Hatena::ブログ(Diary)

ε304 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-07-16

新たな暗号戦争が始まりつつある

土屋大洋「新たな暗号戦争が始まりつつある」『東亜』第589号、2016年7月、6〜7頁。

 連載の第3回です。

2016-06-26

ベルリン

 2008年〜09年にMITでお世話になったリチャード・サミュエルズ教授ドイツベルリンで日本のグランド・ストラテジーに関するワークショップを開催するというので参加した。サミュエルズ教授にお目にかかるのは6〜7年ぶりだろうか。

 私は相変わらずサイバーセキュリティの話をする。日本からの参加者は私の他に8人。すべて知り合いの方々だったので旧交を温めることができた。諸外国からの参加者は11人。それに地元のオブザーバーが出たり入ったりする。

 しかし、部屋も暖かかった。というか、暑かった。ベルリンは今年一番の暑さで30度超え。ベルリン自由大学の狭い部屋にはエアコンがなく、30人がぎゅうぎゅう詰め。風もほとんど入らない。サウナ状態での2日間だった。会議中にこんなに汗をかいたのは久しぶりだ。震災後の日本でもないと思う。その分思い出に残るワークショップになった。

f:id:taiyosfc:20160623125155j:image

f:id:taiyosfc:20160624201037j:image

 3年かけて本にするとのことだが、脱落しないようにしないと。

 そうそう、ワークショップの1日目がイギリス国民投票の日だった。2日目の朝、みんな結果に苦笑い。そして、何が起きるのだろうかとため息。いろいろな影響がアジアにもあるだろう。次の英国首相になると見込まれているボリス・ジョンソンと現在の首相のデイビッド・キャメロンを幼い頃から比較する番組がBBCで流れている。EUからイギリスが抜けることによるインパクトも数字で具体的に何度も流していて、BBCが結果に失望していることをなんとなく感じさせる。

 2日目のワークショップ終了後、日本の大使の差し入れで、会議場でレセプション。私は頭が痛くなるので滅多にワインを飲まないが、このときは冷たい白ワインがとてもおいしかった。それともドイツワインが口に合うのか。その後、防衛駐在官のNさんにドイツ料理の店に連れて行ってもらう。シーズン最後という巨大なホワイトアスパラガス、アイスヴァイン他の肉盛り合わせ、それにビールを堪能した。

f:id:taiyosfc:20160624190836j:image

f:id:taiyosfc:20160624193620j:image

 今年前半はとにかくたくさん国際シンポジウム、国際ワークショップに出た。これでいったん打ち止め。7月と8月はお断りして、7月は授業をしっかりやって採点をする。8月は充電と原稿書き。9月からまた海外回りを再開する予定。

2016-06-16

スノーデンが暴いた米英の「特別な関係」、さらに深まる

土屋大洋スノーデンが暴いた米英の『特別な関係』、さらに深まる」『Newsweek日本版』2016年6月15日。

 先日のワシントンDCでのサイバー犯罪シンポジウムに基づくものです。

 連載19回目という中途半端ですが、しばらく(少なくとも夏の間は)この連載はお休みになります。

2016-06-12

長い2週間

 韓国から帰った後、博士課程の学生の審査(無事に学位がとれた)や高校への出張講義、学会理事会などで慌ただしくしていた中、某省の研究会で研究報告。時間オーバーで尻切れ。完全に準備不足。久しぶりの敗北だ。

 米軍周辺で通信やサイバーに関係する人々が集まるAFCEA(Armed Forces Communications and Electronics Association)という団体がある。東京にも支部(チャプター)があり、その年次会合が6月1日〜3日に開かれた。2日(木)のランチタイムに日本のサイバーセキュリティ政策について話をさせてもらった。プロの皆さんが集うところで英語での報告なので、まずまず。

 6月5日(日)、日経新聞社の富士山会合に呼んでいただき、サイバーセキュリティのパネル討論で司会をする。電子版の記事にもしてくださった。

 パネル討論が終わると、そのまま成田空港へ向かい、ワシントンDCへ飛ぶ。ワシントン時間で同日の夕方着。

 翌日の6月6日(月)、シンクタンクのCSISと司法省のCCIPS(Computer Crime and Intellectual Property Section)が開いたサイバー犯罪シンポジウムに参加。

f:id:taiyosfc:20160606132833j:image

 午後の暗号のパネルで話をする。ここではパワーポイント使用禁止で、話だけで勝負しなくてはならない。日本をめぐる暗号、特にApple vs. FBIで見られたような法執行機関(警察)による暗号解除の問題について議論。同じパネルで話したブラジルの人が、「これはフェアじゃない。我々は携帯一つ開けるために1万ドル払うことなんてできない」と言っていたのが印象的だった。

