大丁の小噺

大丁です。読み方はタイテイが標準です。※大丁は、株式会社トミーウォーカーのPBWでマスター業務を行っています。ここで関連する告知を行うことはありますが、マスター契約時の規約により、ゲームに関するお問い合わせは受け付けられません。ご了承ください。

全文公開『断頭に赴く火刑の乙女』

断頭に赴く火刑の乙女(作者 大丁)

「復讐……! わたくしたちは、復讐に目覚めたのです」
 黒い水着のような格好に、コウモリの翼を生やした女性たちが、一般人の村を襲っている。
 鞭を振り、家屋を焼いて、人々を広場に狩りたてるのだ。
 ここは火刑戦旗ラ・ピュセル内の南部。特徴のない、平凡な村だ。ただ、進軍中の彼女らの前にあったというだけで、蹂躙をうけるはめに。
「怖れなさい、存分に。死の寸前まで!」
 女性が手をふると、空から刃が降ってくる。
 ストン、コン。
 軽い音で、いくつもの生首が広場の方々に転がった。まるで、断頭の処刑である。

 依頼参加のディアボロスたちは、パラドクストレインの車内で時先案内人を待っていた。
 ロングシートのうち、ホームの向い側に座っていた者は、窓越しに珍しいものを見ることになる。
 ぬいぐるみを抱えたまま全速力で走っている、ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)の姿だ。
「……ハァ、ハァ、ハァ。急ぎの作戦にお集まりいただき感謝いたしますわ。火刑戦旗ラ・ピュセルから、決戦間近の断頭革命グランダルメに対して、増援が行われている事が判明したのです」
 荒い呼吸は、すぐに整った。
「皆様の活躍によって途絶えていたラ・ピュセルからの増援が再開されれば、奪還戦の戦いが不利になるかもしれません。攻略旅団の作戦によって出現した当列車でラ・ピュセルに行き、グランダルメとの境界である霧地帯に向かおうとしている、キマイラウィッチの集団に対して攻撃を仕掛け、撃退してくださいませ。キマイラウィッチのグランダルメへの移動を阻止する事で、グランダルメ奪還戦におけるキマイラウィッチの軍勢の数を減らす事ができるでしょう」
 案内も駆け足気味だが、必要事項に漏れはない。

 掲出された地図によれば、ラ・ピュセルの霧地帯付近、キマイラウィッチが進軍して来る村の近くに到着できるようだ。
「キマイラウィッチは、ディアボロスと決戦を控えている事で、気分が高揚しているのでしょう。一般人の集落を発見すれば、決戦の景気づけだと、住民の虐殺をはじめてしまいます。この悲劇は回避可能ですわ。キマイラウィッチが到着する前に、住民の避難を行った上で、村を襲撃しようとするキマイラウィッチを迎え撃ち、撃破してください」
 トループス級は、アヴァタール級に先んじて現れる。
 種族はアークデーモンだが、習性はキマイラウィッチと同じとのことだった。
「すなわち、『アラストルの乙女』は復讐を力に変えて戦うのです。特に、自己の復讐心を雷の剣として実体化させ、空から降らせる技は、あたかもギロチンのような鋭さで、注意が必要です」
 遅れて同じ戦場にやってくるのは、『ビューロー兄弟』。
 亀から二本の首が生えており、それが兄と弟なのだ。
「こちらは、キマイラウィッチの指揮官です。亀の甲羅に備えた大砲を撃ってきますわ。村人の避難が滞りなく進めば、この砲撃で家屋に被害がでることはありません。できれば、村の外で戦えるとイイですわね」

 発車の直前に、ファビエヌは申し添えた。
ラ・ピュセルがグランダルメと密約を結んでいるのは間違いないでしょう。グランダルメ奪還戦の勝利の為に、キマイラウィッチの戦力を減らしておくのは、イイコトですわ」

 村の周囲には、城壁どころか柵のようなものさえなかった。
 そのかわり、建物は接し合いながら円形に配置され、石組みの一階部分の堅牢さだけが頼りになっている。木造の二階、あれば三階まではひょろ長く、板葺き屋根の勾配も急角度で、全体に痩せた印象がある。
 状況を探るため、ディアボロスたちは時代に寄せた服装で村に近づいた。
 入口にあたるのは、建物どうしの間に差し渡されたアーチだった。門扉のようなものはない。そこから中の様子がうかがえる。
 地面には石畳が敷かれ、玄関口側に囲まれた部分が、おそらく事件の起こるはずだった広場だ。
 集められた一般市民にむけて、刃が降ってくるという。
「平穏としてありふれた、穏やかな村であるな」
 アルトゥル・ペンドラゴ(篝火の騎士・g10746)が、ホッとしたようにもらす。
 予知にあった虐殺は、案内人から聞いているあいだも顔をしかめてしまうような、ひどいものだった。はたして、避難に割ける時間はどれほど残っているのか。
「民の安全を優先せねば」
「ああ。キマイラウィッチは、本当に自国民にもなりふり構わずだな……」
 外套のフードのなかから、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)がうめく。
「虐殺などさせない。救おう」
 誰にも咎められずにアーチをくぐる。
 できれば、村長などの代表者に話を通してから行動を起こしたかったが、また曇っていくアルトゥルの表情を見たエトヴァは、手順をとばしたほうがいいと判断する。仲間も同意した。
 装備の携帯スピーカーの電源をいれ、村全体に拡散するように大声をだした。
「キマイラウィッチが来るぞ!」
 いきなりだったが、広場中央の井戸を使っていた女性がすぐに振り返り、いくつかの玄関扉が開いた。
 まだ、村人全員ではない。『避難勧告』も発動させる。
 赤い光が明滅しサイレンが鳴り響く。
 この効果が発揮されるということは、やはり危険は間近だったのだ。
 トレイン内に掲出されていた地図によれば、自分たちが入ってきたアーチ側の道が、キマイラウィッチの来る方角である。エトヴァはマイクでそう伝え、アルトゥルは避難のための手助けにまわった。
 はぐれる者がでないよう、病人やケガ人がいないか確認する。
「動ける男性は、女性と子供に付き添ってくれ。老人にもだ!」
 村の外では耕作が始まっていたものの、隠れられるような場所ではない。森の中に木こり小屋があることも判っていたので、そこを逃げる目印にしてもらう。
 エトヴァの音声も続いていた。
「家族や隣人に声を掛けて、一塊の集団を作って逃げるんだ。しばらく隠れていてほしい。奴らが通り過ぎるのをじっと待つんだ」
 避難は大きな障害も起こらずに済みそうだ。いっしょに森まで行くような必要もない。
 最後にアルトゥルが、残った村人がいないことを仲間に伝えてくる。
 ディアボロスたちはもう一度アーチをくぐり、キマイラウィッチ迎撃の準備をはじめた。戦闘の巻き添えで損害が出ないよう、村から距離をとる。あの、ほっそりした屋根では、アヴァタール級の砲弾ひとつでポッキリと折れてしまいそうなのだ。
 陣を決めると、アルトゥルは戦旗を掲げた。
 まだ曇った顔をしているので、エトヴァが大丈夫か、と声をかけると。
「……この時ばかりは、攻勢に長けた計略ばかりの自分を嘲りたいものなのだ。いや、気にしなくていい。護るための戦いを、始めさせてもらう」
 仲間は頷いて、それ以上は追及しなかった。
 キマイラウィッチの気配がしてくる。

「……そんじゃ、アタシも荒事の方に備えるかね」
 ヌル・バックハウス(名も無き自由・g10747)が合流してきた。避難誘導を担当したディアボロスたちにひとこと礼を言う。エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)によれば、敵との遭遇まではあとわずかとのこと。
「偵察や奇襲の猶予もなさそうですね」
 エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)も、『神護の長槍』と『神護の輝盾』を構えて隊列に加わる。
 この陣は、村へと続く道を遮るようにして組んだものだ。地形の起伏で見通しは悪いが、音は聞こえていた。
 集団の揃った靴音である。
 黒い水着のような恰好のアークデーモンたちは意外にも、きっちりと行進してきた。
「全体、止まれ! ……武装した者たちが、前方を塞いでいます」
「軍旗のようなものも見えます。出迎えの自動人形(オートマタ)でしょうか」
「いえ、境界を越えた様子はありません。それに、『断頭革命』にはまだ距離があるはず……」
 リーダー格はいるが、指揮官のキマイラウィッチの姿は見えない。
 トループス級『アラストルの乙女』は、予知での残虐な行いに反して静かで落ち着いている。まだ、村を発見していないからかもしれない。
 エトヴァは、仲間に目配せした。
 あらかじめ決めておいたことだ。念のため村へ意識を向けさせないよう、話しかける。
「やあ。そんなに楽しげに、どこへ行くのかな。もしかして、ディアボロスを探してる?」
ディアボロス?!」
 トループスたちはざわめきだした。
「やはり、私達はすでに境界の霧地帯をまたいでいたのでしょうか?」
「『火刑戦旗』が侵攻されているのかもしれません」
「どちらでも構わないでしょう。決戦に備えて、かの者たちを襲って『復讐』の力を研ぎ澄ませては?」
ディアボロスが相手なら、かえって好都合。私たちの復讐を早めても、それは軍規違反とはなりません!」
 口調は丁寧だが、彼女らの会話は不穏な方向へと流れていく。
 もし、予知のとおりに村を見つけたのなら、なされていただろう残虐な相談を思わせる。エイレーネは眉をひそめた。
 合図も連絡もないが、ディアボロスたちは呼吸を合わせられる。アラストルの乙女のリーダーが、エトヴァに返事をしようと一歩踏み出したところで、『神護の長槍』が投げつけられた。
「聖なる槍よ! 悪しき者どもを一人たりとも逃すことなかれ!」
 エイレーネが、『降り注ぐ影の槍(ドーリ・スキオン)』の詠唱をした。投擲した一本の周囲に、幾つもの幻影の槍が出現する。
 敵隊列の前面に直撃し、こちらにまで聞こえていたお喋りたちの身体を串刺しにしていく。
「お、おのれ、この恨みは……!」
 リーダー格には実体の長槍が突き立つ。が、それはすんでのところで避けられたもので、しかし穂先はアークデーモンの翼を貫通していた。
「あなた達が何者であろうと、キマイラウィッチと同じ振る舞いをするなら、われらも同じように遇します。無辜の民を害する怪物を待ち受ける運命は、死をおいて他にはないと心得なさい!」
 『神護の輝盾』をかざして走り出す、エイレーネ。
 仲間たちも同時に突撃した。
「殺されるのはお前たち。ディアボロスのほうです!」
 『復讐乙女』により、敵の二列目以降の足元から、炎の鞭が飛び出した。エイレーネたちはあえて撒き散らされる炎にむかっていき、鞭のしなりを飛び越すようにして接敵した。
 おされた敵トループスは、陣形が乱れる。
「――『迷って道を踏み外そうが……それで答えに辿り着くなら、ソイツが答えなんだよ!』」
 ヌルは、『偽真の自由(ギシンノジユウ)』を展開する。
 様々な道を提示した疑似的な迷宮に、あぶれた敵を誘い込む。
「これで時間稼ぎはオッケー。その間にこっちは少しでも数を減らすためにちょいとつついておく、っていうね」
 クロノヴェーダの関心はじゅうぶんにひいていたが、敵隊列を乱したかわりに村へとまわりこむ個体が出ないとも限らない。エトヴァらの話では、完全な避難までには時間がかかりそうだった。
 見通しの悪い地形に、ヌルの迷宮は効果的だ。
 会敵時のきっちりとした行軍は見る影もなく、いまは水着の女性がうろうろするだけである。迷うと言えば。
「いやぁ、相手の格好はヒトによってはとっさの攻撃に迷いそうでまぁ……目のやり場に困るってのはありそうだよなぁ」
 炎の鞭にだけは気をつける。
 策略にイラつき復讐心は高まり、鞭の温度も高まっているから。
 ふたたび長槍を手にしたエイレーネは、リーダー格に打ちかかっていた。
「魔女の名を瀆した蛮行の罪は、命を以て償っていただきます!」
「私たちをキマイラウィッチと認めてくださったじゃありませんか」
 高熱鞭のしなりと槍のすばやい突き。
 互いに恨み言を吐きながら、攻撃に緩むところなどない。
「今回は、目のやり場に困るヒトはいなさそうねぇ。……アタシも特段こういうの気にしないんだけどっ!」
 ヌルは両手に斧を引っ提げ、迷宮に捉まったアラストルの乙女たちを一回二回と斬りつけていく。
「地獄の刑執行長官の名の下に!」
 抵抗する彼女らは、四肢に地獄の炎と雷を纏った。
 復讐を司る魔神に準ずることで隊列も戻っていく。アークデーモンたちが口にした規律や、丁寧な口調もその長官とやらに由来するのか。
 迷宮を破るいきおいに、タワーシールドを掲げたエトヴァがフォローに駆け付ける。
「この先へは行かせない」
 細い手足で繰り出される炎の打撃も、魔力障壁とコートで防ぐ。
「懸命に暮らす人々を踏み躙ることも、グランダルメへの進軍も、何一つさせはしない。『Wunderfarber-β(ヴンダーファルバー・ベータ)』!」
 シールドは浮かせ、両手に銃を構えると煙幕弾を放った。
 敵の視界を塞いで攪乱しつつ、連携の分断を仕掛けるのだ。
「復讐を叫びながら、虐殺を生むその姿、禍以外の何物でもない。ここで討ち果たそう」
 エトヴァは、敵味方の双方にむけて宣言した。
 両手の銃からの弾丸と、ヌルの両手斧の斬撃とで狙いを合わせ、消耗したトループス級から撃破していく。
「ああ、アラストルよ、私に復讐のエネルギーを……!」
「これで残るはあなただけですね」
 エイレーネの眼前にいる火刑の乙女は、さすがリーダー格だけあって初撃からずっと戦い続けてきた。だがそれも、ディアボロスたちのより緊密な連携によって打倒される。
 長槍と斧、そして銃弾の。
「復讐とかそんなの知ったこっちゃねぇっての。こっちは今ある自由を謳歌したいってもんよ」
 ヌルはいったん迷宮を解くと、アヴァタール級が追いついてくるであろう方角を睨む。

 エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)は慎重だった。
 村の方角を護るような位置取りを続ける。救援機動力で駆け付けたアンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)も、敵を引き付ける方針をすぐに理解した。
 待ち受けていると、敵指揮官は道をたどってのそのそと現れる。
 陸亀の甲羅に何本もの大砲を積み、首は二本。
「来ましたか、『魔女』どもの指揮官」
 クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)は眉根をかすかに寄せた。エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)も同意して頷く。
 このアヴァタール級は、ふたつある頭部のそれぞれに意識を持つ。
 右のやつが叫んだ。
ガスパール兄さん! アークデーモンの女たちがぜんぶ、やられちまってるぜッ!」
「なんだとぉ。おい、ジャン。自動人形(オートマタ)が言ってたのと、話が違うよなぁ?」
 左のやつがうつ向いたまま、目だけを上げて睨みつけてくる。
 兄と弟だから、『ビューロー兄弟』だ。クロエは静かな怒りで、亀兄の眼力を弾き返した。
「人形皇帝とお前たちの間に密約があったか、それともただ暴れにきたのかは知りませんが。お前たちが感情のままに暴虐を尽くすというなら、私も私のやりたいようにするだけです。お前は殺します」
「誉れなき人形皇帝は国土を護らず、ただ己の命脈を保つために異邦の怪物をのさばらせています。グランダルメの地を襲う亜人と、キマイラウィッチ……どちらにも無辜の民を傷つけさせはしません。魔女の名を穢す忌まわしき怪物よ、覚悟なさい!」
 エイレーネは、『神護の長槍』の穂先をさしむける。
 激昂してくる亀弟ジャン。
「お前らこそ、なんだかわからねぇが、ぶっ飛ばして『断頭革命』への道をあけてやるぜッ!」
「キマイラウィッチは相変わらずだな……」
 エトヴァは両手の銃を構えつつ、ため息だ。
「先に行かせる訳がないだろう。復讐がしたいなら俺たち相手に力を振るえ。ただし、こちらも手加減はしない」
 敵勢力の増援を、ここで仕留めきりたい。
 亀兄は悟ったようだ。
ディアボロスなのか……。ジャンよ、弾をケチることはない。戦いはもう始まっていたのだ」
「そういうこと! グランダルメ奪還戦の勝利の為に。目指すは全土奪還、さぁいくよっ」
 アンゼリカは宙に、六芒星を描きだす。仲間たちも一斉に動いた。
 そこへ、兄の合わせた照準どおりに、ビューロー弟は背中の大砲から炸裂弾を放ってくる。
「全部燃えるがいいや!」
 たちまち、辺り一面が火の海となる。クロエは、その兄の視線から、砲塔のねらいを読む。
 赤薔薇の種に魔力を注ぎこんだ。
「種子に宿るは我が抑圧、芽吹け『ラードーン・ローザ』!」
 負の感情を注ぐことで急成長させ、ギリシャ神話の怪物『ラードーン』を象った植物の怪物を作り出した。二本の首どころではない。この怪物には百本の首を模した茨が絡み合っている。
 エイレーネは地を駆け、敵が砲撃の狙いを付けづらいように、敢えて懐に飛び込もうとする。やがて、旋回していた砲台に、ラードーンの百の頭が絡みついた。
 茨で締め上げ、さらに狙いをつけさせない。
 キマイラウィッチの姿は亀だ。手や足など甲羅から露出した個所も狙い、茨の棘を食い込ませる。
「イテテテテッ! ガスパール兄さん助けてくれッ!」
「ジャンよ、痛いのは私も同じだ。狙いは正確ではないかもしれんが、大砲ならまだある。一斉に撃て」
 でたらめな砲撃をされたら、重い一発をくらわないとも限らない。接近したエイレーネは、『神護の輝盾』を構えて防御姿勢をとった。
 クロエは射線を読むだけでなく、兄弟のやりとりも聞いている。
 ラードーンの茨を遮蔽とすることで直撃を避け、砲撃後の隙を狙って首をくびりにいく。
「痛い痛い痛いッ!」
 弟の泣き言は大きくなり、代わりに砲撃は小規模になった。耐え凌いでいたエイレーネは、素早く攻勢に転ずる。
 兄のほうの首に、槍を突き立てた。
「この身を燃え盛る流星と化してでも、人々に仇なす者を討ちます! 『舞い降りる天空の流星(ペフトンタス・メテオーロス)』!」
 強い信仰心が生み出す加護によって物理的な推進力を生みだす。
 纏う、燃え盛る炎は、炸裂弾の熱を上回る。槍の穂先は、甲羅の隙間にねじ込まれ、長い首を深々と貫いた。
「二本の首を引っ込められるかは分かりませんが、出来るとしてそうされる前に素早く攻め立てましょう」
「よっし!」
 接近戦を挑む仲間を援護するように、アンゼリカは同じく遠距離攻撃の仲間と挟み込むよう位置取っていた。
「こっちも力いっぱいパラドクスの砲撃をお見舞いだよっ」
 『命中アップ』を積み上げ、照準を助ける光の導きを増やしていく。エイレーネはその間も前線で戦い続け、注目を惹くことで仲間の更なる技へと繋いでくれている。
ガスパール兄さん、生きてるかッ? ディアボロスは結構強いぜッ!」
「ああ、ジャン。私たちは命を共有しているのだ。復讐心もな。砲撃は任せる」
 囮役は当然のこと、茨の防壁も無傷とはいかなくなってきた。
「当たれば痛いけどね!」
 亀の甲羅とはいかずとも、アンゼリカは肉体を強固にする『ガードアップ』を重ねる。
「何より奪還戦前の熱いハートはこの身を強くするからねっ。お前たちの復讐には負けないよ!」
 気を張り、足を止めずに撃ち込むポイントを探る。
 魔法の六芒星は、常にアンゼリカの前へと追従してきた。挟み撃ちの相手を務めているエトヴァは、魔力障壁と耐衝撃コートで全身を護りつつ、タワーシールドを構えて直撃や爆風を防いでいる。
「ああ、『魔女』の復讐は、ここでおしまいだ」
 戦況を観察しつつ、包囲の位置取りへと動いていく。エトヴァは、なるべく甲羅よりも首や脚、柔らかい部分を狙い、看破した隙を見逃さずに狙い澄ました弾丸を、十字に撃ち込んだ。
 いっぽうでクロエとエイレーネは、巨亀の甲羅によじ登っている。
「何も導かず、何も生み出さない。お前たちに相応しい呼び名は魔女ではなく怪物です」
「民を護らぬ暴君の領地であれば、好き勝手に暴れられると考えたのでしょうが……地上に悪がはびこる限り、わたし達復讐者が見逃すことはありません!」
 茨と穂先で、大砲をひとつずつ潰す。
「みんなで協力し、追い詰めていく。いつだってそれが私達の強さだからね!」
 アンゼリカは、仲間のラッシュに合わせ呼吸を整えた。
 パワーを溜めた一撃を放つために。
「今こそ最大まで輝け、心の輝き! 『終光収束砲(エンド・オブ・イヴィル)』、人々を護る光となれぇーっ!」
 増幅魔法『六芒星増幅術(ヘキサドライブ・ブースト)』を使用し、収束させた光の砲撃。
ガスパール兄さんー!」
「弟よぉ!」
 二本の首が悲鳴をあげているあいだに、クロエとエイレーネは百本首の茨に抱えられて、甲羅の上から脱出していた。
 そこへアンゼリカの『魔砲』が命中して、破片が周囲に散らばる。
 露呈した弱点だ。
 エトヴァは、敵の背後から正面へとまわる。
「これ以上、キマイラウィッチに力をつけさせる訳にはいかない。グランダルメへの増援も、ラ・ピュセルの増強もさせないから」
 静止した状態で二丁銃の狙いを定めた。ビューロー兄弟は、どちらの首もぐったりしている。
「いつかこの地の人々にも、安らぎと日常が訪れるように。……結束を力と成せ! 『Sternenkreuz(シュテルネンクロイツ)』!」
 急所を目掛けて十字型に5つの銃弾を連射した。
「ぐ、ぎゃあああ!」
 火刑を再現するかのようにキマイラウィッチの胴体は燃え上がる。兄弟の悲鳴は同じものだった。かれらがもう、『断頭革命』にたどりつくことはない。
 ほぅ、と息をついたエトヴァは、避難させた村の人たちを呼び戻すと申し出た。
「怖い魔女が来てもディアボロスが守るからと、安心させたいんだ」
 アンゼリカや他の仲間も賛成し、クロエとエイレーネもそうした。ただ、最前線で砲撃に耐えたふたりにはまだ、戦闘の影響が残っていた。その場で休んで、パラドクストレインを待つことにする。
 ただ、排斥力はまだ高い。
 迎えがくるまで、行けるところまでいってみるかたちだ。エトヴァは木こり小屋へと向かった。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

