22

 ヘラクレスとアンタイオスがリングに入った。第七試合はアンタイオス対ヘラクレスであり、決勝先であった。そしてゴングが鳴った。しかし向き合ったまま動かないでいた。その時突然、スポットライトの一つが独りでに壊れた。そしてロープも一本、独りでに切れた。マトゥサラは驚いてアルテミスに尋ねた。するとアルテミスは「彼らは激しく殴り合っているわ」と言った。そしてマトゥサラは再び彼らを見た。その時ヘラクレスの頬が、独りでに切れた。そして二人の間に、独りでに穴が開いた。その時マトゥサラは、二人の間に火花の様な物が見えた事に気が付き、よく見ようと目を凝らした。すると彼らは、アルテミスが言った通りに、激しく殴り合っていた。アンタイオスがいったん引くと、ヘラクレスに跳びかかって打った。ヘラクレスは腕を十字に組んでガードした。そこにアンタイオスのパンチが炸裂した。すると大音響と共に、波紋状の煙が広がり、同時にヘラクレスは後ろに滑って行った。そして彼が顔を上げた時、アンタイオスが走って来て打ちまくった。そしてヘラクレスは壁をぶち破って吹っ飛んで行って場外に落ちた。そしてアンタイオスも後を追って場外に走って行った。するとアルテミスはマトゥサラの腕を掴んで、アンタイオスの後に続いて走って行った。そしてレフェリーがカウントし始めた。ヘラクレスはリカヴィトス の丘に落ちた。その時アンタイオスはヘラクレスにバスを投げつけた。そしてバスがヘラクレスの上に落ちた。そして何台かの車がその上に落ちて、山になった。そしてその山が内側から崩されると、ヘラクレスが沢山の吹き飛ぶ車の中から現われて、アンタイオスに跳びかかった。その時アルテミスがマトゥサラの腕を掴んで走り走り始めた。そして二人はラリッサ駅の線路に来た。その時アンタイオスがそこに落ちて、立ち上がった。その時蒸気機関車が走って来た。するとアンタイオスは、その蒸気機関車を手で止めると投げ飛ばした。マトゥサラは思わず「銀河鉄道999だ!」と叫んだ。ヘラクレス蒸気機関車に跳びかかると、第一車両とテンダーを叩き飛ばして、客車の中に飛び込んで走り始めた。そしていくつかの車両を通り抜けた。するとアンタイオスが反対側から走って来た。そしてヘラクレスとアンタイオスは、その車両の中で戦い始めた。その時、蒸気機関車はアレクサンドラ通りの上空で、アーチ型になっていた。そして、車両の一つが破裂して、その中からヘラクレスが吹っ飛ばされて、アルテミスとマトゥサラの上を通った。アルテミスはマトゥサラの腕を掴んで走り始めた。そして二人は競技場に戻って再び客席に座った。ヘラクレスはヴァシレオス・コンスタンティヌー通りの上に落ちると、路上を滑って行った。そして彼は幾つかの家と壁を突き破って、リングの上まで来て止った。そして戦車を持ち上げたアンタイオスが、ヘラクレスの上に落ちて来た。ヘラクレスは仰向けに寝たまま戦車を殴りまくった。そしてアンタイオスも上から戦車を殴りまくった。戦車は二人の間でひしゃげて行って、バラバラに砕けた。そしてレフェリーは二十まで数え終わって、セーフと言った。その時ヘラクレスとアンタイオスは、リングの上で睨み合っていた。その時砲身が二人の間に落ちて来た。同じ隙を狙っていた二人は、同時に砲身を殴った。砲身が砕けた。そしてアンタイオスの拳も砕けた。そして無数の亀裂が腕を伝って行き、全身に広がった。そしてアンタイオスは全身が砕けて無数の肉片になった。レフェリーがカウントをとり始めた。その時、それらの肉片が一つの場所に集まり、合体して立ち上がった。アンタイオスは元通りの姿に戻ると「お前の頬の傷はそのままだな。つまり不死身ではないという事か」と言った。そしてヘラクレスに襲いかかった。するとヘラクレスはコーナーポストを引き抜いて、アンタイオスの頭に叩きつけた。するとコーナーポストがぐにゃりと曲がって、アンタイオスは腰までマットにめり込んだ。そしてアンタイオスは気を失った。そしてレフェリーはカウントをとり始め、十まで数えると、ヘラクレスの勝利を宣言した。アンタイオスはマットから引き抜かれて水をかけられた。そして芽をさまして悔しがった。
 その後、アルテミスは銀の馬車に乗った。その時マトゥサラは彼女に花束を渡して「これお父さんに。私お父さんが天に昇った後で初めて花が咲くのを見たの」と言った。アルテミスは「ギガントマキア以来、ノアが産まれるまでずっと冬が続いてたからね。お父様に渡しておくわ。ヘラクレスって強いよね。じゃあまたね」と言って、馬車を走らせた。そして馬車は星空へ向かって飛んで行った。その時、月が牡羊座と鯨座の間にあった。月齢は十八日であった。マトゥサラは月を見た。それから山羊座を見た。山羊座には惑星が無かった。そして彼女は考えた。山羊座の逆三角形は、天界への入り口だわ。死者の魂達は、その逆算角形を通って天界に昇るの。そして新生児の魂達は、蟹座の四角形を通って降りて来るわ。だけど中国の人は、死者の魂達が蟹座の四角形を通って天に昇ると考えているよね。彼らはプレセペが鬼火に似てると言っているわ。彼らはそれを積屍気と呼んでいるわ。それは『積み重ねられた遺体の気』という意味だわ。そしてマトゥサラは、どうしてメティデスが無くなったのかと考えた。

