アニメ見ながらごろごろしたい このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2017-12-09

「アイカツスターズ」早乙女あこは誰よりもアイドルらしいアイドル

フワフワドリームのダブルミューズである早乙女あこと花園きらら、彼女達がこれからも一緒に夢を追い掛ける誓いを立てた84話。作画監督は「ROCK!ロックガールズ!」「あこ、まっしぐら!」「きらら フワフワ〜なアイドル」と過去に何度もあこ、きららのメイン回を担当した三橋桜子さん。抜群に安定した作画が魅力であり、コマ送りで眺めても美しいシーンしかありませんでした。84話の脚本と作画のあまりの出来の良さに感動して、溜め込んでいたあこへの愛情が爆発した為、これを機に早乙女あこについての話を書き残しておきます。

f:id:taida5656:20171209125255j:image
誰の為にアイドルをするのか
登場して間も無い頃の早乙女あこはアイドル失格でした。結城すばるファンのあこは彼と親しくなる為に四ツ星学園に入学。アイドルになりたい動機が自分が輝く為でも無ければ、沢山の人達を笑顔にしたい訳でも無いなど、アイドルに憧れる大半の生徒とは考え方が違いました。バラエティ番組でM4の結城すばると共演した時は彼の事しか頭に無く、番組の都合を無視してすばるに関係するトークばかりを繰り返す有り様。すばる以外の人達を喜ばせる意識が致命的に欠如していたあこは、アイドルとして誰よりも劣っていました。その他にもすばると仲の良さそうなゆめに対しては、嫉妬して冷たい態度を取るなど、人としても未熟な点が多く見られました。

ちなみにあこは仕事に対する姿勢は問題があるのですが、すばるへの愛を原動力に磨かれた技は本物であり、劇組ではトップの成績を残しています。特技のバレエが殆んど活かせない劇組でトップを取るあたり、その実力は侮れません。あこが劇組を選んだ訳は特に触れられていませんが、劇組は女優としての仕事が増え易く、男性と共演する確率が最も高い組なので、もしかするとすばると親しくなりたいから、ダンスの舞組より演技の劇組を選んだのかもしれないですね。

さてアイドル失格な行動が目に付くあこですが、何時までもそのままということはありません。自身の欠点をかなたから指摘され、すばるの為だけにアイドルをしていいのかと問われ、ゆめの真剣に仕事に取り組む姿に影響され変わり始めます。最初がダメダメである分だけ、成長した時の伸び率はゆめ達より大きく、1年目中盤以降の活躍は目を見張るものがありました。あこは学園を去った小春や謎の力の暴走の件で元気を無くしたゆめを励まし、真昼が高校生に絡まれた時は勇気を出して助けようとする。最初は我儘で自分勝手な行動が目立ったあこですが、だからこそ成長してからは反対に仲間を大切に想う姿が多い。

かなた「そんな事よりフェスに出たのって、やっぱすばるに近付きたいから?」

あこ「それだけじゃありませんわ」

かなた「俺の分析によると、あの子を元気づける為にユニットを組んだ。当たり?」

あこ「そんなことあるわけないでしょ」


最近の出来事を挙げると、あこはゆめと同様に香澄家に興味津々でありながら、家族の団欒を楽しむ真昼の都合を考えて皆で香澄家に遊びに行くことを一度は止めており、その日の夕方に仕事で困っていても真昼には連絡していません。ローラには「あこから元気をとったら何が残るの」なんて言われましたが、ご覧の通り相手を思い遣る心は残ります。またあこは四ツ星学園への帰属意識と責任感も強く、S4決定戦では優勝したい動機に四ツ星学園や先輩の事を考えている側面があります。卒業する3年生に敗北してS4の座を譲られるのではなく、勝利してS4の座を奪い取る。四ツ星の名を汚さない立派な後輩の姿を見せることで、3年生には安心して卒業してもらい、世間には自分達が空白の世代で無いことを証明する。

