NHK教育アニメの正当後継者「エレメントハンター」

エレメントハンター

2029年。世界各地で「元素が消える」という謎の現象が起こり始める。
どうして、いつ、どこで、何の元素が消失するのか。それらは全くわからなかった。
60年という歳月の間にわかったことは、消失した元素は次元の壁を超えた先のもう一つの地球「ネガアース」に送られていること、ネガアースに行けるのは13歳以下の特殊な少年少女たちだけだということ。ネガアースに送り込まれた元素はネガアースの生命体に突然変異を引き起こさせること。
頻発する「元素消失」に対し、国際連邦政府はその拠点をスペースコロニーに移し、特殊な訓練を受けた少年少女たちだけのチーム「エレメントハンター」を結成し、ネガアースに送られた元素の回収にあたらせていた。
一方、地球で生活する少年レン、キアラ、ホミの3人は、ある日、偶然迷い込んだ廃墟で、「エイミー・カー」と名乗る科学者とアンドロイドのユノに出会い、ネガアースで消失した元素を回収する任務を託される。
地球と人類の命運を背負わされた少年少女たちは、「もう一つの地球」で何を見るのか…。


日韓共同製作でスタートした本アニメは、NHK教育としてはかなり本道なSF作品に分類していいだろう。
普通の小学生だった主人公たちがある日突然地球の運命を背負わされ、立ちはだかる困難を知恵と勇気と友情で乗り越えてゆくのは、単純でありながら胸のすくストーリーだ。
ネガアースで突然変異した生物・QEXとのバトルが序盤のいわゆる「見せ場」となっていて、「地球から消失した元素のうち1種類の元素がQEX化を引き起こしている」ので、「その元素を化学反応で取り出して元の生物に戻す」というのがエレメントハンターの基本的な戦い方となっている。「酸素OでQEX化した生物に対しては、水素Hをぶつけて水H2Oを作って取り出す」といった要領だ。他にも熱や電磁波、磁力を利用することもあったりして、実にNHK教育らしく元素の特性が楽しく学べるスタイルのアニメに仕上がっている(なお「水を作るにはO=1に対してH=2が必要」などの価数の問題については省略されている)。
さらに番組のSF設定・考証は「毎週元素の性質が学べるアニメ」の枠に留まらず、物語中盤で主人公たちが直面する「ネガアースでの新たな異変」を契機に、「ゲシュタルト生命」「サブアトミックチップ」「高次元宇宙の認識」などなど、最新の科学的知見に基づくディープな設定を巧みに物語に織り込んで、非常に完成度の高いシナリオに昇華させている。
それでいて根底を貫いているのは、親子愛だったり兄弟愛だったり友情であったりするので、マニアックなSF知識の部分をスルーしても楽しめる仕上がりだ。
そしてこれらのシリアスな場面を、OP曲「First Pain(石川千晶)」の劇伴Ver.が否が応にも盛り上げてくれる。実に手堅く正統派な演出だ。


ただ残念なことに、アニメ本編の作画に関しては、日韓共同プロジェクトということで一切日本人が関わっていないため、お世辞にも良いとは言えないレベルである。その上、主役の小学生レンを演じるのが13歳の子役だという点も、観る人を選ぶチョイスだったと思う(まぁ、最後まで観た私は「もうこの子の声でなきゃダメだな」と思いましたけれども)。
恥を忍んで申し上げますが、そういう事情も手伝って、放映開始当時の私はまずそこを取り上げて酷評し、「つまらない」とか「切る」とかでなく「ネタでなら」ぐらいの小バカにしたスタンスで紹介していたことを深く反省しましたよ。自分のアニメファンとしての先見性の無さに失望するよ本当に。
まあただ、「電脳コイル」とか「獣の奏者エリン」とかのレベルを期待した視聴者に対して、まずそういうハードルを用意しているという点では、手放しで評価できない作品ではあります。
作画にこだわる人は、一気に観るか、間隔を空けるにしても他の良作画アニメを観ずに最後まで観ることをお勧めします。「慣れる」というのもありますが、「日本人の描く絵を一生懸命真似てるから違和感がある」だけであって、質そのものは安定しているので。


とはいえ、ストーリーとSF設定についてはかなり本格なNHK教育クオリティ。
おかげで(いい意味で)「玩具が売れない」アニメに仕上がった意欲作「エレメントハンター」。
時間と空間と次元を超えた冒険に、君も一緒に旅立とう!


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