21

 プロレスの試合が行われた。出場するレスラー達は、アンタイオス、アトラス、クリストフォルス、ヘラクレス、金太郎、ポセイドン、サムソン、そしてトールであった。第一試合はアンタイオス対ポセイドンであった。しかしポセイドンは不在だったので、アンタイオスが不戦勝になった。第二試合は金太郎対トールであった。金太郎がトールに向かって行った。その時トールが金槌を投げた。しかしその金槌は金太郎には当たらなかった。金太郎が斧を構えてトールに跳びかかろうとした。その時トールの金槌が独りでに飛んで戻って来て、金太郎の後頭部に当たるとトールの手に戻った。金太郎は倒れ、トールが勝った。第三試合はアトラス対クリストフォルスであった。アトラスは「俺は天を背負っている!」と言った。するとクリストフォルスが「俺はイエス・キリスト、つまり全世界を背負っている!」と言った。するとアトラスは驚いて逃げ出した。そしてクリストフォルスが勝った。第四試合はヘラクレス対サムソンであった。ヘラクレスは「俺はライオンを絞め殺した!」と言った。するとサムソンが「俺はライオンを引き裂いた! お前は弱虫だ! ライオンは男らしく引き裂け!」と言った。ヘラクレスが「引き裂いたら毛皮を着れねえじゃないか!」と言った。するとサムソンが「着飾って綺麗になりたいのか! オカマ野郎め!」と言った。するとヘラクレスが「オカマはてめえだ! 何だこの女みたいな長い髪は!」と言って、サムソンの髪を引き抜いた。するとサムソンは別人のように痩せた。そしてヘラクレスが彼を軽く打つと、彼は物凄い勢いで太陽まで吹っ飛んで行った。サムソンが太陽に当たると、世界中が一瞬真っ暗になり、全ての影がユラユラと揺れた。そしてサムソンは煙を残して、太陽からリングの上に落ちて来た。そしてヘラクレスが勝った。第五試合は、アンタイオス対トールであった。トールは金槌を投げた。アンタイオスはそれを避けて、トールに跳びかかった。その時、金槌が独りでに、アンタイオスの後頭部に当たって、トールの手に戻った。アンタイオスは倒れたが、すぐに立ち上がって「おれは不死身だ」と言って、トールを殴った。するとトールが吹っ飛んでいって、アンタイオスが勝った。第六試合は、アンタイオス対クリストフォルスであった。しかしクリストフォルスが不在だったので、アンタイオスが不戦勝になった。