仲間達がトップアイドルを目標に尊敬する先輩を超えたいと思う中で、あこだけは明確に後輩としての使命を感じる姿が描かれています。そんな先の事まで視野に入れる頼もしいあこですが、残念ながら先輩の意地を見せたツバサに負ける形でS4になってしまいます。後述しますが、あこはゆめやローラと異なり万全の状態で勝負に挑めていないので、敗北は全力を出し切れた彼女達とは違う点で無念であったはずです。もしも全力を出せていたら勝てたかもしれない、それを思うと余計に悔しくなるでしょう。しかし人前では決して落ち込んだ姿は見せず、S4としての自覚を持って毅然と振る舞う。これにはあこさんカッコイイと言うしかありません。


f:id:taida5656:20171209130653j:image
夢の実現とファンの笑顔を天秤にかける時
あこの仕事に取り組む姿勢が決定付けられた回、それはS4決定戦直前の45話「あこ、まっしぐら!」。作中であこは自分だけのオリジナルドレスの作成に必要となるグレードアップグリッターを求めて奔走します。手に入れる方法は大きなステージを成功させること。あこは幸運にもツバサに誘われて大勢の観客が集まる舞台に立つ機会を得ますが、不運にもその日はデパートの屋上でライブをすると子供達に約束した日でした。

S4決定戦に全力で挑むのであれば、グレードアップグリッターは欠かせない。そしてそれはデパート屋上で数十人の観客に向けてライブをするだけでは手に入らない。自分を成長させる為のステージ、ファンを喜ばせる為のステージ。二者択一、あこはどちらを選ぶのか問われます。あこは悩んだ末に一度はツバサに誘われた仕事に出演する決心をして、デパート屋上の仕事を断る為に足を運びます。

あこ「私にとって次のステージこそが、特別なグレードアップグリッターを手に入れるラストチャンス。だからツバサ先輩のステージに出ますわ」

あこ「約束を破るのは心苦しいけど、事情を話せば分かってくれますわ。だってあの子達は私のファンですもの」


しかし決心はライブを楽しみにしている子供達の笑顔を目の前にして揺れ動きます。自分がすばるのライブを楽しみにしているように、子供達も自分のライブを心から楽しみにしている。そのことに気が付いたあこは、自身がアイドルとして成長するよりも、自分を応援するファンを喜ばせる道を選びました。誰の為にアイドルをするのか。17話「本気のスイッチ!」でかなたにアイドルをする意味を問われてから、約半年の時を経て遂にファンの為にアイドルをするのだと胸を張れる答えを出したあこ。

彼女の決断は立派ではありましたが、現実は厳しく善い行いが報われるとは限りません。残念ながらファンの笑顔と引き換えに、グレードアップグリッターを獲得する機会は失われ、その所為で普通のドレスを身に纏いS4決定戦に挑むことになりました。ロボットアニメで例えるなら専用機を操るエースパイロットに量産機で戦うようなもの。これが夢を叶える為に不利になるであろうことは想像に難くない。

アイドルは知名度や肩書も重視される職業、S4になるのとならないのでは仕事量に大幅な差が付き、それはゆめとローラの活躍を比べると嫌でも分かります。2年目になってからのローラが仕事に励む姿はゆめと比べて明らかに少なく、作中で描写された仕事もゆめの友人やリリィの付き添いなど、人気アイドルのおまけとしての仕事が目に付き、桜庭ローラというアイドルが単独で指名された仕事は殆んど描かれていません。実力的にゆめとローラはほぼ互角でも扱い方は随分と変わってしまいました。仕事が仕事を呼ぶアイドル界において、一度でも大きく差を着けられてしまうと縮めるのは難しい。それを避ける為にも夢を叶えるチャンスは絶対に逃してはなりません。

ですからあこが夢を掴む為に本気でS4に選ばれたいのであれば、勝負で有利に働くグレードアップグリッターの獲得を優先するべきなのですが、その機会を自分の大ファンと言ってくれた子供達の期待に応える為に蹴ってしまいました。それはもしかすると馬鹿な真似かもしれないけれど、そこまでしたからこそ「アイドル合格」とすばるに認めて貰えました。あんな風に好きな人から自分の生き方を誉められるなんて最高に嬉しかったことでしょう。


f:id:taida5656:20171209125245j:image
人から人へ受け継がれる想い
早乙女あこは何よりもファンを大切にして仕事に取り組むアイドル。これ以上にアイドルらしいアイドルの在り方があるでしょうか。2年目のあこはブランドをきららに奪われ、S4で唯一星のツバサが生えていないことから、一部の視聴者に不遇ではないかと思われていますが、それは彼女が選んだ道を思えば些細な問題。ブランドも星のツバサも自分が輝く為の道具であり、ファンを喜ばせる際には無くても困らないもの。