 このシンポジウムの他のパネルでおもしろかったのは、米英間で令状の行使を相互にできる協定を検討しているという話。どうやらワシントンではかなり関心を集めているようだ。

 シンポジウムが終わった後、ホテルに戻って預けておいた荷物を受け取り、そのままダレス空港へ。夜8時半の国内線でLAへ。深夜に到着した後、日付が7日(火)に変わってから羽田行きの飛行機に乗る。7日(火)はあっという間に終わってしまった。

 羽田に着いたのは8日(水)の午前4時50分。ワシントン1泊4日の旅。いったん帰宅してシャワーを浴びた後、SFCへ。11時10分からの大学院の特別授業で講義(裏で担当している学部の授業は同僚たちに任せる)。午後、都内の会議に参加し、夜はサイバーセキュリティの関係者と焼き肉で宴会。

 翌9日(木)はさすがにくたびれたので休む。予約していた整体に行くと、左足が長くなっているとのこと。3月頃から左足の土踏まずが痛んでいたが、骨盤が歪み、左足が長くなってそちらに負担がかかっているのだろうとのこと。

 10日(金)は午前中に幕張メッセで開催中のInteropを見学。午後は都内でいくつか面談。夜は三田キャンパスでサザンメソジスト大学と共催の国際シンポジウムで基調講演を聴く。スピーカーは、5年前のトモダチ作戦で指揮に当たったパトリック・ウォルシュ提督・太平洋艦隊司令官(当時)。講演の前に挨拶に行くと、今は民間企業でサイバーセキュリティを担当しているとのことで驚く。やはり注目されているトピックなんだと思う。

 11日(土)、前日に続いてサザンメソジスト大学と国際シンポジウム。知り合いの先生たちが次々と登場する。

f:id:taiyosfc:20160611135023j:image

 私の出番は午後の最後のパネルで、相変わらずサイバーセキュリティの話。同じパネルの池内恵さんのイスラム主義の話、サザンメソジスト大学の若手による日本の食の安全の話も大変勉強になった。終了後、中国飯店で20数名で宴会。旧知の皆さんや新しく知り合った皆さんと楽しく過ごす。

 とにかく長い2週間だった。さすがに疲れた。

2016-06-09

スノーデン以後のインテリジェンス活動

土屋大洋「スノーデン以後のインテリジェンス活動」『治安フォーラム』2016年7月号、39〜46頁。

 ある研究会で報告させていただいた話をベースにして、久しぶりに『治安フォーラム』に書かせていただきました。

2016-05-30

狙われる金融機関。日本のコンビニATMとバングラ中銀

土屋大洋狙われる金融機関。日本のコンビニATMとバングラ中銀」『Newsweek日本版』2016年5月30日。

 最近遅れ気味のこの連載。締切までに出せないことが多い。関係者の皆様、すみません。

 ところで、コラムの本文中でもちょっと触れている通り、バングラデシュ銀行(バングラデシュ中央銀行)の件は、北朝鮮ではないかという報道が出ている。ソニー・ピクチャーズで使われているのと手法が似ているとか。マルウェア自体はブラックマーケットで出回っているものだから、第三者でも使えると思うが、どこまで全体の似ているのだろうか。

 2月ぐらいに韓国では、北朝鮮サイバー攻撃をやりそうだとかなり騒いでいた。国家情報院NIS)の分析が発信源だったようだ。先日、ソウルに行ったとき、「何かあったのか」と聞いてみると、みんな「そういえば何かあったかなあ」という感じで、大きなものはなかったような感じだった。ところが、この報道が出てきたので、それが正しければ、狙いは韓国ではなく、ニューヨーク連銀(にあるバングラデシュ中央銀行の口座)だったことになる。

 これまでの北朝鮮サイバー攻撃は政治的なデモンストレーションを狙うものが多かった。しかし、今回のは明らかに金銭目的というところが気になる。

 北朝鮮の専門家に聞いてみたところ、偽ドル札を作ったこともあるわけだから、やりかねないとのこと。しかし、36年ぶりの党大会の準備をしている最中にそんな下品なサイバー攻撃やるのもどうかなという気がしないでもない。もう少し判断は待ったほうが良いのかもしれない。

2016-05-24

Information Governance in Japan: Towards a New Comparative Paradigm

f:id:taiyosfc:20160524090017j:image

Kenji E. Kushida, Yuko Kasuya, and Eiji Kawabata, eds., Information Governance in Japan: Towards a New Comparative Paradigm (SVNJ eBook series), Kindle Edition, 2016.