tw7.t-walker.jp

シナリオ『漕ぎ出す先は退路』オープニング公開

表題のとおり、トミーウォーカー社のプレイバイウェブ、チェインパラドクスにて、『漕ぎ出す先は退路』のオープニングを公開中です。
黄金海賊船エルドラードを舞台とした、『太平洋上、白鯨海賊艦隊からの脱出』に関する事件です。
ご参加、よろしくお願いします。

 

tw7.t-walker.jp

全文公開『取り引きはモスクワで』

取り引きはモスクワで(作者 大丁)

 湯の色は真っ赤。
 薔薇の風呂、などではなく、貯めた血でおこなう湯浴みだ。
「ダリヤが倒され、拷問館は燃やされた」
 ジェネラル級ヴァンパイアノーブル『死妖姫カーミラ』は首まで浸かりながら、しかしその表情は曇っていた。
ディアボロスがここに攻め入って来るのも時間の問題かも知れないわね」
 天井を仰ぎ見る。
 クレムリンの宮殿内に設えられた浴室の天井は高く、血を搾り取られた美女の死体が釣り下がっている。
 メイドの運んできたワインを、カーミラはあくまで優雅な手つきで受け取った。
 一口含んだあと、小さな唇が命令を下す。
「市街地を見張り、ディアボロスの奴らのモスクワ市内での活動の兆候があれば、すぐに迎撃して撃退するように伝えなさい」
「はっ」
 控えていた配下は、短く返答した。
 指示は具体性に欠いている。ディアボロスの情報を調べ、カーミラに伝えるはずだった『ダリヤ・サルトゥイコヴァ』がその前に倒されており、有効な命令が出せないのだ。
ラスプーチンを倒したディアボロスを撃退すれば、私の地位も盤石となる事でしょう」
 『死妖姫』は片手で血をすくい、余裕の表情でその赤を眺めてみせる。

 『吸血ロマノフ王朝』行きの車内。
 ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)はぬいぐるみに結わえた糸を手繰りよせ、依頼の説明に利用する。
ラスプーチンとの、ボロジノ会談では、様々な情報を得ることが出来ましたわ」
 発表をさらにまとめた資料を人形たちに掲出させた。
「まずは、ジェネラル級ヴァンパイアノーブル『死妖姫カーミラ』が支配する、モスクワを解放するのが先決となります。物流が止まったモスクワ市街地は、食料不足により窮乏している様子。市民への食糧支援を行い、それを見て駆けつけてくる、カーミラ配下のヴァンパイアノーブルの部隊を撃破してくださいませ」
 今回の支援場所と、敵拠点の位置関係を記した地図も広げられた。
「敵は戦力の逐次投入をしてくるので、それを各個撃破していく事で、カーミラの拠点であるクレムリンの戦力が低下、カーミラに決戦を挑む下準備を整えることが出来るでしょう」

 つづけて、クロノヴェーダたちの画像が張られる。
 トループス級『ロマノフ白軍精鋭兵』は、ラスプーチン派閥の影響下にあるヴァンパイアノーブルで、モスクワ市内で支援活動を行ってくれるらしい。
 今回の依頼中は『協力者』だ。
「末端の派閥構成員であるので、ラスプーチンの生存は知らないようですが、上からの指示に従って、様々な工作を行ってくれています。ディアボロスの食糧支援がある事を市民に知らせて列に並ばせたり、その情報をクレムリンに伝えて、カーミラ配下の迎撃部隊を派遣させたり、ディアボロスと迎撃部隊の戦闘時に、市民の避難を手伝うなど、裏方仕事をしてくれますわ。ラスプーチン派の支援を利用すれば、カーミラ派の戦力を削っていくのも難しく無いでしょう。イイコトですわね」
 微笑みながらファビエヌは、注釈をつけた。
「ただ、ラスプーチン派のモスクワでの影響力が強くなりすぎるのも問題と言えば問題。今後の方針によっては、モスクワのラスプーチン派の戦力を削っておく必要も出てきます」
 状況によっては作戦行動中の『ロマノフ白軍精鋭兵』への攻撃もありうる。
 それは、依頼参加者の現場での判断に任せる、とのことだった。他の二枚のヴァンパイアノーブルの画像は、カーミラ配下の迎撃部隊のものだ。
 撃破することで、依頼達成となる『敵』である。
「トループス級『ブラッディサクリファイス』は、生贄にされた娘たちが元になっています。すでに助けることはできなくなっていますわ。自身の手首を切り裂き、血液から鞭や霧をつくって攻撃してきます。アヴァタール級『無頼商人アクサナ』は、見た目は健康そうな女性で、兵器や毒を召喚する能力を持っています。それらを商売や取引とよんでいるらしいですわね。食料支援の仕方もそうですが、戦い方でも市民の鼓舞を意識してくださいませ」

 ひととおりの案内が済むと、ファビエヌは人形たちとともにプラットホームへ降りた。
ラスプーチン派の一般人への対応は『一般人は殺すのではなく、エネルギーを絞り取る為に生かすべきだ』という、クロノヴェーダの都合によるものなので、全面的に支持できるものではありません。モスクワの統治方法などは、攻略旅団で決めることになるので、ご意見があれば、攻略旅団で発言してくださいませ」
 見送りながら、依頼解決後の話も添える。

 荒れ果てた路地で、囁き合う市民。
クレムリンにいる貴族様は、若い女を攫って連れて行くだけで、まともに政治をしやしない」
「まったくだ。俺たちには今日食べるものがあるのかさえ、不確かなのに……」
 決して大きな声ではないが、聞かれた相手によっては危険な会話だ。こぼさずにはいられないほど、モスクワ市民は困窮していた。
 もうひとりの男性が、周りを伺いながら加わる。
「なあ、ココツェフ伯爵の配下だった人達が食料をわけてくれるらしい」
「本当に?!」
「た、助かった」
 安堵するふたりに食料支援の場所を伝えながら、男性はさらに声を低くした。
「それに、クレムリンの貴族様を追い出す準備もしているって……」

 モスクワ入りしたディアボロスたちは、汚れた路地とそこに座り込む人々の姿をいくらでも見かけることになった。
 靫負・四葉(双爪・g09880)が呟く。
「軍に居た頃は、疲弊しきった非戦闘員そのものは珍しくもありませんでしたが……。僅かでも頼れるものがいるといないとでは、人々の疲弊の度合いはこうも違うのですね」
 いまは街の様子を伺うために、目立たぬようにしている。
 やがて、約束どおりにヴァンパイアノーブルが現れて、困窮する市民たちを誘導しはじめた。
 白い軍服に、初老の顔。『ロマノフ白軍精鋭兵』だ。必要な確認はできたと、レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)は頷いた。
「ここにいるラスプーチン配下は末端……戦力的にもトループス級でしかありません。削ることに意味はあります、が……人民の皆様の前で『仲間割れ』は避けたいですね」
「はい。手を出す利点は薄いですね。主目的を優先するべきでしょう」
 四葉も応え、精鋭兵がつくっている行列に先んじて、広場へと向かった。そこでは、炊き出しの準備が進んでいる。レイラは、新宿島からこの時代のロシアでもなじみ深い食材を持ち込んでいた。
 鍋で出来上がりつつあるのは、温かいボルシチ。赤いスープを一口すすり、味をみる。
 温まるものの他にと、四葉は日持ちのする食料も多くそろえていた。
「一人一人がより長期間食い繋げるようにと考えまして。あと、なるべくかさばらないものが良いかと」
 ジャムをはじめ、攻略旅団推薦の排斥力に排除されない物資の中から見繕った。
「本来ならすぐ底をつくでしょうが、【口福の伝道者】様々ですね」
 四葉がほほえむと、レイラがさっそくそのエフェクトをかける。ボルシチを一皿とり、誘導されてきた市民にいきわたるように増やした。
 食糧支援がはじまると、ディアボロスたちは積極的に話しかけ、さきほどの視察と違って人目につくようにする。
「今はこうして皆様のご助力をすることしかできないこと、お許しください。大きな声では申せませんが、皆様が以前の生活に戻れるよう、今の支配者を追い落とす作戦を『ココツェフ伯爵の元配下』たちと立てています」
「おお、やはり……!」
「噂は本当だったんですね」
 市民のなかには、嬉しさをあらわしつつも、より調子をおさえて囁く男性もいた。
「あなたは吸血鬼のようだ。差し支えなければどこから来ているのか、お教えいただけませんか」
 帽子の下の顔は汚れていても表情は実直そうだ。
 レイラは打ち合わせどおりに『正体』を明かす。
「私たちは革命軍です。北欧より皆様の支援にやって参りました。私たちは人民の皆様を不当に支配し、害する者たちを決して許しません」
「なんと……そうでしたか!」
 男性は周囲にいた数名の仲間にも、支援の手を差し伸べてくれたのが革命軍であると話す。その情報は、さざなみのように人々のあいだを伝わっていった。
 増やしたジャムを手渡しながら、四葉は市民を勇気づける。
「今、とても厳しいことは承知しています。もう少し自分達にも力があればよかったのですが。ですが希望は捨てないでください。遠からず、状況は大きく変わります。変えてみせます。どうかその時まで耐え抜いてください」
 はたして、モスクワを支配しているヴァンパイアノーブルを、この『革命軍』は退けられるのか。
 証明する機会は間近にせまっていた。
 支援の済んだタイミングに合わせるよう、ラスプーチン配下が上手くやってくれたらしい。カーミラ側のトループス級が、広場へと乗り込んでくる。
 赤い目をした若い女性たち。『ブラッディサクリファイス』だ。