以前のあこならブランドや星のツバサを所持する仲間に嫉妬していたでしょうが、今はその程度の出来事に心を惑わされません。きららに横から奪われたフワフワドリームに関しては、最初は取り戻す為にヴィーナスアークへの潜入活動など画策していました。しかしきららの実力と人柄を知る内に彼女をフワフワドリームのミューズと認めたのか、次第に取り戻す気を無くしていきます。きららよりもフワフワドリームを愛していると語る割に行動は大人しい。

あこがブランドの奪還に固執しない理由は、女優業での活躍を目標にしているところも恐らく関係しているでしょうが、何の為にアイドルをするのか立脚点が決まっているところも大きいでしょう。成長志向が強く星のツバサや太陽のドレスを求めるゆめや、ファンが愛するスパイスコードのイメージがぶれる危険を恐れずに自身を変革させるローラとは、アイドルとして見ている景色が違ってきています。1年目の自分の都合しか考えていない姿は既に欠片も見えません。

そんなあこの魅力の全てが詰め込まれた84話。この回できららはあこをパートナーに誘ってユニットカップに出場し、勝ち残ることでエルザに褒められようとします。好きな人を振り向かせたい一心で努力するきらら、それはすばるしか見えていなかった去年のあこでもあります。あこはきららにかつての自分を重ねて合わせ、それ故に仕事で忙しい中でもきららを放っておけなくなるのですが、同時に自分と同じ道を歩むきららが行き着く先も見えてしまう。努力して勝って勝って勝ち続けても、好きな人が自分の方を向いてくれるとは言い切れません。誰もが真昼と夜空の様に分かり合える日が来る訳ではない。それはあこ自身が誰よりも分かっています。

あこ「本気で見てほしいなら、全力で振り向かせてみせなさいな」

きらら「いっぱい頑張ったら、エルザ様見てくれるかな」

あこ「ええ、きっとね」


きららにかける言葉も頭の隅では信じていないかもしれません。本当はそれを心から信じたいのですが、あこはそうはいかない現実も痛い位に知っています。現に才能に恵まれて世界中の人達から愛されるきららですら、ユニットカップでエルザからまるで相手にされていませんでした。この出来事はあこが努力して大女優になったとしても、好きな人に相手にされない可能性があることを意味します。

努力が報われて欲しいと強く願うあこからしたら、きららの置かれた状況は見ていて悔しいでしょうね。世界にはどれほど手を伸ばしても届かないものはある。現実は残酷で思い通りになりませんが、それでもあこはきららの様に立ち止まることなく、自分を支えるファンの期待に応えてきました。そしてあこは好きな人の為にアイドルをするだけが全てではない、今までアイカツで学んだ大切なことをきららに伝えて共にステージに立ちます。

あこからきららへ受け継がれる想い。過去に何度も作られてきた早乙女あこのメイン回の中で、84話は考える暇も無く過去最高と断言してしまえる素晴らしい物語でした。もう10回以上は繰り返し見ていますが、まだまだ飽きる気がしません。これだから「アイカツスターズ」の視聴は止められないですね。


「アイカツスターズ」目の描き分け方のまとめ - アニメ見ながらごろごろしたい

アイドルキャラの身長と消費者の嗜好 - アニメ見ながらごろごろしたい

「アイカツスターズ」安藤尚也演出回の光り輝く撮影処理 - アニメ見ながらごろごろしたい

2017-11-22

間桐慎二の目から見た衛宮士郎は酷い奴

f:id:taida5656:20171120190023j:image
劇場版を観てから早くも数週間が経ちましたが、間桐慎二の存在が今も忘れられません。以前は慎二を小者で嫌味な奴くらいにしか思いませんでしたが、劇場版を鑑賞してからは本当に慎二はそれだけのキャラなのだろうかと疑問に思い始め、その答えを得る為にゲームをプレイして慎二の言動を振り返ることにしました。さてそんなこんなで久しぶりにプレイしたのですが、やってみると慎二と会話する時の士郎の態度が意外と悪く、これは慎二だけが一方的に悪い奴とは言えないなと思えてきました。