 初めての英語でのKindleバージョン(のような気がする)。私は第8章の"Cyber Security Governance in Japan: Two Strategies and a Basic Law"を担当。

 数年かけた共同研究プロジェクトの成果が出たことは喜ばしい。

 そして安い! なんと1.98米ドル! 著者たちに印税は入らないってことです。

2016-05-23

トマス・リッド、ベン・ブキャナン「サイバー攻撃を行うのは誰か」

f:id:taiyosfc:20160523090135j:image

トマス・リッド、ベン・ブキャナン(土屋大洋訳)「サイバー攻撃を行うのは誰か」『戦略研究』第18号、2016年5月、59〜98頁。

 昨年6月、北京でワークショップに参加した。その際、英国キングス・カレッジのトマス・リッド教授と知り合いになり、論文の翻訳を頼まれた。このワークショップの数日後、中国版が出るとのことだった。時間がかかってしまったが、日本語版が完成し、戦略研究学会の機関誌『戦略研究』に載せていただくことができた。関係各位に感謝したい。

 原文の論文は以下にある。

http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/01402390.2014.977382#.V0JFnlcp-gQ

 著者によるこの論文の特設ページは以下である。

https://ridt.co/attributing-cyber-attacks/

 蛇足ながら、『戦略研究』第18号が出てからびっくりしたのは、翻訳論文のすぐ後に私の著書に関する書評論文が出ていたこと。

河野桂子「中国北朝鮮ロシアサイバー攻撃—日米欧の対応—」『戦略研究』第18号、2016年5月、99〜111頁。

 LACの伊東寛さんの『「第5の戦場」サイバー戦の脅威』と並んで拙著『サイバー・テロ 日米vs.中国』を取り上げてくださった。防衛研究所の河野先生、どうもありがとうございました。

 さらに蛇足ながら、同僚に言われて『国際安全保障』に別の本の書評が載っているのにも気づいた。

加藤朗「土屋大洋著『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年4月)296頁」『国際安全保障]』第43巻第4号、2016年3月、92〜96頁。

 桜美林大学の加藤先生、どうもありがとうございました。

 とにかく、こういうのは突然出てくるのでびっくり。

2016-05-21

またソウル

 今年2回目の韓国ソウル。午前6時に家を出てソウルに向かうものの、結局、予定していた2人のうち1人には会えず残念。時間が空いたので、ソウルの街をうろうろ歩く。何度もソウルには来ているが、こんなに暇な時間を過ごすのは初めてのような気がする。適当に裏路地を歩いていると、いろいろな臭いが漂っていておもしろい。ランチの時間が終わって食堂街はけだるい休み時間という感じ。

f:id:taiyosfc:20160519153422j:image

 ソウルはカフェがやたらと多い。3軒並んでカフェというとこもある。スターバックスのような外資だけでなく、席もない小さなカフェも多い。会社員らしき人たちがたむろしながらコーヒーを飲み、たばこを吸っている。私もそのうちの一つに入ってストロベリーのスムージーを頼んだら巨大なものが出てきた。なかなかおいしい。

f:id:taiyosfc:20160519161907j:image

 ホテルに戻って会議主催者たちとの夕食会。なぜかイタリアンで、おいしいのだが、ソウルイタリアンというのもなんとなく寂しい。

 翌日は朝から高麗大学でThe 5th Asia Forum on Cyber Security and Privacy: Security and Privacy for Cloud Computing In Digital Ageという会議に参加。クラウドコンピューティングは私には苦手なトピックである。午前のパネルが終わって、昼食は弁当。大きくて食べきれない。

f:id:taiyosfc:20160520122249j:image

 午後のセッションで私は司会。プレゼンターもコメンテーターもみんな法律学者なのでかなりやりにくい。

f:id:taiyosfc:20160520155828j:image

 セッション終了後、まだ会議が終わっていないが、空港へ向かう。この日の夕食会は韓国料理の予定ということで残念だ。私は空港のフードコートでシーフード入りチゲ鍋をいただく。

f:id:taiyosfc:20160520173739j:image

 機内では食事をパスして、横江公美さんの『崩壊するアメリカ』(ビジネス社、2016年)を読む。トランプ現象ってそういうことかと感心する。横江さんにはワシントンDCでいろいろお世話になった。ヘリテージ財団での成果がこうしてまとまったことはすばらしい。

