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コミック「センネン画報その2」今日マチ子

コミックのような体裁をとりながら、単ページで終わる一篇の詩のような作品群です。今回ついにフルカラー化しました! 定価も据え置きの1200円! やっとこさオリジナルの感動に近づいた印象です。帯に作詞家の松本隆が「生きる痛みも喜びも 青い絵の具のフィルター越しに 全部透けて見える」というコピーを寄せています。さすがに総括されていて、1巻に比べて、色が語りかけてくるその情報量は圧倒的です。


ストーリーもさらに一歩踏み込んで、セリフが減り、より抽象的に、青春独特の時間や空間を切り取っています。その結果、1つ1つの話よりも、本としてのまとまり感や重みがしっかりと感じられます。ヒトコマヒトコマを大事に読むよりは、1ページ1秒ぐらいでパラパラめくっていくと、各ページで反復されるコマ割りがリズムトラックのように感じられて、大きなうねりを生んでいきます。かなりの頻度で出てくるブルーのフィルターのような表現もそういうカメラで切り取ったように統一感があります。それが気持ちよくて、ページをめくるスピードが前向きな意味合いでさらに加速していきます。


そうしたアップテンポ感の中で終盤突然現れる書下ろしのコミックは、かなりしっかりとしたストーリー漫画で、そのコントラストも非常に鮮やかです。セリフも各コマに出てくるために、ページをめくるスピードに急ブレーキが掛かり、受け取る情報の量や質も変わってきます。つまり、前半のセリフのなさや、反復されるコマ割りがただの気持ちよさや雰囲気だけではない戦略的なものであるのだと言う構成です。


心象日記という形を取って日々連載されているこの作品群ですが、内情の吐露だけでなく、そういう一階層レイヤーが上がった形で自我に対してメタ的に再構成されている本作で、僕は、彼女の女性性に加えて、男性的な構成論をしっかり持った人なんだな、と膝を打ちました。似た世界観を持ちまだデビューできずにいる、あるいはしたばっかりのフォロワーたちをぐっと引き離した気がします。


この後も新作タイトルが目白押しのようで、あまりの忙しさに「狂マチ子になりそうなスケジュール」とまで言っている彼女ですが、雰囲気だけの作家じゃないことはもう十分に知らしめた傑作になったと思います。体だけはホント大事にしていただきたいです。