それについて考える大前提として覚えておきたいのは、士郎は桜に怪我を負わせた慎二を殴り、それが原因で物語開始時点の慎二と士郎は疎遠になっていること。ちなみにこれだけやらかして、疎遠になってしまったという自覚を持ちながらも、士郎は慎二と違って喧嘩したとは微塵も感じていません。この士郎と慎二の認識の祖語を押さえておかなければ、慎二が会う度に士郎に突っかかる理由も分からなくなります。それではまずプロローグの士郎と慎二のやり取りを見ていきましょう。


士郎「よ。弓道部は落ち着いているか、慎二」

慎二「と、当然だろう…!部外者に話してもしょうがないけど、目立ちたがり屋が一人減ったんで平和になったんだ。次の大会だっていいところまで行くさ!」

士郎「そうか。美綴も頑張ってるんだな」

慎二「はあ?なに見当違いなコト言ってんの?弓道部が記録を伸ばしているのは僕がいるからに決まってるじゃんか」


弓道部は男女合同で練習していますが、大会はテニス部やバスケ部と同様に男女に別れています。慎二が大会でいいところまで行くと言えば、常識的に考えて男子の話をしていると考えますよね。それなのに士郎は何故か女子の美綴の名前を挙げて、弓道部のエースである慎二を眼中に入れていません。慎二の腕が立つことを知っているはずなのに、弓道部がいいところまで行けるのは美綴の功績なんて返すのは嫌味としか思えません。まあ慎二の態度も負けず劣らず悪いのですが、慎二は士郎が弓道部をあっさり辞めたことに不満を抱いていますし、殴られてから関係を修復していないので、多少あれなことについては目を瞑りましょう。


士郎「手伝える事があったら手伝う。弦張りとか弓の直し、慎二は苦手だったろ」

慎二「そう、サンキュ。何か雑用があったら声をかけるよ。ま、そんなコトはないだろうけどさ」

士郎「ああ、それがいい。雑用を残しているようなヤツは主将失格だからな」


最後の一言は本当に必要だったのでしょうか。慎二が弓の直しなどの雑用を残していたら、それは主将失格だと中々に辛辣な言葉をかける部外者の士郎。顧問の先生が釘を刺す意味で言うなら兎も角、まさか雑用があれば引き受けると提案した側から、こんな言葉が出てくるとは。ここで士郎に雑用を頼んでいたら、慎二は士郎から内心で主将失格と思われてしまうのでしょうか。

雑用を残している奴は主将失格と考えている人から、手を貸すような雑用が残されているのか聞かれてしまう。これは遠回しに馬鹿にされていると捉えられてもおかしくないですよね。日頃から不真面目な態度が目に付く慎二に対して、雑用を残さない方が良いと助言するにしても、士郎はもう少し言い方を考えてもいい気がします。こういう余計な一言がついてくるあたり、士郎はやっぱりアーチャーと同一人物なんだなと思わざるを得ない。

ちなみに上記の様な発言が慎二の神経を逆なでしていることは、慎二の表情にはっきりと表れています。何というか士郎が無自覚にイラっとさせるジャブを打つ為に、慎二が不快に感じて距離を縮められないところはあるのではないでしょうか。上記の会話で慎二は自分に気を遣う士郎に一応礼を言ってはいますし、士郎が上手に歩み寄れば分かり合えそうな気はしなくもない。


慎二「やる事もないクセにまだ残ってたの?ああそうか、また生徒会にごますってたワケね。いいねえ衛宮は、部活なんてやんなくても内申稼げるんだからさ」

士郎「生徒会の手伝いじゃないぞ。学校の備品を直すのは生徒として当たり前だろ。使ってるのは俺たちなんだから」

慎二「ハ、よく言うよ。衛宮に言わせれば何だって当たり前だからね。そういういい子ぶりが癪に障るって前に言わなかったっけ?」

士郎「すまん、よく覚えていない。それ慎二の口癖だと思ってたから、どうも聞き流してたみたいだ」


生活費を稼ぐ為のアルバイトを理由に弓道部から離れた人間が、早朝も放課後も学校の備品を直したり生徒会から頼まれた仕事ばかりしている。この会話をしている日も士郎は午前授業を終えてからの数時間、日が暮れるまで一成の仕事をしていました。弓道部にぽつんと取り残された慎二からしたら、生徒会にごまをするような士郎の行動は特に癪に障るでしょう。生徒会にそこまで手を貸す暇があるなら弓道部を続けて欲しいところ。

