ピート・キャロルへの手紙6


2017年9月最初の土曜日
ロサンゼルス・コロシアム
快晴の天気だったが、
クレイ・ヘルトンは、苦虫を潰したような顔をしていた。
「なかなか、粘るな」


2017年シーズン開幕戦、
ローズボウルを目指すUSCトロージャンズとしては
何がなんでも落とせない試合だった。
3Qまでのスコアは21-21のタイ。
クレイ・ヘルトン率いるUSCは
エスタンミシガン大学ブロンコス相手に苦戦していた。



4Qに入ってトロージャンズは3つのTDで21点を加えたが
ブロンコスも10点を返していた。
残り4分を切ってスコアは42-31の11点差。
USC陣20ヤードからのウエスタン・ミシガン大学の攻撃。
11点のリードをされているものの展開次第では
逆転の目もあるウエスタン・ミシガン大学
まだ、戦意を失っていなかった。
「しぶとい相手だ」クレイは、ひとりごちた後、
61番の選手に準備を命じた。



セカンド・ダウンの攻撃、
エスタン・ミシガン大QBケイシュン・ワトソンは、
ジョー・ワシンクをねらってパスを放った。
楕円のボールは回転しながら、ウエスタン・ミシガン大の
レーシーバーが走り込んでいるコースへ
正確に投げ込まれていた、
しかし、そのパスをUSCのディフェンス・バック、
マーべリック・テルが遮り、その手に収めた。


ターン・オーバー、
攻守が一転して変わる。
コロシアム全体が揺れるような歓声に包まれる。
マーベリックは、手に納めたボールを胸に抱えて
ゴール・ラインを目指した。
エスタン・ミシガン大学の11人の選手は
全力で彼を追った。だが、誰も彼を止められなかった。



テルは、エンドゾーンに飛び込んだ。
7人いる審判のうちテルの近くにいたレフリーと
ライン・ジャッジが両手を上にかざした。
タッチダウン、USC」ー観客の歓声を上回る音量で
アナウスが鳴り響いた。
USCは6点を追加した。
「よし」
USCのヘッド・コーチ、クレイは拳を握った。
残り3分で17点差ー試合の勝利を確信した。


彼は、大声で叫んだ
「61番、準備はできてるか!お前のプレーを見せてやれ!」
そして、クレイは、
フィールドを挟んだブロンコスのヘッドコーチ、
ティム・レスターを探した。
レスターはクレイトンの視線に気が付き
小さく頷いた。


61番は、右手をワイアット・シュミット左肩において
フィールドへ小走りで足を踏み入れた。
そのとき、USCのスタンドからコールが始まった。
「ジェイク、ジェィク、ジェイク」
タッチダウンの余韻が残るスタンドから
61番の選手を呼ぶ声が次第に大きくなった。


PAC12の公式戦で初めて、否、NCAAのゲームで
初めて盲目の選手がプレーする瞬間が訪れた。