道具 てぬぐい

書く事ないので、困った時の道具だのみ。

てぬぐい

三尺、約90㎝の木綿の布。
いかようにも使える万能選手。


普段から首にかけて、襟元にたくし込んでいる。
首の後ろが日に焼けると疲れるので日焼け防止と、暑い時は水に濡らした
てぬぐいを首に掛けて身体の温度調整。
汗をかいたら、そのまま額を拭える。


明るい所で仮眠を取る際は、てぬぐいで目隠しをして眠る。


蚊が多くて眠れないときは、そのまま顔面に巻いて顔だけの蚊帳。
目が粗いから空気も普通に吸えて寝苦しさも無い。


風呂に入って擦って身体を洗うのにも、風呂から上がって絞って身体を拭くの
にも、てぬぐい一枚あれば事足りる。
そして速乾性、しっかり絞って部屋に一晩干せば翌朝はピシっと乾いている。
昔の日本人はよくもまあ、こんな便利なものを作った物だと感心しきり。

欧米人のバックパッカー、特に女の子に多いのだがバスタオルをそのまま
バックパックに入れて持ち歩いている。
何処に居ようと、国での生活を固持する彼等の習性みたいなものなのだろうが、
嵩張るし、乾かないし、重たいしで不便だろうなって思う。

そこへ行くとジャポネが生んだてぬぐひは段違い。


もう一つおまけの魅力、日本的な柄。
今使っているのは浅草「ふじ屋」のものと、「かまわぬ」のてぬぐい。
「ふじ屋」・『目くじら』
「ふじ屋」・『しゃれこうべ
「ふじ屋」・『文殊菩薩
「かまわぬ」・『狐の嫁入り
旅行中既に上2本、紛失してしまっているが当初用意したてぬぐいは上記
の通り。
江戸の洒落が効いていて、格好いい。
『目くじら』は紺色にくじらの目だけが染め抜かれている柄。
くじらが大きすぎててぬぐいの枠には収まらないっていう面白さと、目くじら
立てずに、っていう洒落が効いている。
しゃれこうべ』は骸骨がやぁって挨拶をしている柄。
死が身近にあった江戸時代だからこそ、ああいった洒落が出てくるんだろう
って面白さ。メメントモリより一つ次元が上。
文殊菩薩』真面目な柄、原発の名前にもなっている通り、文殊と普賢、
知恵により力を制御するってのが、面白いといえば、面白い。
柄が奇麗なので、外国人女性に良く褒められる。
狐の嫁入り』雨の中、狐達が嫁入り行列。
狐達の姿がユーモラス。斜めに平行の雨が走り、図案としてもきちっとしている。


風呂上がりの儀式として、濡れたてぬぐいをしっかりと絞って、両隅を持って
「ぱんっ」と派手な音を立てて、てぬぐいを弾く。そして部屋の中に干す。
すごく興味深げに外国人達が遠目に見ている。
部屋を出て、外から覗いていると外国人が集まりてぬぐいを観察している。
やっぱり罠に嵌った。
と、彼等の目から見たら、日本のてぬぐいは不思議な物に見えるらしい。
ましてや日本的な図案、彼等の目から見たら滅法奇妙で奇麗に見えるようだ。
おもむろに登場して、説明して差し上げる。
「この布は日本の伝統工芸品である。何にでも使える、万能の布である。」
そして彼等はそれを欲しがる。特にフランス人の食い付きは激しい。
だが、断る。
と、小芝居込みで日本の文化の素晴らしさを伝道中。


日本の文化を伝えたいならば、そして何かしらプレゼントをして上げたい
ならば、てぬぐいは外国人にとても喜ばれると思われる。
使えるし、奇麗だし、安いし。良い事尽くめ。


てぬぐいの裾の部分が縫われていないのは、怪我をした時などそこから裂いて
包帯にしたり、ゲタの鼻緒が切れた時に裂いて捩って代わりとして使うため。
一枚の布から、ここまでの可能性を引き出す日本文化の精神性。
どこの国も、絶対に真似出来ない。
これは誇って良い。