 後から現れたヴァンパイアノーブルたちの剣幕がただならない。
 食事が終わった市民たちは、一気に青ざめた。自分たちが罰せられるのではないかと恐れおののいている。もちろん、トループス級が受けている命令は、ディアボロスの撃退だ。
 レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)はボルシチの鍋から離れ、戦闘態勢に早変わりした。
「予定通りですね。こういった工作はカーミラ配下よりも『ココツェフ配下』の方が得意のようで」
 あえて伏せた名前。ラスプーチン派に声をかけておく。
「敵の相手は私が。人民の皆様の避難はお任せいたします」
「心得申した」
「レイラ、自分も最初は一般人のところへまわります。……市民の方々、ご安心ください」
 靫負・四葉(双爪・g09880)も配給係から護衛役へと転身する。
「自分達の活動に対し、カーミラの配下共が妨害に現れるのは想定通り。彼女等を恐れる必要などありません。この程度の部隊には負けませんので。大丈夫。今はどうぞ白軍の方々の誘導に従い、落ち着いて避難を。何も心配はありません、自分はこれより迎撃戦闘に移行します」
 支援をしながら、交流していたことが役にたつ。四葉の説明を、モスクワ市民は受け入れてくれた様子だ。
 パニック状態は収まった。
 話のとおり、『ロマノフ白軍精鋭兵』が、カーミラ派が入ってきたのとは逆のほうから一般人たちを逃がしはじめる。
 レイラは、針状の細剣『惨禍鬼哭血革針』を抜き、『ブラッディサクリファイス』たちを食い止めた。敵トループスは、自身の手首を切り裂き、傷口から溢れる血液を武器として使う。
 鞭となった脈動。
 打ち据えられるレイラは、多少の切り傷には耐える。針の剣で払えるものは払い、直撃を避けつつ勇ましく宣言した。
「支配に抗うには意思だけでは足りず、力が必要です。人民の皆様のみでは力が足りないというのであれば、私たち革命軍がその力となりましょう!」
 剣先に、赤い光が灯る。
「私たちはいずれ……いえ、近いうちに、死妖姫カーミラを追い落としてご覧にいれます。これが大言壮語ではないこと、今この場で勝利を以て証明いたしましょう!」
 惨禍鬼哭血革針を高く掲げた。『天上奉仕・灯火(メイドインヘブン・アガニョーク)』により、赤い革命の光が、敵トループスたちを貫く。
 白い防寒着が、攻撃による負傷で赤く染まる。数体を撃破する。
 ここで慌てて攻勢に出ることはしない。光を高くし、避難の列の最後尾のひとたちにも見えるようにする。ディアボロスたちがモスクワで行っているのは、民衆を鼓舞するための戦いなのだ。
「お、……おおぉー!!」
 人々の反応を確認した四葉は、あとを白軍に託して動く。
「さて、余裕を与えて、万一市民の方々へ矛先が向いても事です。迅速に攻めるとしましょう」
 浮遊腕の爪を差し向けた。
 ブラッディサクリファイスは応じ、自らつくった傷からの血液を、今度は『ブラッディブレード』に変えている。四葉自身も一気に間合いを詰める。
 血の剣は、浮遊腕で受け止めるが、数が多い。抜けてきたぶんの斬撃を、どうしても身体にくらってしまう。
(「市民から見えないように隠し、誤魔化しましょう」)
 四葉のチョーカーにあるひし形の飾りは、『玖式高次元被膜結界器』だ。次元断絶現象により構成された、フィルムスーツ状の『着る結界』を生み出す。
(「幸い敵の武器は鮮血そのもの。流れた血が敵のものだと思わせるのは難しい話ではありません。痩せ我慢は得意な方ですしね」)
 せっかく起こった熱狂を、冷ましたくはない。レイラの熱弁を振るいながらの戦闘も続いている。
「生存と自由を求める人民の意思が絶えることはございません。そしてそれがある限り、革命の灯火もまた消えることはございません」
 『勝利の凱歌』も響いてきた。一般人の心に勇気と希望を湧き上がらせるエフェクトだ。
 残った敵は、逃げこそしないが、広場の雰囲気に怯んでいる。白い防寒着の集団へと、四葉は浮遊腕を放った。血の剣が振り回されるが、注意を引き付ける策に引っかかった証拠だ。
「『次元干渉式・赤――起動』!」
 四葉のパラドクスも、赤い光として認識される。
 三次元空間を対象ごと切断し、光がどこからか切り取ってきた別の次元を挿入する。
「『赤の断絶(アカノダンゼツ)』!」
 傷を戦闘に利用していたブラッディサクリファイスたちだったが、許容を越える引き裂かれかたをして、赤く散る。
 殲滅部隊との戦闘には勝利した。市民たちは、高揚感を抱きながら広場を去る。
「ちょっと、ちょっとぉ。勝手に商売をはじめないでくださいますぅ?」
 いれかわりに、場違いな明るい声がする。
 全滅させたトループス級とはうってかわって薄着の女性のものだ。しかし、彼女もヴァンパイアノーブル。
 アヴァタール級『無頼商人アクサナ』だった。

「貴女にはそう見えるのですね」
 レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)は、無人となった食料支援所をチラと振り返りながら言った。敵指揮官に対して、静かな怒りがこもっている。靫負・四葉(双爪・g09880)も否定の言葉を投げかける。
「何故この地で和服……というには色々と、こう……奇矯ですが。いえ、まあそちらではなく」
 薄着を指摘しても詮無いこと。
 配下を葬った浮遊腕を、いったん近くに引き戻し、発言も仕切り直した。
「勝手な商売と仰いますが、完全な無償提供ですので的外れです」
「そのとおり。私たちは商売をしているわけではございません。よって、聞き入れる必要はございません」
 問答を繋ぎながらレイラは、小声で仲間に伝える。
「人民の皆様の避難は……完了しているようですね。これならば何を持ち出されても人命に被害が出ることはなさそうで安心しました」
「ええ、ですが、その兵器にどんなものを取り出してくるかしれません。ここは一気に距離を詰めましょう」
 浮遊腕の爪と、銀の針。
 ふたりはそれぞれの得物を押したて、アヴァタール級がふんぞり返っている、広場の入り口がわへと駆けだした。
「あなたたちがお店を開いてないのなら、お客になってもらおうかしら。……こちら、入荷したてでございます!」
 『無頼商人アクサナ』は、むき出しの脇をみせるように、両腕を掲げる。
 警戒していたとおり、パラドクスで取りだした兵器だろう。背後にある路地から、土煙とともに何かが近づいてくる。
 レイラは敵の態勢が整う前に一太刀浴びせようと急ぐが、突撃を提案した四葉のほうが呼び止める。
「いえ、待ってくださいアレは……まさか!」
 二つの車輪を並列させた、奇妙な物体が転がってくる。
「噂に聞くパンジャンドラム、珍兵器もあるとは聞いていましたがあんなものまで!?」
「ほほほっ。驚いていただけたようねぇ♪」
 アヴァタール級が自慢げに笑う横を二輪車が通過し、ディアボロスたちに迫る。四葉はその、歴史上の珍兵器の姿に反応を示してしまったが、驚きはまだ続いた。
「まさか、パンジャンドラ……あ、あれ?」
 聞いていたよりも高さがあった。
 ヴァンパイアノーブルのアクサナは、人間と変わらぬ大きさだとして、車輪の直径は彼女の数倍ある。
「せいぜい人の背丈よりちょっと上程度のはず……」
「靫負様、危険です」
 とまどう指先を、レイラがぎゅっと掴んで引き寄せる。謎の兵器は危ういところでディアボロスたちをかすめた。攻撃は外れたが、奥までいくとすぐにバックしてくる。市民らを追わなかったのは幸いか。
「正体はわからなくとも、とりあえずパンジャンと仮称しておきましょう」
「そ、そうですね。ありがとう、レイラ」
 ふたたび、ディアボロスたちを轢き潰しにかかる二輪を、無頼商人は笑って見ている。すると、どこかから聞こえる、何かで拡声された声がかぶさってきた。
「救援用ゴーレム派遣であるあるある……」
 パンジャンの前の地面から、にょきにょきと生えてくる、土くれの人形。
「商人の女! これはゴーレムの宣伝目的であり怪しくは無い。安心!」
 欺瞞に満ちた声は、フルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)のものだった。建物の上からしゃべっていたのをアクサナは見つけ、ゆえに指揮官の視線がずれたすきに、二輪車はゴーレムの上に乗り上げてしまって、一時回転を止める。
 地上のディアボロスは頷きあい、アヴァタール級から離れて、巨大パンジャンドラムへと向かった。
 敵が狙いを定めにくいように、四葉とレイラは高速突撃をジグザグに交差させている。
 フルルズンはそのまま、建物の高さをあいだにおいてアクサナと対峙していた。
「これよりプロト・ゴーレム小隊を投入する! 『生まれよ 土なる 者』!」
 瞬間錬成でボコボコと地面から湧いてくるは土くれのゴーレム。必要要素を満たしただけのシンプル構成。地面があればどこにでも出せるのだ。
「量産性って大切だよね! 商売女もそう思うでしょう?」
 新たに生まれた人形が、よたよたと歩いてくるのを眺めてアクサナは、苦笑した。
「やれやれ、商品を隅々まで行きわたらせるってコトなら同意だわ。私もストックを開放しましょう」
 胸の谷間から、呪符の束を取りだす。
 展開されると、広域に呪いと毒を撒き散らした。フルルズンの立つ場所にも立ち昇ってくる。けれども、彼女は落ち着いていた。
「偉い人はいいました。数は力だよ。と」
 ゴーレムの錬成を続けていれば、呪符など気にすることはない。とにかく敵本体を四方八方取り囲んで圧殺すればよい。
「パラドクスという土台が同じなら、ドコドコ駆け寄って殴りに来るのは立派な脅威! たまにはトループスみたいな出てきてやられるだけのよりは、まともに数で制圧することの重要さを知らしめたいよね」
 確かに毒よりも、フルルズンの声は拡散していた。
 『烈風神葬撃』で全身に暴風を纏っていた四葉は、突撃しながら『ブラッディサクリファイス』に思いあたる。
「ああ、売り買いは全くなかったわけでは無いですね」
 パンジャン車輪の片方を打ち破った。
「先ほど、そこで倒れている方々に喧嘩の押し売りを受けて高値で買わせていただきましたよ」
 指揮官のほうに向きなおって言い放つ。
「対価はたっぷり叩きつけましたのでこの有様というわけです」
「いいのよぉ。どうせ雑魚なんだから安いもの。けど、こっちの雑魚人形もうっとうしくなってきたわねぇ」
 わらわらと集まるゴーレムに、アクサナの姿も沈みつつあった。フルルズンは、珍兵器の破壊具合がわかって、さらに錬成に勤しむ。
「どうせ火力は他に任せていいのだ。被害を受け止める分厚い物量の素晴らしさを説いてあげやう」
「幾らかの被弾は仕方なしです」
 四葉はまた、レイラに声をかけた。パンジャンドラムは傾いたままで転がり始めている。
「また、連携をとっていきましょう。靫負様は、もう一度穴あきの車輪を狙ってください。……気をつけて」
「……パンジャンの直撃を喰らう不名誉だけは避けたいところですからね」
 散開し、挟み撃ちになるよう、二枚の車輪を両側面から捉える。
 車輪の直径は、フルルズンのいる高さにまでとどくほどだったが、導きの光が構造上の弱点へといざなった。
 レイラは銀の針を投擲する。
「浸す眼窩、泥濘む尾鰭。渇く夜風が波紋を望む……『手製奉仕・跳(ハンドメイドサービス・プルィジョーク)』!」
 魚が水から空中に跳ねるように。
 地面を跳ねた針が、回転する車輪を貫き、車軸を折った。
「人民の生命も、自由も、売り買いできるものではございません。人民が自由に生きることのできる在るべき世界のため……お覚悟を」
 怒りの増幅が、破壊力を増す。
 パンジャンドラムは両輪ともをひしゃげさせて横転した。召喚した主にも、その衝撃が伝わる。
「ぐ、ううう! モスクワの倉庫にあったデッドストックなのに、もう壊れるなんてぇ!」
 アヴァタール級ヴァンパイアノーブル『無頼商人アクサナ』は、折れた車軸と同じ姿勢で身体を曲げた。そこへ、土くれの集団が殴りかかる。
「ゴーレム万歳。物量万歳。商人の在庫の底を尽きさせろ!」
 呪符の毒も晴れていき、敵にトドメをさせたとわかる。フルルズンは、仲間のもとへと降りてきた。レイラは救援の礼を言う。四葉がまた疑問を口にした。
「それにしても、どっから倉庫とやらに運んだのでしょう。あの、パンジャンドラム……」
「ボク、知ってる。あれはツァーリたん……えーと、なんだっけ?」
 幼い少女に戻ったフルルズンはしかし、記憶があいまいだった。
 ともあれ、ラスプーチンとのモスクワでの取引のひとつは完了したわけだ。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

