「6才のボクが、大人になるまで。」感想


 スクール・オブ・ロックリチャード・リンクレイター監督(兼脚本&製作)、エド・ウッドパトリシア・アークエットガタカイーサン・ホーク他出演。ある少年が6歳から18歳になるまでの成長と、その周囲の人々の人間模様を描くヒューマンドラマ。

 主人公メイソン・ジュニア演じるエラー・コルトレーンの成長に合わせて、同じキャストで実に12年もの歳月をかけて少しずつ撮影し、完成させたという、前代未聞の撮影プランでも話題となった本作。
 誰もが一度は思いつく手法ではあると察するが、実際にやるとなれば、契約や制作費の問題はもちろん、出演者の病気や急死、あるいはモチベーションの低下による途中交代ができないというプレッシャーと不安も、当然あったに違いない。この映画史に残る偉大な挑戦と、それを完遂しきった出演者とスタッフの尽力に、まずは敬意を表したい。

 さて肝心のストーリーは、まったくごく普通の一般家庭に起きるであろう出来事を、少年の目を通して追っていくといった具合。多少の差異はあるにしても、おそらくはアメリカのどこの家にでもあるような、当たり前の生活や変化、あるいは悩み、衝突が淡々と描かれ、ためにビックリするような大事件や、わざとらしいほどの御涙頂戴劇は一切なし。
 もっと言うならば、展開そのものにほとんど抑揚もなく、ネタバレしてしまえば、これといったオチも特に用意されていない。3時間弱という長尺も相俟って、正直、退屈に感じる人も少なくないだろうと察する。

 しかし、小生はこう考える。このまったく当たり前の少年を、12年もかけて撮影した意義は何だろうと。あくまで物語はフィクションであるが、当然のごとく12年という月日の間に、メイソン演じるエラー少年も、子供から大人へと成長している。ドラゴンボール大好きキッズだったメイソンが、クラスメイトへの恋や、母親の再婚相手との確執など様々な経験を積み、時には悪い遊びなども覚えながら、心身ともに大きくなっていったように、エコーくんもまた、その間メイソンに負けず劣らず、様々な経験をしたに違いない。
 聞けば、毎年夏に行われていた撮影の前に、監督と出演者達がこの一年で何があったかを話し合い、脚本を作り上げたという。撮影当時を思わせる、例えばハリー・ポッター最新刊を買い求める人の大行列や、レディ・ガガの登場、ダークナイト「トワイライト」のブームといった出来事が、我々と本作の世界を、シームレスに繋いでいるようにも感じられた。

 つまりこれは、映画という体裁を取りつつ、物語の中に物語以上の血の通った人生の断片を閉じ込めた、極めて野心的な作品であると同時に、ジャクソン・ポロックの抽象画のように、この手法でなければ描けなかった、否、この手法をひっくるめての真価だと断ずる。

 普段から「映画は画面に映ってるものが全てだ、どんだけ苦労したとか知るかバカ」なんて言ってる小生だが、これはさすがに感服、脱帽せざるを得ない。まさに唯一無二にして空前絶後。この歴史的傑作をスクリーンで鑑賞できた事は、映画ファンにとってこの上ない幸運であったと、後の世代に自慢し続けよう。

 そういえば、どうでもいい余談。キル・ビル公開当時、例のタラがインタビューで、ユマ・サーマン演じるザ・ブライドに殺された女殺し屋の娘が、母の正体を知らないまま大人になり、復讐のために暗殺者になる、みたいな続編の構想を、嬉々として語っていた覚えがある。
 アレの公開が12年前。当時あの子が4、5歳だったと仮定すると、そろそろ何かしらアナウンスがあってもいい頃だが、多分本人も忘れてるな、ウン(エー)。

 ☆☆☆☆★

 参りました。星4つ!!



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