 帰着した羽田空港が大混雑。JALANAハワイ便が重なってしまったらしい。荷物がなかなか出てこない。最終バスに乗って24時に帰宅。42時間の出張だった。

映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』

D

 ハワイで1年間過ごしたのは、エドワード・スノーデンの足跡を追うためだった。彼が香港に現れる前の1年間を過ごしたのがハワイだった。

 ハワイ滞在中に公開された映画『CITIZENFOUR』を友人と観に行った。男二人で映画を観に行くのはいかがなものかと別の友人に笑われたが、ハワイと関わりの深いスノーデンの映画をハワイの人たちがどう観るかも興味があった。映画館にはそれほど多くの人は入っていなかったが、終わった後のフーッというため息が印象に残っている。

 字幕無しで見ていると分からないところもあり、もう一度見たいと思っていたが、今回ようやく日本でも公開されることになった。予告編がとても格好良い。

 事前に告白しておくと、配給のGAGAさんから事前にコンタクトをいただき、映画館で販売されるパンフレットに寄稿した他、宣伝用のコメントも提供しているので、このブログのエントリーは事実上の広告活動になっている。原稿料は定額なので、パンフレットの売り上げが伸びても私にたくさん印税が入るわけではないが、パンフレットにも目を通していただければうれしい。

 映画は最後のシーンが興味深い。別の告発者の存在が示唆されている。グリーンウォルドとスノーデンがやりとりするメモが意味深だ。

 上映館はそれほど多くないが、東京では青山と新宿で6月11日から観られる。上映館については以下を参照。

http://gaga.ne.jp/citizenfour/info/?page_id=20

2016-05-20

山口英先生

 かねてから病気療養中だった山口英先生がお亡くなりになりました。最初にお目にかかったのは文部科学省の裏にあったプレハブ小屋だったと思います。歯に衣着せぬ物言いに少なからず驚きました。

 その後、2009年に情報セキュリティ政策会議に推薦してくださり、いろいろアドバイスをくださいました。技術にも政治にもあれほど通じている希有な方でした。山口先生が切り開いてくださった日本政府の情報セキュリティサイバーセキュリティ対策を進めていかなくてはいけません。

 ご冥福をお祈りします。

2016-05-19

日米関係とアジア太平洋の安全保障:課題と展望

f:id:taiyosfc:20160425132305j:image

 6月10日(金)の夜と11日(土)の終日、G-SECで「日米関係とアジア太平洋の安全保障:課題と展望」と題するシンポジウムが開かれます。日米からいろいろな方が報告します。私もサイバーセキュリティの話をします。同時通訳が入ります。事前登録が必要ですので、リンク先から申し込んでください。ページの一番下に申し込みフォームがあります。

http://blog.smu.edu/towercenter/events/sun-and-star-symposium/

2016-05-02

シンガポール

 シンガポールへ2泊の出張。もともとは会議の招待を受けていたのだが、いろいろあって会議への参加はキャンセル。しかし、ついでに設定してあった別件があって自費で渡航。すれ違いでなかなか会えなかった方と会うことができて良かった。

 さらについでにシンガポールで働く卒業生と夕食。地元の本当においしいシーフードの店に連れて行ってもらった。手をべとべとにしながらエビとカニをいただく。

f:id:taiyosfc:20160429192505j:image

 こうして卒業生とゆっくり話ができるのは教師冥利に尽きる。彼がやっていることを聞くと大学での教育なんてほとんど役に立っていないんじゃないかという気もするが、立派に仕事をしてくれているのはうれしい限りだ。

