ラノベ原作の実写映画で初めて傑作に出会った

半分の月がのぼる空 [Blu-ray]

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 北陸では上映がなかったのでDVDで視聴。
 決して大傑作ではないけれど、少なくとも傑作だった。原作も大好きなんだけど、同じくらい感動した。漫画・ラノベ原作実写映画マニアの私に言わせれば、ラノベ原作の実写映画って、はっきり言って駄作しかこの世には存在してこなかった。「少女隊PHOON クララ白書」に始まり、「タイムリープ」「ブギーポップは笑わないラノベじゃないけど「ひぐらしのなく頃に」そして「マリア様がみてる」など、死屍累々とはこのことだ。でも、本作を観てちょっと考えを改めることにした。ラノベ原作でも、傑作になり得ることはあるのだ。年100本くらいの映画を観る私だけど、現在邦画部門で2010年暫定3位。
 原作は後日談含めて全八巻、映画化されたのは第一部である五巻までの部分。今年ハードカバーで加筆修正が加えられた完全版が出たけれど、それも上下で九〇〇ページもある。というわけで、2時間の映画にする際に多少の設定改変やストーリーの大がかりな刈り込みが必要なんだけど、それに関してはほぼ理想的な仕上がり。
 この原作のキモというのは、二人の病気というのが決してお涙頂戴の道具立てのみに存在しているのではない、という点。少なくとも、「人が死んだよ。さあ泣いて泣いて」というような安直なお話ではない。肝炎で入院した裕一と、そこで裕一が出会う心臓病の少女、里香。裕一にとっては入院生活が非日常、10年近くを病院で過ごす里香にとっては裕一が外の世界から持ってくる世間の匂いこそが非日常。二つの異なる世界が交差する場所として、病院という設定が存在している。そして、もう一つの役割としては、この二人が突き破るべき壁として里香の難病という設定がある。
 里香は言ってしまえば明日をも知れない病弱な少女。長時間歩くことも難しく、ちょっと体調が悪い日は起き上がることすらままならない。そしてそんな自分に諦めすら抱き、周囲から閉じこもってしまっている。そういう殻に閉じ込められた里香を、裕一はそれこそ最大限いろいろなところに連れ出す。その行動だけを取ると、せいぜい病院から抜け出すとか、バカらしいくらい些細なことなんだけど、それまでの描写がきめ細やかだからこそ、もの凄いカタルシスを持って表現される。病院を抜け出す、ということがそのまま里香の持つ心の壁を打ち破ることの暗喩になっていて、もうそれだけで涙がぼろぼろ溢れてきてしまう。
 その辺りを、この映画でも非常に丁寧に映像にすくい取っている。単なるお涙頂戴にせず、明確に二人の若者の成長物語にしている。
 あと、もう一人の主人公として里香の担当医である夏目の存在が原作では大きいんだけど、その辺の処理が素晴らしい。夏目に関してはいくつか設定変更があるんだけど、それが非常に効果的。大泉洋の存在感も素晴らしく、「十三人の刺客」の稲垣吾郎と並んでアカデミー助演男優賞級の活躍。
 とにかく、本当に良い映画だった。観て損はない映画だと思います。オススメ。