悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

邪魔 奥田英朗

サクサクと読める小説である。
この人の作品はとても面白いものが多いので、期待していた。
読みやすくて引き込まれるが、伊良部一郎シリーズとは違って決して面白い作品ではない。
そういうお馬鹿小説、お笑いを期待していると飛んだ肩透かしになる。
私は最初に読んだのが、イン・ザ・プール空中ブランコ町長選挙だったので、まったくもってびっくりだった。
こういう小説を書く人とは思っていなかったので。


テンポが良くて読みやすい。
とある会社の放火事件からことは始まる。
放火の第一発見者は当時宿直だった及川。
彼の妻の恭子がこの小説の一人の主人公である。
マイホームを構え、自らパートに出て家計を支えている主婦でもある。
ささやかながら、子供と幸せな家庭を気づいている典型的な主婦。
この平和の街にもワルはいる。
オヤジ狩りをやる糞ガキどもが登場。
そして何を間違えたか、主人公である刑事に向かってオヤジ狩りを行い、当然のようにこてんぱんにされてしまう。
主人公の刑事、九野は張り込み中。張り込みの理由は素行調査。相手は同じ刑事。
そしてこのマル暴の不良刑事花村と暴力団大倉というのがつながっていて、先の高校生たちはヤクザに利用される。
この人生を舐めたというか、突っ張っている高校生の落ちぶれかたも描かれているが、主人公恭子の崩れ方が半端ない。
第一発見者の夫が放火犯である疑いがかかると、精神的に追い込まれ、そこから逃げ出したい気持ちですがりついたのが、労働者の権利を勝ち取るというキレイ事を語るタカり集団。
その先鋒となって自らのパート先を攻撃し、パート仲間からも浮いてしまう。
登場するパート先の社長もいい味を出していたが、なんとも汚い部分を多く見せてくれる小説だ。
これをリアリティというならリアリティなのだろう。
知らないければ知らないほうが幸せな世界だと思う。

似非市民運動家
警察の内部事情
パート間の人間関係
会社の事情
警察OBの天下り
ヤクザと企業の関係
ゴロツキ弁護士
ヤクザの本質。


とことん汚く描かれている。
そう綺麗に見えるところはどこもない。


というか最期まで読んであまり気分は良いものではない。

しかしどこにでもいる普通の主婦がちょっとしたことから人生の歯車が狂い、最期はほとんど狂人のような状態になっていく後半部分は怖いものがあった。

そしてもう一人の主人公である慶次の九野も同じように狂っていく。

大きく狂った人たちの終末はあまりにも淡白な終わり方。

そして若い高校生にこれからがあると語る久野の後輩である一番若い刑事というエンディング。


途中にあった久野の亡き妻の母親の件も消化不良。
あれも現実でないとしたら、最初から彼も相当に病んでいるということになる。

邪魔(上) (講談社文庫)

邪魔(上) (講談社文庫)

邪魔(下) (講談社文庫)

邪魔(下) (講談社文庫)

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