「GHADA ガーダ 〜パレスチナの詩〜」


映画祭、2本目は日本人ジャーナリストによるドキュメンタリーを見た。
 
【GHADA ガーダ 〜パレスチナの詩〜】

  監督  :古居みずえ
  制作会社:安岡フィルムズ/アジアプレス・インターナショナル
  制作年 :2005年
  http://www.ghada.jp/



日本人ジャーナリストの古居みずえさんが、12年間に渡ってガザ地区に住む女性ガーダと、彼女の家族を取材し、まとめた作品である。


もちろん、題名の通り舞台はパレスチナであるし、イスラエル軍との対立は重要な要素だが、この映画の骨子は政治的混乱ではない。現代のパレスチナ女性ガーダの成長記録だ。


作品の冒頭、ガーダは古いパレスチナのしきたりと風習に不平を漏らす。自立心が旺盛で少し勝ち気なガーダは、慣習にのっとった見合いと結婚のプロセスに納得がいかないのだ。しかし、祖母と母親により、式の日どりが決められてまう。
封建的で男性優位の社会構造ではあるが、家族の決めごとに関しては、母親の発言力が強いのが見てとれる。


「家族のために結婚するわけじゃない」
ガーダは結婚は了承したものの、伝統的なスタイルの結婚式は拒絶。家族や友人が集まったパーティーでも、パレスチナの音楽とダンスに退屈な表情を浮かべるのだった。


1996年ガーダは最初の子、ガイダを出産。平和で幸せな時間が過ぎる。ガーダは長女ガイダを「平和の子」だと言う。「この子は戦争を知らないの」「幸せだわ」


しかし、2000年、第二次インティファーダが始まってしまう。イスラエル兵による道路の封鎖で、実家へも自由に往来することができない。爆音と、銃声音。地鳴り。そういったことが日常になる。いつまでも止まない銃声音にしびれを切らし、親戚の男性は家畜に餌をやりに行こうとする。「いつになったら、餌をやりにいけるんだ。弾があたったら、運が悪いということだ」
一度、銃撃戦が始まると、家から動くことも出来ない。仕事も、買い物も、すべてが止まってしまう。「いつまで待てば良いのか」皆の思いだ。


ついに親戚に犠牲者が出てしまった。まだ幼い甥が頭を背後から撃たれ死亡する。彼の両親は、道路の封鎖で病院に来ることさえできない。この出来事をきっかけに、彼女は母親として、パレスチナ人としての自分を意識するようになった。


そして、今、彼女はパレスチナ人の原点、故郷の話しを書き残す作業を始めている。1948年のイスラエルの建国により故郷を追われた体験や暮らしについて、聞き書きをしているのだ。夫の協力も得て、彼女は静かに、しかし強くパレスチナの地に根をはるのだ。



こんなにもパレスチナ家庭の中に入り込んだ映像は、そう見られ無い。しかも、12年間だ。それは、この映画のカメラマンであり監督の古居さんが女性だからと言うのが大きいのではないだろうか。先にも書いたが、パレスチナの家庭では女性がドシリと中心に座り込んでいる。この中で、男性が一緒に座り込むのは無理があるだろう。きっと上座に追いやられてしまう。


また、古居さんのキャラクターもパレスチナ社会に受け入れられる要素の一つに違いない。何度かお会いしたが、気どらず、それでいて人に気を使う人だ。多弁だとは思わないが、明快で媚びない発言が気持ちいい。
そんな彼女だからこそ、可能な撮影だったのだろう。




ここまで書いて、作り手の古居さんはジャーナリストなのか、という疑問が浮かんだ。ここではドキュメンタリー作家と言った方がいいだろう。(あえて、上記は書き直さないが)


この作品において、作り手と被写体の関係はあまりにも近い。ガーダ自身、「古居さんに影響を受けた」と言っている。作品によって例外はあるが、作り手の主体が作品の視聴者より被写体に近い場合、ドキュメンタリーと呼んだ方が良い。
被写体と作り手が影響し合い、一緒に作り上げる作品。それが、“どう視聴者に影響するか”は、ドキュメンタリーの場合それほど重要ではない。“何を伝えるか”より、“何を表現するか”に重点が置かれるからだ。


そして、私たち視聴者のそれぞれの心の中で意味づけされ、この作品は完成するのだ。
ドキュメンタリーとは、そういう物なのではないだろうか。



当初書きたかったまとめと、すこし違う方向に来てしまったが、、、
ま、いつも中途半端にしかまとまらないブログなので、これで良し。


□■ 公開情報 ■□

2006年5月20日よりロードショー公開

□渋谷 UPLINK X (WEB)
  TEL:03-6825-5503
  5/20(土)〜 12:00/14:10/16:20/18:30

名古屋シネマテーク (WEB)
  TEL:052-733-3959
  5/20(土)〜26(金) 10:30/12:30
  5/27(土)〜 10:30

□大阪 シネ・ヌーヴォ (WEB)
  TEL:06(6582)1416
 



次は「リトルバーズ」かきます。
おやすみなさい。