グーグルのストリートビュー

産経新聞で、「ラブホテルから芸能人の自宅まで グーグル『ストリートビュー』」という記事が配信されました。
 この記事によると、以下の通りです。

”ネット検索最大手の米Google(グーグル)社が提供しているオンライン地図サービス「Google マップ」日本版に、話題の「Street View(ストリートビュー)」機能が追加された。同社が事前に撮影した東京、大阪、仙台、札幌など12都市について、画面のパノラマ写真を360度回転操作しながら、文字どおり街路を歩いて風景を楽しむ感覚の“仮想散歩”機能である。米国では昨年5月サービスが開始されたが、偶然写り込んだ人物のプライバシーについて問題視された。今回の日本版では、米国に比べ特殊な社会構造を背景に、いわゆる身元調査や警察・選挙運動に悪用される恐れがある。”

 2007年6月5日のEUのネット記事で、アメリカの5都市で、通行人を見ることのできるグーグルのストリートビューが始まり、EUでは違法となりうると言う記事が出ていました。http://www.theregister.co.uk/2007/06/05/google_street_view_legality_in_europe/
 まさか、こんなに早く日本で導入されるとは思ってもみませんでした。

 個人情報保護法ザル法だと言うことを、本国が見透かしているように思いました。
 グーグル側の説明は、以下の通りで、問題があると思われます。
 
” 河合氏は、画像の公開にあたっては「法律的に検討した結果、公道から撮影したものであれば、基本的には公開して構わないと考えている」と説明。また、不適切な画像については、ストリートビューのヘルプ画面に「不適切な画像を報告する」というリンクが用意されているため、ここからユーザーからの連絡を受けて対処を行うことで対応していきたいと述べた。
 撮影地点については、「撮影する道路は公道からに限っており、私道や敷地内に入っての撮影はしていない」と説明。また、映っている人の顔については自動認識によりぼかし処理を行っており、米国では車のナンバープレートなどについても一部処理を行っているが、日本では解像度の問題でほとんど識別できないと思われるため、現時点では顔以外には自動的な処理は行っていないとした。”

 昨年のアメリカでのストリートビューの記事を含め、昨年の人権シンポでは、監視カメラ問題に関する問題点について、以下のように指摘しました(私の担当箇所。基調報告書p194)。

”(9) ホームページ上から自由自在に閲覧できる街頭監視カメラ(いわゆるweb−camera)
すでに検討した歌舞伎町の監視カメラのうち、商店街の設置にかかるものについては、協同組合新宿専門店会のホームページにアクセスすれば、24時間歩道や車道の人や車両の動きが把握できる体制が採られている。http://www.shinjuku.or.jp/html/livecamera/index.html
 ビルの7階からの映像と言うこともあり、通行人が逐一誰か認識できるほどではないし、ホームページからはズーム機能は使用できないようになっているため、これが直ちに個人識別情報を収集しているものとまではいえない。しかしながら、ズーム機能により、個人を識別できるようにすることも容易であると考えられるのであるから、そのような場合においては、通行する歩行者への同意なしの撮影を行うものとして違法となる可能性が高い。
 なお、このような、街頭の監視カメラの映像は、全国に数多くあり、その中には、ズームアップ機能が付されている上に、ホームページからカメラの向きやズームアップ機能などについて指令を出すことのできるものもある。http://www.wcmap.net/pc/index.html
ここでは、設置場所として、①公道、公園など、一般人が本来自由に行動することが許されている公共の場所であるとともに、設置主体として、直接は②もっぱら不法行為の成否をめぐって権利侵害が問題となる私的団体であるものの、そもそも防犯目的ですらなく、プライバシーを制圧するに足りるだけの具体的な対立利益が存在するのか否かに根元的な疑問がある。
このようなカメラは、web−cameraと呼ばれ、国際的には数年前から問題とされてきた。
 2007年6月4日のIT media Newsによれば、「Googleが導入した新しいオンライン地図サービスについてプライバシーの懸念」との見出しで、以下の記事が配信されている。
 「サンフランシスコでは、通りの角に鼻をほじっている男性がいる。スタンフォード大学には、ビキニで日光浴をしている女子学生たちがいる。マイアミには、中絶医院の外でプラカードを掲げている抗議団体がいる。その他の都市でも、アダルト書店に入っていく男性や、ストリップクラブから出てくる男性の姿が見える。
 この機能は高解像度写真を提供し、ユーザーは街の通りを歩くように360度でリアルに景色を見られる。
 だが、恥ずかしい場面や不名誉になる場面が映っているかもしれないことから、Googleは世界をもっとアクセスしやすくするための最新の取り組みで行きすぎてしまったのではないかという疑問を招いている。」
家の中にいても、窓を開けていればプライバシーが開かれているとして、捜査機関による同意なしの写真撮影が許容されるアメリカと異なり、判例上、街頭のデモ行進を行っている者でさえ肖像権が手厚く保護されてきたわが国において、このような事態を招くことが当然に許容されるものとはとうてい考えられず、適切な設置・運用の基準が法定される必要がある。”

 ストリートビューの試みは、日本におけるプライバシー権保護が、どの程度のものか、を問う挑戦状とも言え、これに対する批判がどの程度的確になされるのかが問われることになります。