「よいこの君主論」 架神恭介+辰巳一世著

よいこの君主論 (ちくま文庫)

よいこの君主論 (ちくま文庫)

先頃、ピター・F・ドラッカーの組織管理論手引書『マネジメント』を下敷きにした『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(略称「もしどら」)がベストセラーになったことは、記憶に新しい。ボクも書店をブラブラしている時に、装丁やタイトルが気を惹いたので、ベストセラーになる前に購入していた1冊だ。内容から、十分に小中学生にも楽しめる学園ものとしての一面もあると判断したので、読了後に娘・息子に譲った。本書も、この「もしどら」と類似の書になる。こちらは、マキャヴェッリの「君主論」を下敷きにしたもので、小学生の主人公ひろし君が、如何にしてクラスを制覇し統治する専制君主になるかを君主論に基づいて物語を追っていく。状況設定が、小学生の覇道達成という無茶でふざけた設定なのだが、君主論そのものよりお気楽に読めるだろうという狙いで手に取ったのだ。

君主論の著者ニッコロ・マキャヴェッリは、約500年前のルネサンス期にフイレンツェ共和国の外交官であった。国の安定は傭兵に拠らない軍事力にあるとし、国民軍の創設を主張したりしていたが、その後職を解任され、政治事件にも連座したりと43歳にて隠遁生活に入いらざるをえなかった。フィレンツェシエナ間に広がるキャンティ地方の山荘に家族とともに移住し、昼は農作業、夜は読書・執筆三昧で君主論を書き上げたという。後にこの君主論を持ってメディチ家政権の顧問的立場で政治に復帰するが、最後は「目的のためには手段を選ばない狡猾者」と非難され失意のうちに病を得て急死したのだ。

ひろし君のライバルであり、勉学優秀で運動能力に劣る学級代表のまなぶ君は、校内ドッジボール大会で、弱点を補うため、自らのチームに傭兵(他チームの運動得意少年)を迎える戦略をとる。この傭兵が実は、ひろし君の腹心の部下で内部からまなぶ君のチームを崩壊させるのだ。戦いのプロフェッショナルである傭兵は強いと思われるだろうが、実際はお金のためだから自らの命を賭けるほどの熱意はないし、もし傭兵が強い場合は寝返りの危険もある。とマキャヴェッリは教えている。まなぶ君のグループは傭兵の寝返りで、内部崩壊しひろし君のグループへ吸収合併されるのだ。

マキャヴェッリは、「目的のためには手段を選ばない狡猾者」と非難されたほどの人物であるので、「友情・正直・思いやり」などを教育方針の根幹に掲げる小学校のおすすめ図書には絶対にならないのが本書だ。小学生を主人公にした学園ドラマ的本書の対象読者は一体誰なのだろうか、という疑問が残る。小学生ひろし君の覇道を参考に、リーダーの条件を研究しようというビジネスエリートや政治家は少なそうだから、本書を購入する層はかなりの少数のひねくれ者に違いない。だからか、「もしどら」がベストセラーになったのに対し、本書はそれほど売れていない一般受けしないマニアックな1冊であると思う。ちなみにAmazon売上ランキングでは「もしどら」が91位で、本書は46969位である。さすがに小中学生の娘・息子にすすめるには、副作用の方が大きい劇薬のような1冊なのだ。本書のキャッチコピーは、「幼少期からの帝王学を学ばせたい両親へ」とあるが、悪いジョークである。