 もっとついでに、海底ケーブルの陸揚局も2箇所見に行く。一つは堂々とケーブル陸揚局と看板が出ている。

f:id:taiyosfc:20160430151130j:image

f:id:taiyosfc:20160430151133j:image

 もう一つは、タクシーの運転手もうろうろ迷い、ビルにもそれらしい表示は見当たらなかったが、どうやらこの建物のようだ。

f:id:taiyosfc:20160430152024j:image

 公開情報とはいえ、怪しまれて捕まるとやっかいなので、早々に退散。

 両方ともチャンギ空港の近くで、海は空港を挟んで向こう側。さすがにマンホールを探すまでは無理だった。

2016-04-23

サイバー攻撃のアトリビューションは魅力的な仕事である

土屋大洋サイバー攻撃のアトリビューションは魅力的な仕事である」『Newsweek日本版』2016年4月22日。

 ここで紹介している論文を読んで、アトリビューションに対する見方がずいぶん変わりました。

2016-04-21

ハリウッドからボリウッドまで、ペンギンからシロクマまで:太平洋軍の研究プロジェクト

 ハワイに行くたびに遊びに行っているんだろうとご批判をいただくが、昨年出した『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房)の前書きで書いたとおり、米国太平洋軍(PACOM)に関心を持ってきた。太平洋軍はアジア太平洋全域を管轄している。「ハリウッドからボリウッドまで、ペンギンからシロクマまで」と言われるように、米国西海岸からインド洋まで、そして北極海から南極大陸沿岸までの広大な地域を管轄としている。そして、その司令部がハワイにある。その管轄範囲には日本や朝鮮半島台湾も含まれており、東アジアの有事の際に使われる「米軍」とは太平洋軍のことに他ならない。

 ハワイに1年間いたとき、もし米中開戦ということになれば、かつての日本帝国海軍のように、中国人民解放軍ハワイをたたくだろうと確信めいた感覚を何度も得た。それぐらい、ハワイは軍事的な拠点として重要である。その感覚を共有する人は他にもいるようで、P・W・シンガーとオーガスト・コールが書いた『中国軍を駆逐せよ! ゴースト・フリート出撃す(上・下)』(二見文庫、2016年)では、サイバー攻撃を駆使して人民解放軍ハワイを占領してしまう。ハワイの土地勘が多少ある身としては、ああ、あそこかあ、と思うシーンがたくさんあった。サイバーセキュリティに関心のある方々には必読の小説である。

 昨年度から、慶應の「スーパーグローバル大学創成支援」事業の一環として「アジア太平洋地域の安全保障体制」というプロジェクトを動かしてきた。太平洋軍を研究するためのプロジェクトである。その1年目の成果を以下にまとめた。

http://web.sfc.keio.ac.jp/~taiyo/pacom/

 いずれこのページは正式な慶應の事業ページの下に移されると思うが、そちらができるまでの一時的なものとして作っておく。そのときにはもっとファンシーなデザインになるはずだが、今は必要最低限だけ。ハワイにあるイースト・ウエスト・センターのデニー・ロイさんと私のワーキングペーパーも載せた。ワーキングペーパーなので、まだまだクオリティの高い論文にはなっていない段階だが、ひとまず1年目の成果として掲載してある。

 なぜこんなに太平洋軍についての研究が少ないのかと思っていたが、やってみると、資料が限られている上に、太平洋軍そのものへのアクセスが厳しいことが原因だと気づかされた。ウェブ上にはそれなりに英語の資料があるが、行間を読まないと理解しにくい。行間を読むために現場の人たちの話を聞こうとしても、なかなか会うことができない。ワシントンDCでは人と会って情報交換するのが当たり前の文化だが、軍隊相手ではそうはいかない。ハワイの人はたいていフレンドリーだが、基地の中にいる軍人たちに会うのはとても難しい。まして、私は民間人であり、外国人でもあるから、彼らにとっては私と会うことにメリットはなく、むしろリスクでもある。ハワイでも日本でもいろいろな方々が支援してくださっているが、なかなかまとまった成果にはつながらない。

 とはいえ、飽きっぽい私としては、サイバーセキュリティ以外にもテーマを抱えておくことは重要なリサーチ・ハックでもある。サイバーセキュリティ、海底ケーブル、太平洋軍の三つが今のところの研究課題である。どこか一つで行き詰まったときに、一時的に別のテーマに切り替えておくと道が開けることがある。とはいえ、二兎ならぬ三兎を追うことでリソースが分散し、どれも成果が出ないことにもなりかねない。三つのテーマは緩やかにはつながっているので、うまく関連づけることだろう。

 太平洋軍については、今秋のSFCのオープンリサーチフォーラム(ORF)で、できれば公開シンポをやりたい。今年度もそのうちにハワイに行くことになると思うが、遊びに行くのではない。サーフィンは一度もしたことがない。

2016-03-31

日中韓の金融セクターのサイバーセキュリティ

f:id:taiyosfc:20160331104501j:image

Motohiro Tsuchiya, "Cyber Security of Financial Sectors in Japan, South Korea and China," Ruth Taplin, ed., Managing Cyber Risk in the Financial Sector: Lessons from Asia, Europe and the USA, London: Routledge, 2016, pp. 96-111.

