劇場霊

久しぶり休日、といっても、五月、六月と老父が二度も入院したので仕事の予定が大幅にくるってしまい、遅れを取り返すためにも一日も休んでいる暇などないのだが、連日のストレスに、ここらで気分転換をしないとどうしようもないので、妻が留守をしているすきに大好きなホラー映画をDVDで視聴。
結論から言うと結構楽しめた。
実は、怪談に詳しい方から、駄作だとの注意を受けていたので今日まで敬遠していたのだが、ストレス解消のために罵倒してやろうとの邪まな動機で借りて来た。ところが…。
冒頭のシーンが劇中劇風の作りなのに過去の事実だったとか、いかにもありがちなBGMとか、細かいケチをつければいろいろ不満はあるけれどもドラマ全体は案外面白かった。
いちばんの難点は、ホラー映画なのに怖くないということ。これはドキッとさせる演出だと頭では理解しながら観ていてドキッとしないのである。しかし、あの『女優霊』の中田監督作品だと思ってみるからいけないのであって、昔懐かし二時間ミステリーだと思えば十分に面白い(皮肉ではない)。
演劇の世界を舞台とした青春ドラマとしても、ヒロインの島崎遥香、ライバル役の足立梨花高田里穂らが熱演しているほか、小市漫太郎が嫌みたっぷりに演ずる演出家の先生もよい。先週見た『幕が上がる』に比べてしまうと見劣りはするが、比べる方が悪いのであって、これだけ見れば十分に面白い(皮肉ではない)。
映画館でロードショーを観るのと、自宅でサービス期間で百円のレンタルDVDを観るのとではがっかり感が違うのかもしれない。
あえていえば、怖がって逃げ回るだけの女の子というヒロインの性格設定が古い。だいいち、あの人形はそんなに怖くない。もっとも、彼女もクライマックスではぶち切れて事件を解決に導き、さらにはエピローグでは不敵な表情を浮かべて女優魂を魅せるのだが、そこにいたる成長が描かれていないので唐突に感じる。これは演じた島崎のせいではなく、原案または企画に不備があったと思わざるを得ない。
で、怖くない人形だが、人間に似せて作った人形は似せれば似せるほど、ある一線からは不気味に感じられるという説があり、それを採用したものと思う。まあ不気味だ。でも怖くないんだなこれが。単純に人間に似せるよりも、非人間的な怪しい美しさを漂わせるタイプのものの方がよかったと思う。
人形が怖くないものだから、島崎が怖がる演技を熱演すればするほど、さっさとやっつけちゃえよと思ってしまうのである。現に、クライマックスではあっさりやっつけちゃうのである。
でも、場面展開にだれたところもないし、退屈せずに最後まで観た。十分に面白かった。