tw7.t-walker.jp

 

 

全文公開『海賊船で漕ぎ出そう!』

海賊船で漕ぎ出そう!(作者 大丁)

 霧を抜けてきたのは、オール漕ぎの船だった。
 10人程度の黒っぽい人影が、縦一列に座って腕力をふるっており、船尾の一段高くなった位置から、金髪の若い男が号令をかけている。
「見やがれ、ヤ・ウマトの海だ! ……いや、振り返って見なくていい。そのまま漕ぎ続けろ」
 屋根も船室もなく、大型のボートといったところ。
 一本だけあるマストには、畳んだ帆が括られている。全体に古びてみすぼらしいのだが、金髪男の後ろに掲げられた旗だけは、手の込んだ刺繍がなされて立派だった。
 金貨をかじる髑髏である。
「いいかんじの島がありそうだ。俺様に従ってりゃ、略奪チャンスが途切れることはねぇゼ!」

 新宿駅グランドターミナルのホームに、新たなパラドクストレインが出現した。調査を担当した時先案内人は、資料を抱えたぬいぐるみたちとともに車内に入ってくる。
ごきげんよう。ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)ですわ」
 さっそく地図や画像を、吊り広告用の金具を使って掲出していく。
 二体のぬいぐるみのうち、男の子が高所に登り、女の子が筒状に巻いた資料を下から渡していた。
 作業の間も、ファビエヌは説明を続ける。
「幻想竜域キングアーサー奪還戦に勝利し、新たなディヴィジョンへの道を開くことが出来ました。呼び名は『黄金海賊船エルドラード』。宝探しと略奪が横行する海賊のディヴィジョンです」
 タイミングよく、垂れ幕の要領で地図が開く。
「今回は、冥海機ヤ・ウマトのディヴィジョンの東メラネシアの島々を、エルドラードの海賊が略奪を行う事がわかりましたので、急ぎ、東メラネシアへ向かい、海賊の略奪を阻止していただきますわ」
 次に釣り下がったのが、船の絵。
「エルドラードのクロノヴェーダ種族、アビスローバーは、大きなボートにマストを取り付けたような小型の海賊船で島を襲うようです。いまのところ彼らは、略奪後にこの船でエルドラードに戻るようにしています。乗ってきたアビスローバーを全て撃破すれば、海賊船を奪取し、自分たちのものとして操って、エルドラード側の太平洋に移動する事も出来る筈ですわ」
 ぬいぐるみたちが交互に、地図のディヴィジョン境界を行き来してみせた。
「小型の海賊船で、小艦隊を組む事ができれば、エルドラードの太平洋を探索する、移動拠点とすることが出来るでしょう。メラネシアの人々を救援し、アビスローバーを倒し、海賊船を手に入れてくださいませ」

 案内はさらに続く。
メラネシアの島を襲うアビスローバーから人々を救い、敵を倒せば作戦は成功なのですが、それだけでは、メラネシアの人々を救った事にはならないようなのです」
 メラネシアの人々は、冥海機が戻ってきて、物資の補充などをしてくれると信じているため、残った資源を節約して耐え忍ぶ生活をしている。
 しかし、ディアボロスが冥海機ヤ・ウマトの攻略を進める限り、冥海機がメラネシアに戻って来ることはない。
 つまり、島の人々は、来るはずが無い補給が来るのを待っているので、保存した物資が尽きれば、餓死するか、或いは、近隣の島を襲って略奪を行うかといった状況に追い込まれてしまうのだ。
 さっきまで手伝いあっていたぬいぐるみが、喧嘩の真似事のようなお芝居をした。
「餓死よりも略奪を選ぶものが多いと思われるため、近い将来、メラネシア東側の島々で、島民同士による殺し合いが発生する危険性が高い状況です。これを防ぐ為には、アビスローバーとの戦闘前、或いは、戦闘中に、島の人々に演説を行い、冥海機に頼らずに生き抜くように扇動する事が必要です。排斥力によりディアボロスの存在は思い出せなくなっても、冥海機が戻ってこないかもしれないので自立しなければならない、という意志を、島民に残す事は出来るので、可能ならば、群衆への演説を頑張ってください」
 ファビエヌは、いさかいの間に立って仲直りの握手をさせた。
 ふたたび左右に分かれたぬいぐるみが紐を引くと、アヴァタール級とトループス級の図画が出てくる。
「一般人を襲うトループス級は、『イールガイズ』。ウナギと人型を合わせたアビスローバーで、滑りやすい膜を敷くことで高速移動し、カトラス刀で攻撃してきます。指揮する海賊船長、アヴァタール級『スヴェンスガード』は、海水を武器にした斬撃が得意なようですわ」
 戦闘終了後は、無人の海賊船を接収する事ができる。
「今回、手に入るものには、金貨をかじる髑髏の旗がついていて、それも含めて全体がクロノ・オブジェクトであり、ディヴィジョンの境界を越えてエルドラードへ帰還しやすい構造になっています。海賊船を操って、エルドラードに向かえれば、依頼成功です」

 掲出の資料を車内に残して、ファビエヌとぬいぐるみたちは、ホームへと降りた。
「小艦隊を組めれば、エルドラードの海を冒険することもできましょう。伝説の大陸など、イイコトが待っているような気がしてますわ」

 背が高くて痩せた男と、腹だけ膨らんだ小柄な男のふたりが、波間にそって砂浜を歩いていた。
「これじゃ……見回り役の意味、ないな」
 痩せたほうが、チラと振り返る。
 少し離れた位置を、他の島民もぞろぞろとついてきていた。
 しかし、小柄な男は興味なさげで返事もしない。うつむき加減で、海さえ見ていなかった。
 一方通行の言葉だけが続く。
「みんな……できることもないからさ。冥海機様がおいでにならないか、俺たちの報告を待つくらいなら、自分で確かめに来ちゃうんだろうな……。いっそ、役目を誰かに代わって貰って……おい、聞いてるのかよ、テヴィータ
「……」
 名を呼んでも顔をあげてくれないので、痩せた男の語気がだんだん荒くなる。相手の肩を小突きそうになったところで、後ろの島民が騒ぎ出した。
 いさかいを咎められたと思ったのか、ばつの悪い顔で振り返ると。
「おーい、シオネ! テヴィータ! あれはなんだー!」
 みんなが海のほうを指差していた。
 シオネは、すぐにまた振り返ると、波間に目を凝らす。
 船影だ。
 そう、待ちに待った船影なのに冥海機のものではない。
「なんだと、思う?」
「……」
 さすがに気がついたテヴィータとふたり、正体をはかりかねた。

 島民たちは、見回りのふたりのところまで来て、ある者は海にくるぶしまで浸かりながら船影を確かめようとする。結局、集落はほとんど空っぽになったので、ツェニトハルム・メーベルナッハ(天頂より伸べたる腕・g10816)も、海岸へと出てきた。
「クロノヴェーダの意向に翻弄されるばかりの方々、放っておく訳には参りません!」
 銀色の髪は、液状になびく。
 薄衣のドレスが示すとおり、彼女は『セイレーン』だ。
「まずは自立へと導くこと、これが奪還への一歩ですね! 確とこなして参りましょう!」
 ディアボロスとして初めての仕事であった。
「はい! わたしは皆様の生活援助に訪れました者!」
 自信ありげな表情で、大きな声を砂浜に響き渡らせる。
 人々はいっせいに振り返った。
「皆様の自立をお導きするべく、星の導きにて参上致しました!」
 洋上の船と、交互に見比べる島民もいる。
 見慣れぬものが一度にふたつ現れたのだ。なにか関係を考えるのも当然である。けれども、ヤ・ウマトの世界としては異質な海賊船に比べて、ツェニトハルムの姿に驚かれはしなかった。
 違和感を与えにくい、ディアボロスに特有の力のおかげだ。
「聞けば此方の集落は冥海機の皆様の援助のもとにて生活しておられましたとか。然し、かの方々は戻ってこられると申しましてもいつ、とは申しておられなかったご様子」
 掴みは良さそうだと占星航海士は、演説をはじめた。
 島民たちのざわつきも、徐々に減っていく。
「即ち、戻ってこられるまで何か月……下手したら何年もかかりかねない、のっぴきならぬ事情があるやもしれません! ですので、援助に頼らず生活できるようになりましょう! ご心配なく、わたしもお手伝い致しますので!」
 持ち込んだ『残留効果(エフェクト)』は、土壌改良だ。
 これなら、任務後に島を離れても人々の助けになる。あとは、当該地域で育成可能な作物の種や農具があるので、やり方をおしえればいい。
「ああ。もう少し、時間が欲しかったですね……」
 農業の手伝いまでは叶いそうになかった。
 ツェニトハルムの位置からは、みるみる海賊船が近づいてくるのがわかる。『金貨をかじる髑髏』の旗まではっきりしてきた。
 演説への同意や、自立への決心は、まだ半分といったところ。
 アビスローバーを迎え撃つ準備にうつるか、あるいはもう一押し、演説を続けるか。