 これも高い本で、95ポンド。今日のレートで15,340円。まあ、ほとんど売れないような気がする。

 私は日中韓の金融セクターとのことで、多少、専門分野を超えているのですが、欧米圏の人には分かりにくいだろうということもあって引き受けましたが、けっこう大変でした。

 英語で読んでもらえる原稿がしっかりした出版社から出るのは良いことです。

 もう一冊、来月にも英語の共著本がweb bookとして出るそうです。ありがたいことです。

海底ケーブル銀座としての東アジア

土屋大洋「海底ケーブル銀座としての東アジア」『東亜』第583号、2016年4月、6〜7頁。

 連載第2回です。

2016-03-26

ビュード

 年度末最後の出張はロンドンへ。今回はオープンなイベントはなく、RUSI(英国王立防衛安全保障研究所)でのクローズドのミーティング。前回11月に来た際、RUSIの研究者と食事会で一緒になり、サイバーセキュリティはクローズドでちゃんと話がほうが良いと言われ、そうしてもらった。日本の政策を説明した後、2時間がっちり議論。最後はネイティブ同士の弾丸トークになってしまい、ちょっとついて行けなかった。まだまだ英語力が足りない。

 実はこの日は、ブリュッセルでテロがあった日の午後。さすがイギリス人というべきか、動揺した顔は見せず、全く話にも出なかった。その日の午後のEvening Standard紙では、次のターゲットはイギリスかもしれないと煽り立てていたが、どうなるのだろう。たまたまメールが来た東欧の友人は、ヨーロッパはもうたやすく行けるところではなくなったという。

 泊まっていたパディントン駅の周辺は、ヒースロー空港からヒースローエクスプレスがつながっているので便利だが、ムスリム系の人たちが多く住むところとしても知られている。改めて見渡すと、以前に来たときよりも増えている気もする。特に、目だけを出して全身黒ずくめの女性が目に付く。テロによる私の偏見なのか、移民が増えているのか、判断しにくい。

 予備にとってあった一日が丸々空いた。どうしようかいろいろ悩み、友人たちにも相談したが、やはり海底ケーブルを見に行くことに。ブリテン島の最西端にポースカーノ(Porthcurno)という場所があり、19世紀に最初の大西洋ケーブルが陸揚げされたことを記念した電信博物館がある。しかし、冬の間は土日月しか開いていないらしいので断念。

 その代わりに現代の海底ケーブルがたくさんあがっているビュード(Bude)に行くことにする。パディントンから地下鉄ビクトリア駅へ出て、ガトウィック・エクスプレスに乗ってガトウィック空港へ。そこからflybeという格安航空でニューキー(Newquay)まで飛ぶ。小さなプロペラ機。Bombardier Q400らしい。「道路や鉄道より速い(Faster than road or rail)」っていうキャッチフレーズはどうかと思う。

f:id:taiyosfc:20160323091402j:image

 1時間ちょっとで到着。そこからレンタカーでさらに1時間ほどでビュードへ。

 陸揚局の場所はhttp://www.stevenheaton.co.uk/SubmarineCableLandingsUK/?p=113で確認済み。そこへ直行すると本当にあった。意外にも住宅街のど真ん中で、そこら辺にいる住民たちの「何しに来た、アジア人?」っていう視線が痛い。何も悪いことはせず、敷地の外から建物を眺めて少しだけ写真を撮らせてもらう。

f:id:taiyosfc:20160323212408j:image

 敷地の奥には海底ケーブルが巻かれたまま置かれており、建物の警告文にはBTの所有物と書いてあるので間違いない。

 ここは冷戦中の60年代に作られたとのことで、地下化されているようだ。地上の建物は掘っ立て小屋に近いが、敷地の芝生の所々に空気穴のようなものがある。冷戦中の陸揚局は核兵器対応のところが多いと聞くが、ここもそうなのだろうか。国営独占事業者の時代だからできたことだろう。現在の事業者の陸揚局はコスト削減最優先で、そこまでの余裕はないはずだ。

