらう、といった既成の構図が前提にあるのかもしれません。あるいはこの構図を維持しようという力学がどこかで働いているのかもしれません。客がいつも客としてガイドについていくツアーだけを前提とすればこの報告書で十分(「ツアー登山客への要望」P47,48)なのでしょうけれども、一般登山者の問題について、報告書P43でちらっと

ツアー登山者を含む未組織登山者層をいかにして事故のない、安全な登山に導いていくかが、現在の登山界の大きな、そして永遠の課題となっている

とあっさりまとめている部分は私には違和感を覚えるところでした。

このことは、別の言い方をすれば、報告書は事故原因として現場の判断ミスを重視し、企画段階の問題を軽視しているともいえます。危機管理の経験のなさを重視するあまり、企画段階のずさんさへの言及があまりにも少ない報告書となっています。

また、ガイドに業務遂行の有形無形のプレッシャーを与えておきながら、ガイドに判断を委ねすぎている。ここに問題の本質があるのに、と思うとやるせない気持ちになります。

しかし私は防災という業界に生きていることもあり、業務の体制作りに真剣な提言がなされていない、この報告書の書きぶりについては違和感が強いです。なぜなら、災害の教訓は、例えば応急対応に携わる現場のリーダーの育成にはそれほど大きな重点は置かれず、むしろ、災害の対応などの手痛い教訓は、事前の準備不足の問題として、より緻密な地域防災計画に活かされる方向性があるからです。また住民については自助や共助が叫ばれ、行政に過度に依存するマインドから脱却しようとしているのが現在の日本の防災の段階です。というのも、防災分野では何十年に一度の大地震に対して、実戦経験を積んで危機対応のプロフェッショナルなリーダーを育成しようなどという話自体が現実離れしているからです。突然の危機に対して、人間は判断においても圧倒的に弱い存在であることを思い知らされるのが災害です。そうであれば事前にやるべきことを列挙しておく、計画を立てるという形で現場判断をサポートする方向が正しい道筋です。

参考までに最近書いた記事を紹介します。

+ C am p 4 +  β version

私は防災も登山もリスクマネジメントという意味では同じ要素があると思っています。

プロフェッショナルの育成、それはそれで重要なことではありますが、しかしそれではツアー登山の第三の利害関係者である一般の登山者がこの問題から取り残されてしまうことも考慮するべきではないでしょうか。そんなことを強く感じます。

この報告書にあるように、永遠の課題かどうかは私にはなんともいえません。

ツアー登山業界が率先して予備日を持つなど安全な登山計画を公けにする、そしてそれを確実に実践する、というプロセスに一般登山者が関与することで彼らのマインドも高め、ひいいては能力の底上げに寄与するのではないかと思います。

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