士郎は一成が友人だから手を貸しているのですが、それにしても一成から生徒会の仕事を任され過ぎな気はします。士郎を便利屋として利用している点では、慎二よりも一成の方が遥かに酷いんですよね。いくら友人でも一成はもうちょっと遠慮するべきというか、友人だからこそ一線を越えないように相手に気を遣うべきでしょう。もしも一成みたいな友人が士郎の側に何人かいた場合、各々が少しずつ士郎に頼み事をしたつもりであっても塵も積もれば山となり、それらを引き受けてしまうであろう士郎の身体は皆が知らないところでぼろぼろになるかもしれません。士郎は頼まれたら風邪を引いていても店番を請け負う男ですから、士郎の人間性を知る者はそれを計算に入れて遠慮することを忘れてはなりません。

その点、人手不足の状況で士郎に3時間も重労働をさせたお詫びに、3万円と仕事分以上の報酬を渡したバイト先のおじさんは大人。何でも言う事を聞いてくれる相手の好意に甘えたりしないで、自分が本当に大変な時に手を貸して貰えたら相手が求める求めないは別として、それに釣り合うものは感謝の言葉の他に形として返す。こういう思い遣りは社会を生きる上で大切ですから、一成は金銭を払わない代わりにせめて身体で返す位はした方がいいと思います。
f:id:taida5656:20171122213127j:image
閑話休題、ここまで述べた士郎と慎二の会話を見ていると、結構な頻度で士郎も慎二に腹の立つ言葉を返していることが分かります。士郎の感覚では友人ならではの冗談も含んでいるつもりなのかもしれませんが、桜の件で士郎を色々と恨んでいる慎二としては面白くないでしょう。下の記事にも書きましたが、慎二は家の事で相当なストレスが溜まっていますから。そんな時に挑発と取れる言葉を返され続けていれば、慎二の不満が溜まり士郎に嫌味を言ってしまうのも仕方が無い面はあります。

まあ基本的に慎二が悪いのは変わらないんですけどね。ただし慎二が士郎を退部に追い込んだという噂話に関しては、完全に周囲が誤解しているだけですから、それについては慎二も気の毒だなとは思います。ちなみに士郎は慎二との仲を心配する桜に対しては誤解を解いていますが、一成に対しては真相を何も話していません。一成が誤解していることを知っているにも関わらず、それに触れて慎二の名誉を回復させない士郎はコミュ力に問題がある気がしなくもない。

それにしても劇場版は本当に良かったですね。あれが無ければ慎二に改めて興味なんか持たず、一生嫌な奴として捉えていたままだったでしょう。キャラの事を理解する切欠を与えてくれた須藤友徳監督に感謝。大半のアニメは鑑賞しても感動するかしないかだけで、原作の理解を深める意味では殆んど役に立たないのですが、須藤友徳監督の劇場版はそれらとは全く異なり、他者の考察や批評と同等の理解度を深める効果を持っていました。アニメ化は一種の祭を作り出して売上を伸ばすだけと言われることもありますが、そうではなくて原作の魅力を再発見させる場でもある。その事を劇場版で強く感じさせられました。

「Fate/stay night Heaven's Feel」劇場版で描き出された間桐慎二の抱える苦悩 - アニメ見ながらごろごろしたい

2017-11-18

物語に合わせて画風を変える相田裕先生

GUNSLINGER GIRL 1 (電撃コミックス)

GUNSLINGER GIRL 1 (電撃コミックス)

人を殺す道具として生きる少女達と復讐に人生を捧げる男達の物語「ガンスリンガーガール」から、何者にもなれない日々を生きる少年少女達の物語「1518」へと舵を切る相田裕先生。両作品は喪失を経験した者達が悲劇を受け入れ、次世代に希望を繋いでいくという根底に流れる思想は共通していますが、表面的な部分は同じ人が書いたとは思えない程に変わりました。

