悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

人形館の殺人 綾辻行人

綾辻行人館シリーズ

Wikipediaより---------------------------------------
私―飛龍想一は、叔母とともに父・高洋が残した緑影荘に引っ越すために京都を訪れた。 しかし、近所では通り魔殺人が発生、さらに私のもとにも奇怪な手紙が届き、そのころから次々と奇妙な出来事が起こり始める…。
私の命を狙う人物とは誰なのか…? 恐怖に駆られた私は、大学時代の旧友・島田潔に助けを求めるのだった。

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今回の作品を読んでの感想はネタバレを多く含むのでまだ読んでいない人はこの文章は読まない方がいいと思う。

今回の作品は今まで読んだものと違い、最初から異質な感じがしていた。
主人公がまずかなり異質。そういう意味では「水車館の殺人」の主人公と共通な感じはする。水車館では事故で体が不自由になっただけでなく、顔がそっくり奪われ、白いゴム製のデスマスクを着けているという時点で怪しげであったが、今回の人形館では主人公は産みの母は幼少になくし、実の父とは遠ざけられて育てられた。母というのは実の母の妹、つまり叔母である。その叔母と二人でこの人形館に住むことになるが、人形館は大きく、人に貸して住まわせている。本人はほとんど社会的に無力であり、画家とは言ってもまったく稼ぐことなく、ただひたすら自分の描きたい絵を描いているという人物。まずここからしてかなり怪しい。水車館と同様といったのはこういった点で怪しすぎるからである。
しかし、そういう怪しい人物を見せながらも、そう思わせない何かがこの綾辻作品にはある。まず第一におなじみのお寺の三男坊の島田潔と学生時代の知り合いであったという設定。冒頭から島田からの手紙が描かれている。
また亡くなった父がかなりの変人であり、死因が自殺であったこともそうだし、この人形館が不気味に顔のないマネキンがあちこちに飾られているということも読者の目線をそらすことに成功している。
主人公は何者かに命を狙われる。最初はいたずら程度に思っていたが、だんだんエスカレートし、主人公たちを苦しめる。密室状態の土蔵の中のアトリエにあったマネキンに血のような赤い塗料を塗られる。硝子の破片や自転車のブレーキに細工することで主人公はけがをする。ついにはおそらく放火によって愛する母(叔母)の命も奪う。
ここで今までの館シリーズの読者はコロッと騙される手順になっている。密室。中村青司。この二つのキーワードに加え、今までの作品で名探偵ぶりを発揮しているあの島田潔の登場である。これだけ揃えば、また密室の鍵は中村青司の秘密の通路ということになってしまうが、今回はそう考えるところを逆手にとったトリックである。
まあ、ネタバレしてしまえば、この人形館は中村青司の手がけた館ではなく、また島田潔も登場しない。全てはPSYCHOの映画のようにひとりの人間の中に多重の人格が潜んでいることによるものである。
その原因は悲しい。幼い頃に愛してやまない母を取り戻すために出来心で行った線路への置き石。それが結果として列車の脱線事故を起こし、よりによって最愛の母を失ってしまう。この事件がこの主人公の心に大きな傷を落とし、暗く大きく歪んでいくのである。

今までとはずいぶんと違う作品であるが、犯人探しのミステリートは違った楽しみもあった。
逆にはじめの頃から怪しく感じていたため、やっぱりそうか、となった落胆もある作品である。

人形館の殺人 (講談社文庫)

人形館の殺人 (講談社文庫)

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