 ボートサイズの海賊船は、浅瀬に入ったようだ。
 漕ぎ手の黒っぽい人影の一部が、錨を投げたり縄を結わえたりしているが、残りのほとんどが波とともに砂浜へと寄せてきた。曲刀カトラスを振り回しながら。
 ツェニトハルムの演説に聞き入る島民の、背後へと迫っている。
 このトループス級アビスローバー『イールガイズ』の群れを、横から迎撃するディアボロスの別動隊。
「ちょっと手を貸すだけのつもりが、結局は最前線かよ。こうなりゃ派手に暴れてやるぜ!」
 ユーゼスト・タウルスカイ(仕えるものなき破戒執事・g07140)はインセクティアだ。
 甲殻は、南海の陽光を反射して瑠璃色に輝き、海賊たちの目を引くには十分である。執事らしくオーダーメイドの黒服を着こなし、オールバックに整えられた髪型と、これもまた黒光りするサングラスをきめていた。
 いっぽうで、学者風に白衣をはおり、魔剣を携えた女性がけだるそうに長髪をかき上げる。
「『黄金海賊船エルドラード』と『冥海機ヤ・ウマト』の境界線、各ディヴィジョンの文化的背景には興味があったのだが……。敵の姿を見てしまったのなら仕方がない」
 戸隠・椿姫(戸隠家当代は日々を読書で怠惰に暮らしたい・g02466)は、独特の動作で剣を振る。
 刀身が伸びて、金属片を繋いだ鞭になった。いわゆる、蛇腹剣だ。
 攻め手も守り手も、膝まで海につかったまま、戦いをはじめた。クロノヴェーダは習性なのか、上陸して一般人を襲うよりも、まんまとディアボロスに引き付けられたらしい。
 黒い人影は、近くで見るとまさにツルツルの肌をしたウナギ人間であった。
 全身から垂れた粘液が足元をつたい、潮に溶けだしている。
「ほう……」
「ふむ」
 ユーゼストと椿姫は、感心と興味のまじった声を同時にあげた。
 粘液には、イールガイズの身体を滑らせ、変幻自裁の動きを可能にする効果が、海水にゆらめいたままでも維持されていたからだ。
 死角から狙うカトラスの一撃。
 しかし、ユーゼストを捉えることは叶わなかった。
「こんなナリでも見失うって、面白え技だろ? 『咬切の隠顎』さ」
 インセクティアの執事の速さが、滑るウナギ人間を上回る。鋭い手刀が、黒い皮膚に鋭くめりこんだ。
「その命、少しだけ喰らわせて貰うぞ」
 椿姫の蛇腹剣・臥龍庵がしなる。
 金属鞭の先端による高速斬撃が、トループスたちを寄せ付けない。かすめるように放たれる切っ先に、イールガイズは距離をとり、粘液を網状に変えた。
 ディアボロスたちを捕らえてから曲刀で始末しようとする。
 ふいにユーゼストが素顔をみせた。
「こっちはほんの旅行気分なんでね。長引かせる気はないな」
 鋭い眼光を光らせ、外したサングラスを投げる。宙で反射した光に、アビスローバーたちがひるむと、蛇腹剣の旋回範囲がさらに伸びた。
「『戸隠流臥龍剣 一の型・悔契(トガクシリュウガリュウケンイチノカタ・クイチギリ)』!」
 椿姫の武器はさらに、補食形態へと転じる。
 ウナギ人間たちを食いちぎり、傷口は刀で斬ったよりも、深く酷いものとなった。方々で悲鳴をあげる海賊たち。
 そして、東メラネシアの海にポチャンと落ちる、サングラス。
 一瞥だけくれた椿姫の視線に、ユーゼストは肩をすくめてみせた。
「なに、安物さ」
 海賊船を固定したトループスも、浜へと襲ってきている。

 見知らぬ者たちの戦いに、島民たちもまたざわめきだした。とりわけ、アビスローバーの姿には脅威を感じているようだ。
 『海戦』から『略奪』へ。
 クロノヴェーダのエネルギーが切り替わったことで、一般人の感情も影響を受けているのかもしれない。三間・勲(漁火・g10186)は気が急いた。
「冥海機を追い詰めたのは他でもない僕達だけれど……」
 だからこそ、行動を起こさねばならない。
 演説の応援に加わる。
「冥海機が今どこにいるのか、不安ですよね。僕達は彼女達の居場所を追いながらここまで来たのです」
「……なんだって!?」
 見回り役の痩せた男性、シオネが驚きの声をあげた。
「おまえら……いや、あなたたちは何者なんですか? 冥海機様は、いまどうして……」
 探していた答えを得ようと、矢継ぎ早に質問が出てくる。
 当然の態度だ。しかし、海賊たちが迫っている。勲は個別に答えるのを避け、演説を続けた。
ラバウルニュージーランドソロモン諸島……既に各地の拠点が放棄されていました。どうやら冥海機は重要な拠点に戦力を集めているようです。残念ながらここには当分戻って来ないでしょう」
「そんな!」
 男性の表情が硬くなる。
 絶望させないために、ディアボロスは『士気高揚』を使った。
「勝利の為、彼女達はそう判断せざるを得なかったのかもしれません。しかし彼女達は、きっと諦めていないはずです。皆さんも彼女達を信じているのであれば、助けと補給をただ待つだけではいけません。今もどこかで戦っている彼女達に顔向けできるように……」
 この際、クロノヴェーダへの依存も逆に利用させてもらう。
 なにより、島民に勇気をもってもらうよう、勲は言葉に熱を込めた。
「ここに居る者同士で協力し、護り合って、畑を耕して……前を向いて、しっかりと生き抜きましょう!」
 最後は、団結への呼びかけで締めた。
 効果はすぐに現れる。ずっとだまっていた小柄なほうの男が、相棒の肩をたたいたのだ。
「シオネ……。この人の言うとおりだ。俺はがんばってみたい」
「テヴィータ、……そうか、そうだな!」
 ふたりの握手に島民たちも湧きたった。勲と、ツェニトハルムは危機が迫っていることも伝え、集落への避難を促す。士気があがっているあいだなら、略奪への恐怖も打ち破れるのだ。

 島民たちが退避に動き出したところを見届け、ツェニトハルム・メーベルナッハ(天頂より伸べたる腕・g10816)は波間に向かう。
「無粋な賊の皆さんには、早々にお引き取りを願いませねば!」
 叶う限り、集落への道を塞ぐような立ち位置をとる。
 ウナギのアビスローバーの残りは、全身に粘液をまとわりつかせていた。ディアボロスたちはパラドクスを合わせて、この敵を一掃にかかる。
「欲望と衝動に穢れたるそのお心、この花弁で以て浄めて差し上げましょう!」
 星々より集めた浄化の魔力帯びた光。
 ツェニトハルムは、無数の桜の花へと変えて、イールガイズの周囲へと放った。渦巻き、接触した黒い表皮を焼き焦がす。
「あぎゃぎゃ!」
「いてー! あちぃ!」
 海賊どもは、悲鳴をあげている。さらに残り少なくなった敵のなかから、花びらを粘液に包んで無力化するものがあらわれた。
「どーだー! 俺たちは海賊よ、おまえの光るモンは奪ってやったぜ」
「敵のカウンターが飛んでくる可能性、ってこれですか!」
 悔しいことに、敵のカトラスが炎熱化されている。ツェニトハルムにしてみれば、とりあえずにでも頑張って斬撃を避けるしかない。
 身体をひねって反転した際に、集落の方向が見えた。
「島民の皆さんの慎ましい暮らしを、邪魔させは致しません!」
 ましてや、浄化のための魔力を、略奪に使われるなど許しがたい。セイレーンの占星航海士は、いまひとたび星々から光を集めた。
「それでは皆さんどうぞご覧あれ! 春夏秋冬お構いなしの桜花満開! 清らな光を纏って吹雪けば、ささくれた心もスッキリ癒される事でしょう! 『満開!煌めき花吹雪!(グランツシュトゥルム・キルシュブルーメ)』!」
 一撃目とは比べ物にならない量の花びらが舞った。
 イールガイズのまとった粘液など、剥ぎ取るほどの勢いで。
「わたしの光を以て、滅びへと導かれるがよろしいでしょう!」
 仲間たちも残敵の包囲に加わり、トループス級アビスローバーを殲滅する。
「おいおい~。俺様の到着までもたねぇのか。これじゃ、ヤ・ウマトの連中相手でも上陸できたかわかんねぇな!」
 配下の死体が海に沈んでいくのにも関わらず、アヴァタール級は笑っていた。
 金髪の毛先が、水の玉のようになって宙に流れていく。