 海岸線までは1.5キロほどか。一番近いと思われるBlack Rock Beachへ。かなり遠浅の海岸になっているが、その名の通り黒っぽい岩がゴロゴロしている。岩がなく、砂が続くところもあるので、そこにケーブルが通っているのかと考えながら海岸をうろうろするが手がかりはなし。犬を散歩させている人たちがとても多い。近くのカフェで昼食。大きなボールに出てきた熱々のトマトスープがうれしい。

 念のために、隣のビーチにも行ってみる。ここはサーファーが多い。ウェットスーツに着替えている人たちがたくさんいる。案内板を見ると、さっきのビーチは犬を遊ばせて良いが、こちらはダメとのこと。ふとライフガード小屋の横を見ると、大きな標識のようなものが立っている。岸側に向いているのではなく、海を向いている。海側に出て見上げてみると、「TELEPHONE CABLE」と書いてある。これが海底ケーブルの場所だ。

f:id:taiyosfc:20160323225209j:image

f:id:taiyosfc:20160323225051j:image

 ケーブルが引き上げられているウィドゥムス・ベイ(Widemouthと書いてワイドマウスではなくウィドゥムスと発音するらしい)を見下ろす岬の上に立つ。まさに断崖絶壁で、柵もないので下を見下ろすのが怖い。花束がたむけてあるのがなんとも。そこから南側のベイを見下ろすと、確かに湾(ベイ)になっていて、ケーブルを引き上げるには良い場所だろうなと思える。ただ、岩が多すぎるのではという気もする。

f:id:taiyosfc:20160324001651j:image

 そして岬の上から反対の北側を向くと、なんとはるか先にGCHQ(政府通信本部)の基地が見えるではないか。地図で確認すると車道で15キロぐらい。直線では10キロぐらいだろうか。肉眼で確認できたのはうれしい。カメラの精度がもっと良ければきれいにとれたのにと残念。近づいてみたいところだが、外国人がおいそれと近づけるところではないので、ここで我慢。

f:id:taiyosfc:20160324001857j:image

 ロンドンに戻り、その晩は勢いで「テムズ川バビロン」と呼ばれるSIS(MI6)本部も見に行く。『007 スカイフォール』で爆破されてしまい、『007 スペクター』ではもう一度爆破されてしまうが、本物は健在だった。

f:id:taiyosfc:20160324061227j:image

2016-03-17

サンタモニカ

 ホノルルから戻って数日ですぐにカリフォルニア州サンタモニカへ。

 成田からロサンゼルス空港に飛ぶ際、機内で同僚の神保謙さんと一緒になる。二人とも同じ会議へ参加予定。ロサンゼルス空港からサンタモニカまではタクシーで30分ぐらい。私の頭の中では桜田淳子の「サンタモニカの風」が吹き始める(古!)。サンタモニカに来るのは初めてだ。

 ホテルにチェックインして荷物を置いた後、神保さんを無理矢理誘って予約しておいたZipcarに乗り、ソニー・ピクチャーズへ。日曜日なので見学コースは見られないが、ここが大規模なサイバー攻撃の舞台となったかと思うと感慨深い。

f:id:taiyosfc:20160314054313j:image

 そこからさらに30分ほど車を走らせて、海底ケーブルが陸揚げされているビーチへ。調べてあった情報と照らし合わせると、二つのマンホールが怪しい。

f:id:taiyosfc:20160314063716j:image

f:id:taiyosfc:20160314063052j:image

f:id:taiyosfc:20160314063414j:image

 陸揚局が入っているとされる建物も確認。手のひら認証が付いた扉もあった。こんなセキュリティで大丈夫なのかなあと改めて心配になる。

 今回の訪問の目的は、RAND研究所で開かれる「U.S.-Japan Alliance Conference: Strengthening Strategic Cooperation」という会議への参加。当初知らされていなかったチャック・ヘーゲル国防長官と小野寺五典元防衛大臣も参加。RAND研究所といえば、インターネットの原型となるARPANETを構想したところとして知られている。当時の建物は残っておらず、洗練された新しい建物になっている。

f:id:taiyosfc:20160316080917j:image

RAND研究所の外観

f:id:taiyosfc:20160315061512j:image

基調講演する小野寺元防衛大臣

 私の出番はサイバーセキュリティについてのセッション。日米の取り組みの可能性について話す。下の写真は神保さんが撮ってくれたもの。一番左がRANDのマーチン・リビキ、その横が私、右から二番目がJPCERT/CC伊藤友里恵さん、一番右がRANDのスコット・ハロルド。