「1518」は「ガンスリ」の様に銃が出なければ血も流れません。命が軽く扱われてしまう全編に漂う重く暗い空気は綺麗に消え去りました。相田裕先生はそうした物語的な部分で変わり続ける作家ですが、コマ割や構図等の演出的な部分における変化も大きく「ガンスリ」の前半と後半を比べても差は随分と見られます。


f:id:taida5656:20171118185429j:image
戦闘シーン以外では台形のコマは殆んど見られず、長方形のコマを中心とした画面構成。1巻のそれは例えるならテレビ画面に映される映画のワンシーンをそのまま漫画に嵌め込んだかのようです。コマ割は変化に乏しく機械的で無機質、その在り方は感情を表に出さない復讐者や兵器にも似ています。

この他にも連載初期は打ち切りから逃れる為か、台詞をとにかく詰め込んで1話あたりの密度を高めていて、情報量を増やした代わりに台詞が小さく読み難いところがありました。上記の表現は1期生と担当官の先の無い関係性を描いた頃には多くありましたが、2期生が登場して政治的な背景が語られ、大きな物語が動き始めるに連れて少しずつ変わります。

f:id:taida5656:20171118185424j:image
最終15巻では全体的に台詞の量が減り、ご覧の様に会話時に台形のコマが使われたり、ページの上から下まで伸びた縦長のコマが使われています。コマに色々と変化を付けたおかげで昔と比べて大分読み易くなっていますね。台詞が少なく文字を大きくする余裕が生まれたのは、アニメ化して人気が出てゆっくり話を進められるようになったおかげもあるでしょうが、相田裕先生が無駄な台詞を減らす技術を磨いたこともあると思います。

読者に文字だけで伝える小説の場合は、長台詞を入れても句読点をしっかり付けていれば、そこまで大きな問題は起きません。しかし漫画では長台詞を入れてしまうと大きな吹き出しがコマを圧迫して見せるべき絵が隠れるか、吹き出しに収まるように小さくした文字が読み難いという問題が起きます。電子書籍ではあまりにも小さい文字は潰れて読めない場合があるので、台詞を短く抑えて文字を大きく見せる技術は大切ですね。これは読者の視力を低下させない意味で本当に重要になってくるので、今後の漫画家が意識していくべきところでもあるでしょう。

f:id:taida5656:20171118192301j:image
「1518」になると手で書かれた文字が増え、背景に建物ではなく効果線を描くことも増えます。ヨーロッパの街並をリアルに描写して重厚な世界観を作り出した「ガンスリ」と比較すると演出の方向性が明らかに違います。「ガンスリ」は建物や大空を描く際にはコマの隅々まで映画的に丁寧に描き込みますが、「1518」はそうしたことはしないでキャラの周辺にあえて何も無い空間を作る場合も結構あるんですよね。線の太さ、台詞の形状、背景の描き込みをここまで大幅に変える漫画家は珍しい。

「1518」は背景を細かく描き込まないでデフォルメも用いますが、そうした軽い画が平凡な高校生の日常感を出して、読者にノスタルジーを感じさせるところはありそうです。誰にでも起こり得る日常の世界を描いた「1518」は、読者が自身の人生と照らし合わせて味わう行為に意味がある作品なので、「ガンスリ」みたいに写実的に目に映る全てを正確に描き出して作品の見方を一点に固定化してしまうよりは、あえてぼかして読者に各々の人生を思い出し想像させる隙間を残してあげる方が良いかもしれません。

相田裕先生は「よつばと」のあずまきよひこ先生と同様に、この辺のリアルとデフォルメのバランス感覚が優れた作家ですね。個人的に「ガンスリ」から「1518」に進む中で相田裕先生が最も変化した部分を挙げるとしたら、それは絵柄や構図で物語に緩急を付ける漫画家にとってのチェンジオブペースではないかと思います。本当に演出が別物なので「ガンスリ」と「1518」は機会があれば読み比べて見て下さい。


「幽遊白書」から進化した「HUNTER×HUNTER」のコマ割と構図 - アニメ見ながらごろごろしたい

斜めのコマを巧みに操る松井優征先生 - アニメ見ながらごろごろしたい

水上悟志作品のコマ割と構図の巧さ - アニメ見ながらごろごろしたい