 ふてぶてしい素振りで浅瀬に立つアビスローバー、『スヴェンスガード』。対峙するディアボロス、ツェニトハルム・メーベルナッハ(天頂より伸べたる腕・g10816)は声を張った。
「親玉さんのお出ましですね! この島のモノは何一つ奪わせはしませんよ!」
「は~ん。手下を討ったからって、俺様にも勝てるつもりなのぉ~?」
 アヴァタール級は、顔を斜めにかしげて、砂浜のほうを眺めた。三間・勲(漁火・g10186)が、駆けてくるところだ。
「海の平穏は、僕達復讐者が守ります!」
「復讐者ねぇ~。俺様は、略奪される側の感情が欲しいだけだぁ。漕ぎ手がやられたくらいじゃ、仕返ししようなんざ、考えねぇ。だが、お前たちはいま倒しておいたほうが良さそうだなぁ!」
 金髪から染み出した水玉が、大きな波に変わった。握りこんだコインが、ザクザクと増えていく。
 勲は、仲間たちへと目配せする。住民の避難は完了したと。
 海賊退治に包囲をつくるなか、ツェニトハルムは村の方角を意識して立ち位置を守った。クロノヴェーダが戦闘を優先することはわかっているが、ただその口先だけを信じる真似はしたくない。
「敵がわたし達を突破して村へ向かってしまう事態を防ぎましょう」
 陣形をつくるなかで、さらに増援が来てくれた。
 アルトゥル・ペンドラゴ(篝火の騎士・g10746)が展開する『爆焔の攻陣』は、味方を鼓舞して士気を高めるものだ。
「――『己が力をもって、活路を見いだせ』!」
 神算軍師のガーディアンナイトが号令し、ツェニトハルムは天にむかって大きく手を突きだす。
「はい! 『スターダストミサイル』!」
 召喚された星屑のごとき美しい輝き。
 魔力弾が海面に降り注ぐ。
「させるかぁ! 俺様のお宝!」
 海賊の手は、水平に持ち上げられる。
 召喚された『ミミックコイン』が、手の動きに合わせて扇状に飛び掛かってきた。スターダストとコインがぶつかり続ける。
 その圧力に、ツェニトハルムは顔をしかめた。
 自分が支えなければ、と気負ったせいだが、すぐに自信ありげな表情を取り戻す。まわりには、ディアボロスの仲間たちが同道しているのだ。
「連携して戦いますよー」
 各自が応え、それぞれの詠唱にはいっていく。
 スヴェンスガードはコインを召喚しつつ、パラドクスを見回した。
「来るなら、来てみろよぉ!」
 少しは焦った様子で、海水をうねらせている。触れれば斬れる武器なのだ。そして、緩急をつけた変幻自在さで、どこからでも繰り出してこられる。
「遠隔の連撃か? 対しこちらの得物は戦旗槍……ある程度距離を詰めねばまともに一撃を与えられないだろう」
 アルトゥルが考えあぐねていると、さざ波の鋭さが、鎧を抜けてきた。
「くッ!」
 もちろん痛みはあるが、倒れるわけにはいかない。
 海水の斬撃を盾で捌きつつ、一歩ずつでも着実に距離を詰めていく。戦旗槍を推したてて。
(「……別に当たらなくてもいい。それを避けたことで隙ができれば周りの攻撃のチャンスになるのだから。こちらの一撃でとどめを刺せるなんて思ってない。少しでも周囲に繋げる攻勢を仕掛けていくぞ」)
 勇敢なる姿を示すことこそが、『爆焔の攻陣』なのだ。
 勲も、コインの投射範囲にあえて飛び込む。ちゃんと備えていて、士官服の上に雨衣を重ねて羽織った姿だ。
「僕の『天候予測』は、僕が望んだ天候を呼び寄せます。……『雨虎(アメフラシ)』!」
「おいおい~。まだなんか降ってくんのかぁ?」
 船乗りだからか、空模様は気になるらしい。スヴェンスガードは、チラと見上げた。本当に、不気味な赤紫色の雨雲がやってきていた。
「ええ。一雨降りますよ」
「のんびり、遊んでもいられねぇ」
 強がりを言って海賊は、ミミックコインの勢いを増した。決着を急いでいるのは確かだ。雨衣を頼りに勲は耐え、可能な限り致命傷を避けるように努めた。
「ちょっとくらい痛くても平気です、島の皆さんに怖い思いをさせるよりは……!」
 雲は近づいてくるが、スターダストのための空間は避けてある。
 そして、敵のもとへと最接近した戦旗槍が、海賊へと直に刺突を浴びせだす。
「ぐぅ~! うっとおしいぞぉ、お前らぁ!」
「局地的大雨にご注意下さいね」
 勲が、予測を口にした。
 次の瞬間、雨の弾丸が『スヴェンスガード』の頭上を狙ってくる。
「う?! うわぁ、俺様が、これしきの荒れ模様でェ」
「もっとも、パラドクス攻撃なので避けようが無いのですけれど」
 海賊の姿がどしゃぶりの彼方へと覆い隠される。
「古人曰く、略奪を重ねる者は最後には必ず略奪される側に回るといいます」
 ツェニトハルムが、言葉を添える。
「即ちそれは今この時ということ! 何もかもを奪われ、滅びるがいいでしょう!」
「あああああぁっ~!」
 アヴァタール級アビスローバー『スヴェンスガード』は、まさしく海の藻屑と消えていった。けれども、彼の乗ってきた海賊船は、沖合に錨を下ろしたままだ。

「さてさて、後は船を頂戴して大海原へ漕ぎだすのみですね!」
 ツェニトハルム・メーベルナッハ(天頂より伸べたる腕・g10816)が呼びかけると、戦闘に参加していたディアボロスたちは武器を収め、笑ったり頷いたり、あるいは声をあげたり、めいめいに応えてから沖へ向かった。
 敵から護るために、集落のある側を意識して戦っていたツェニトハルムは、最後にもういちど振り返る。
「島民の皆さん、良き星の導きがありますように!」
 土壌改良は残せたし、力を合わせた演説が、きっと自給の道を開いてくれるだろう。
 乗り込んでみると、海賊船は小さなものだった。
 古びているし、クロノ・オブジェクトとは思えないようなみすぼらしさだが、それも時先案内人から聞いていたとおりだ。なにより海賊旗だけは立派で、どうやらこれが行先を教えてくれるらしい。
 セイレーンの占星航海士として、ツェニトハルムは天体の動きを観測し、これらのことを確かめた。
「向かうべき方向は定まりました。あいにく風は出ていませんから、みなさんで頑張って漕ぎましょう。エルドラード方面へ参ります!」
 ディアボロスたちは、船体に対して均等になるよう別れて座り、オールを手にする。その代わりにアルトゥルは、戦旗槍を傍らへと置いた。
「かの、金貨をかじる髑髏が活路を見いだすというのなら、私も付き合ってやろう」
「まぁこれも、ちょっとの手伝いだ」
 ユーゼストは髪を後ろに流すと、新しいサングラスをかけ直した。椿姫は腰かけるさいに、白衣が皺にならぬよう、裾をもちあげる。
「ディヴィジョンの境界を見ておくのもいいだろう」
「向こうも平穏な海とはいかないかもしれませんが、きっと守ってみせます。この船もその一助に」
 勲は、握る手に力を込めた。
「艦隊を組めましたらどんなイイコトが待っているでしょうか! 楽しみですね! それ、よーい……」
 ツェニトハルムが号令をかけ、オールが一斉に動き出す。
 海賊船はグングンと進み、島から離れていく。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

tw7.t-walker.jp

全文公開『最も多い人形』

最も多い人形(作者 大丁)

ごきげんよう。当列車の時先案内を務めます、ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)ですわ」
 挨拶のあと、ぬいぐるみたちがスイスの地図を掲出した。
「皆様の活躍で、断頭革命グランダルメの断片の王、人形皇帝ナポレオンの拠点を特定できました。ナポレオンはスイスのベルンで、決戦の準備を行っているようです」
 差し棒で当地を示すとともに、いくつかのルートもなぞられる。
「フランス全土の大陸軍は、ナポレオンの居場所をディアボロスの目から隠す為に、敢えて、ベルンに集結せずに各地に留まっていたようですが、拠点の情報をディアボロに掴まれたことで、留まる必要が無くなりました。現在、フランス各地の大陸軍が、スイスに向けて進軍を開始しております」
 地図の上をなぞる道筋は多い。
大陸軍の中核となる精鋭部隊は、既にスイスに集結しているようなので、動き出した大陸軍は精鋭とはいえない部隊のようですわ。もちろん、戦争では数の力は侮れません。来るべき戦争において、敵の戦力を削るためにも、この合流しようとする大陸軍を可能な限り叩いていただきます」

 スイスに向かう大陸軍は、行軍速度を優先して周囲への警戒などはほとんど行っていない。
 パラドクストレインで、先回りする位置に向かい、進軍して来る大陸軍を迎え撃って撃破すればいい、とのことだった。
「皆様に受け持っていただく敵部隊は、すべて自動人形で構成されています。アヴァタール級『剣の公爵』に率いられた大群のトループスであり、『征服人形』がほとんどですわ」
 指揮官はともかく、グランダルメでの戦いではよく見る顔だ。
 銃を構えた歯車である。
「この征服人形は、『オートマタ・レギオン』という、一斉射撃が得意なようです。数が多いうえ、指揮官のことも護ってきますわ。その『剣の公爵』も、刃に光を纏って放つ『輝光の剣』という遠距離技を使うようです。ご注意はしていただきたいですが、ディアボロスの皆様なら、必ず勝利できると信じております」

 パラドクストレインは、すぐに出発する。
 案内を終えたファビエヌはホームへと降りた。
大陸軍の進退がわからないあいだ、わたくしも気を揉んでおりました。今回の動きからも、ベルンの拠点を突き止められた件が、ナポレオンにとって誤算であったのは間違いございません。ようやくイイコトになりそうですから、どうぞ、存分に敵戦力を削って来てくださいませ」

 山地の稜線を、なかば強引に横切りながら、自動人形の列が続く。
 前から三分の一といった位置に、指揮官の姿があった。
「諸君には、グランダルメで一番の強みがある!」
 機械式の大剣を掲げて指揮官は、配下たちを鼓舞していた。
「それは、数が多いことだ。同種の機械が連携しあうことで攻撃の精度は上がる。正直に言おう、私がいかに剣の使い手であろうとも、諸君らと互角に戦うことなどできまい」
 褒めちぎるのに躊躇のないアヴァタール級である。
「つまり、最も多い人形こそが、陛下の危機を救えるのだ! 急げ、進め!」