f:id:taiyosfc:20160314164017j:image

 二日目はヘーゲル前国防長官の基調講演。下の写真はスコットの質問に答えているところ。

f:id:taiyosfc:20160316013735j:image

 最後のパネルに神保さんが登場。下の写真の一番左はワシントンDCシンクタンクのアトランティック・カウンシルのロジャー・クリフ、その隣がスティムソン・センター辰巳由紀さん、そして神保さんとスコット。

f:id:taiyosfc:20160316041329j:image

 会議終了後、RAND研究所についてツアーをしてもらい、解散。

 買い物をしてからブラブラと歩いて、サンタモニカ名物の海に突き出した桟橋で海に沈む夕日を眺める。桟橋には観光客の他にたくさん釣り人がいて、鯖のような魚が入れ食い状態だった。私も釣りたかった。

f:id:taiyosfc:20160316105126j:image

 最後の夕食は、頑としてRANDに土地を売らなかったレストランChez Jayでステーキとエビをいただく。ちょうどテレビでは大統領選挙の予備選の開票結果を流していてスコットの解説を聞くことができた。

f:id:taiyosfc:20160316074254j:image

Zippy's

 昨年から始めた共同研究プロジェクトのためにハワイホノルルへ。

 まずはお世話になっている同級生の大塚領事御夫妻とランチ。到着日の昼ということもあり、こちらは眠い。どこへ行こうかとなって、ふと、Zippy’sの名前が浮かぶ。ハワイで有名なファミレスチェーンだが、1年間の滞在時には一度も行くことができなかった。ここはファミレスながらポイントが高いと聞いていたので、一度は行ってみたいと思っていたので、急遽行くことに。かなりメニューの選択に悩むが、定番のロコモコ

f:id:taiyosfc:20160306131101j:image

 ラーメン風のどんぶり。少しかけているところもハワイ風のご愛敬。栄養バランスを無視したこの食べ物にしびれてしまう。

 翌日は、Zippy'sとは何も関係ないZipcarを借りる。ボストンで入会したZipcar。会員を続けていて良かった。ようやくハワイにも入ったのだ。ワイキキのホテルに停まっているZipcarをピックアップして、まだ見ていなかったところを回る。まずはえひめ丸の記念碑。だいたいの場所は知っていたが、ちゃんと確認していなかった。昨年、中谷防衛大臣ハワイを訪問されたときにも献花をされていたので、一度行っておこうと思い、訪ねる。

f:id:taiyosfc:20160307083951j:image

 帰国の機中で

中村邦子「米太平洋軍の同盟マネージメント対策と市民社会との連携―えひめ丸事故とその後の友好関係―」『外務省調査月報』2008年。

を読んだが、本当につらい事件だ。本文・脚注に知り合いの名前がいくつか出てきて、「この人たちも関わっていたのか」と感慨深くなる。

 真珠湾攻撃前に森村正こと吉川猛夫が入り浸って真珠湾に出入りする艦船を監視したという春潮楼の建物も外から少しだけ見学。今は「夏の家」という店になり、中で食事をするには団体での予約が必要らしい。

f:id:taiyosfc:20160307094205j:image

 吉川については、昨年、以下の本が出ている。これは前に本人が書いた回顧録を整理し直したものだ。

吉川猛夫『私は真珠湾のスパイだった』毎日ワンズ、2015年。

 他にもいくつかまわって、昼食は中華街香港粥麺家へ。ここは阿川家御用達で、阿川佐和子さんの本の中でも紹介されていたと思う。つけ麺(つゆを撮り忘れた)とダック。

f:id:taiyosfc:20160307121427j:image

f:id:taiyosfc:20160307121430j:image

 プロジェクト関連の訪問とミーティングをこなして、イースト・ウエスト・センターも再訪。プロジェクトのメンバーのデニー・ロイさんたちと打ち合わせ。

f:id:taiyosfc:20160308104347j:image

 最後の夕食は、一緒に行った同僚の西野純也さんとベトナム料理のフォーをいただく。

f:id:taiyosfc:20160310164555j:image

 こうしてみると食べてばかりだが、オフレコでいろいろ意見を聞き、滅多に行けない場所にも行くことができたので、慌ただしいが充実した出張だった。なかなかお目にかかれなかった新しい総領事にもお目にかかれて良かった。