「すげえ数と勢いだな……! 各地からこんなに集結されたらたまんねえ」
 列車から降りて、襲撃ポイントに潜んでいたイーラ・モンコ(デイドリーム・ビリーバー・g09763)は声をあげた。エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)も、迷彩柄のコートで周囲に溶け込んでいる。
「ベルンを突き止め、ナポレオンを確実に追い詰めている証拠でもある……」
 案内人の言葉を繰り返した。
 レイ・シャルダン(SKYRAIDER・g00999)が頷く。
「ええ、スイスには行かせません。どれだけ優秀な将が居たとしても、所詮1人は1人。真に戦争を動かすのは数です。あらゆる事を軽視せず、盤石に備える必要があります」
「後々の戦争がラクになるからな。みんなで協力して、ここで人形を絶対全滅させて、ベルンに集結する数を減らすぞ」
 再び首をひっこめたイーラに、皆がそれぞれの策を話した。
 ナポレオンの優秀さが云々というのは現実世界の過去のこと、この戦いにおいては当てはまらないかもしれないと前置きしたうえで、レイは敵兵の攪乱を推した。それを受けてエトヴァが、アヴァタール級指揮官の号令が届かぬよう、隊を横合いから分断するかたちで奇襲する案を出し、作戦がまとまる。
「ファビエヌと同じように、大陸軍の進退にもどかしく思っていたのもあるが」
 合図が来るまでのわずかな間に、エトヴァがもらしたことだ。
「俺にもこんな感覚があったことに驚いているよ。……戦いたい。この帝国の落日をもたらすまで」
 大群のトループス級は、揃いの動きで行軍している。
 情報どおり、警戒を薄くして速度をあげていた。ディアボロスたちは、指揮官が稜線を越えようとしたあたりで、両方の峰から襲い掛かる。
「特に最初は、囲まれないように立ち回ってくれ!」
 それだけ言うとエトヴァは、自分の演奏に集中した。
「相手は射撃タイプが多いみたい、なのでボクは接近して相手を撹乱させます」
 レイが構えるは高周波式忍刀『蒼宙(アオゾラ)』。
 トループスのあいだを駆け抜け、隊列を前後に切り分けた。敵陣に敷かれた道に沿い、仲間たちが続く。
「――踊り、謳え、心の儘に」
 ヴァイオリン魔楽器『Wandervogel』から、高揚するような舞踏曲があふれだすと、その情熱は煌めく炎を生む。分かたれた隊列の両側を炙るように、エトヴァは火炎を操った。
 征服人形の担いだ銃器と携えた火薬が熱で破裂する。
 衝撃にくずおれるオートマタたちだったが、それさえも盾にして、次の列がきっちりとした銃撃態勢を整えてきた。
「……! 一斉射撃の構え、『オートマタ・レギオン』か」
 気がついていても天使のサウンドソルジャーは、楽器からタワーシールドへの持ち替えに一瞬、遅れる。揃いの動きの射撃手は、その隙を見抜く。
 被弾はただ、迷彩柄の防弾コートで軽減するよりない。
 耐える最中に、エトヴァも看破していた。アヴァタール級『剣の公爵』が、号令を発している。レギオンは、個体の情報を機械のあいだで共有する能力だ。命令を受けた制服人形にむかって、エトヴァは炎の奔流を収束させた。
 かの個体を撃破すれば、陣形は乱れるはず。レイが意図を汲み、命令が拡散されるまえに、それに追いつこうとした。
 『人機一体:纏雷霆(フォビドゥンスパークル)』を発動し全身に雷霆を纏う。
 自身の魔力とフォトンエネルギーを混合したものだ。
 さらに、飛行ユニット『アクロヴァレリア』の推進力、そして『蒼宙』の鞘に備わった、電磁加速による抜刀の加速を重ねた。
「退屈はさせない」
 件の個体を両断する。
 散らばる歯車とともに伝達命令は失われ、トループス級全体の動きもバラバラになりはじめる。
 ディアボロス側は各自で人形を撃破しながら、さきほどのエトヴァとレイのように、ときに狙いを合わせてレギオンを削ぎ落していった。
 そのレイは、続けざまに最速のヒット&アウェイを繰り返している。
 戦場に火の手があがるのを目の端に捉えて、また攻撃を合わせようと急旋回した。
「なんでチャーハンっっっ」
「あぁ、めちゃウマだよ♪」
 イーラが、中華鍋をふるっている。
 さっきの火は、調理のために魔力で出したものだった。手際よく、早業で、見る間にご飯粒がパラパラに立っていく。
「材料かい? 仕込みを済ませて持参してきたぜ」
 聞いていないことを言われて、レイの疑問は増えたが、今は目の前の状況だ。
 征服人形たちも、それぞれの判断で戦闘を継続している。持っている銃を投げつけてきて、それをもう一丁で撃ち抜くことで、爆発攻撃を仕掛けてきた。
 正確さは劣るが、この『ガンスリンガーズ・ボム』でディアボロスの移動を阻害しようというのだろう。
 レイは、多重に展開した結界で威力の緩和を行い、これを防ぐ。止まってなどいられない。
 中華鍋のふりもシメのヤキ入れだ。イーラは出来上がったチャーハンを一瞬で平らげた。
 まさしく特級厨師に特徴的なパラドクスだ。
 料理によって高めた大きなオーラとアツい情熱を、征服人形の群れへと打ち出す。命中し、破壊された人形が、稜線を境にどちらへも転がっていった。
「すばらしい熱量だ。トループスもあと少し、だが油断はしない」
 エトヴァも感服して、演奏にますます感情を込める。イーラは、指をクイクイっと自分のほうに曲げると、残った敵を挑発した。
「我ながらうっま♪ オラ、次はどいつだ?」
「おのれ! 陛下にお届けするはずの戦力をよくも」
 アヴァタール級『剣の公爵』は、仮面から露出した下半分の顔をしかめた。かくなる上は、と残存兵のすべてに大砲形態への変形を指示する。
「どっからでもかかって来いよ……!」
 調理と食事に、『カノン・フランセーズ』の砲撃は押し返され、動いているトループス級はいなくなった。
 加速状態から戻ったレイは、驚きを笑みにかえる。
「ふふ、無事任務が達成したら、帰りのトレインでチャーハン、美味しく頂きましょうか」
「沢山あるから食べさせてやるよ♪」
 ディアボロスたちは、そんな約束を交わしながらも、処刑執行人の大剣から目を外さない。
 刀身からたてる歯車の軋みが、アヴァタール級の怒りを表わしているように聞こえた。

 ゴーグル型電脳デバイス『Boeotia』を使うまでもなく、レイ・シャルダン(SKYRAIDER・g00999)にも相手の感情が読める。
(「リップサービスか何かだったのでしょうけど、折角ですので挑発に使わせて頂きましょう」)
 一歩踏み出すと、『剣の公爵』にむかって、彼自身が発した言葉を投げかける。
「トループス相手に互角に戦えない。つまり、その数多きトループス級を撃破したボク達に勝てる道理は無いと言う事ですね??」
 反応はあった。
 自動人形の唇が、『あ』の形に開いたままになる。虚を突かれた感じだ。
「確かに、大群はもう片付いてしまったな」
 エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)が調子を合わせると、イーラ・モンコ(デイドリーム・ビリーバー・g09763)は、同行者たちを頼もしげに見返してから、後に続けてアヴァタール級を煽った。
「私らは力を合わせられるからね♪ あんたも大したもんだが、いまは1人。あんただけ見てりゃいいワケだからラクだよな」
「キサマら……いったいいつから我が軍を付け狙っていたのだ!」
 機械式の大剣が上段に持ち上げられる。
 焦った攻撃の出始めこそが弱点。
 好機と思った瞬間、イーラは大包丁をぶん投げた。大剣がそれを弾くが、その目くらましのあいだにエトヴァたちはタイミングを合わせ、敵を包囲する陣形に移行している。
 投擲したイーラだけが、それを追うかたちで突出していた。
 レガリアスシューズの駆動力によるダッシュで、瞬時に詰め寄っている。
「おまえ、ここ弱いだろ? ふふっ、バレバレだ♪」
 サキュバスの破軍拳士は、心と肉体の両方を駆使し、全魔力の乗った拳で公爵の顎をとらえた。
「ぐはっ! ……ディ、ディアボロスめッ!」
 仰け反った不自然な姿勢から、アヴァタール級は武器を振る。
 機械大剣はすでに発動していたらしい。
 充填された光が、切っ先をなぞって切断技となる。イーラはといえば殴った勢いのままで、『輝光の剣』の届く範囲に、みずから首を突っ込もうとしていた。
 防具のマジックガードとバトルオーラはあるが、はたして致命傷を防ぎきれるか。
「時間稼ぎと体勢崩しにはなっただろ? 後はみんな頼むぜ!」
 敵を見ていたからこそ、覚悟はできていた。
 しかし、斬首は免れる。
 板状のものにイーラのほっぺがムニュと押し当たった。念動力で飛ばしたエトヴァのタワーシールドが、今度は間に合ったのだ。
「もちろん、作ってくれた敵の隙は突かせてもらうが……。俺もあとで腹ごしらえをしたいからな」
「ハハッ♪ チャーハン作る材料なら、まだまだ十分あるさ!」
 浮遊する盾、『Hushed Audience』に助けられながら、イーラは身を起こした。
 剣の公爵は転倒する。
 足の止まった相手に、エトヴァは銃口を向けている。
大陸軍は、ナポレオンを頂点とする統率のとれた軍勢であった。貴方のような指揮官もまたその歯車の一つであったのだろう。ならば、その枝の根本を破壊するまで」
「油断ならぬ仇であったか。陛下に害が及ぶ前に、私が倒すッ!」
 地面で身じろぎする公爵が、次にどう動くか。
 イーラは見張り、レイのデバイスも計算する。
「『≪ - 人機接続:Lynx of Boeotia - ≫』……!」
 『Boeotia』を起動して精神と全武装をリンク。人と機械が互いを補い合い、レイは『人機一体』の状態へ。ガントレットからは、幾何学模様の結界を展開した。パラドクス通信は開けっ放しで、エトヴァの合図を待っている。
「――結束を力と成せ」
 『Sternenkreuz(シュテルネンクロイツ)』が火を噴いた。
 銃弾が、十字型に連射される。
 両肩、鳩尾、頭、心臓。
 命中するたびに小さな部品が、白い衣装から飛び散った。合わせて、レイの機械魔導弓『ACRO』が、動けない相手を射抜き、ダメージを積み重ねる。
「このまま、追い込んで行きましょう」
「ああ。グランダルメの戦力を削ぎ落とすのと同じだ。一手ごと、疎かにはせず」
 弾と矢を受け、ついに自動人形の右腕がもげた。
 イーラが指摘する。
「あいつ、煮詰まってるな。破れかぶれでくるよ……レイさんのほう!」
「攻撃経路……算出!」
 『Boeotia』の超視覚もあわせ、ガジェッティアは各部の機能を駆使した。アヴァタール級オートマタは、残った左腕で大剣を拾い、すさまじい速度で振り下ろしてくる。
 歯車から滴る、強酸性の猛毒。
 接触のタイミングに、レイは身体をフラットスピンさせ、受け流す。
「ボクが狙ったんだ、必ず貫くよ」
 回避したため、標的の位置はレイの背中側だった。
 『人機一体:電撃戦の一矢(ブリッツディゾルバー)』に死角はない。フォトンエネルギーと魔力を混ぜ合わせて形成した矢が、『剣の公爵』の顔を、確実に射抜いた。
 仮面が割れ、歯車がむき出しになると、すぐにその回転は止まる。
 機械大剣とともに分解していく。
「メチャウマだぜ♪」
 列車に乗る前に、イーラは同行者に振る舞うチャーハンを作る。
 食事がすすむ、あっさりスープも添えた。
「戦い終わればいつもと違う帰り道、ですね」
 レイは車中できっと、舌鼓を打つことだろう。
「奪還戦が近づく最中とはいえ……食事も休息も大事にしないとな。ありがとう」
 穏やかな顔に戻ったエトヴァが礼を言う。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

tw7.t-walker.jp

シナリオ『漂着改竄者の着任』オープニング公開

表題のとおり、トミーウォーカー社のプレイバイウェブ、チェインパラドクスにて、『漂着改竄者の着任』のオープニングを公開中です。
蹂躙戦記イスカンダルを舞台とした、『イオニア海の海戦』に関する事件です。
ご参加、よろしくお願いします。

 

tw7.t-walker.jp

シナリオ『西進! リグ・ヴェーダ海域へ』オープニング公開

表題のとおり、トミーウォーカー社のプレイバイウェブ、チェインパラドクスにて、『西進! リグ・ヴェーダ海域へ』のオープニングを公開中です。
冥海機ヤ・ウマトを舞台とした、『フライングダッチマン号、リグ・ヴェーダ海域へ』に関する事件です。
ご参加、よろしくお願いします。

 

tw7.t-walker.jp