日本でもkindleやiBooksが始まり、電子書籍元年と言われています。ニコニコ漫画やとなりのヤングジャンプwebで読める漫画サービスも増え、PCやタブレットやスマートフォンなどいろんなデバイスでいろんな表現の漫画が読めるようになってきたと思います。
そうした中で最近は「全巻無料」を謳ったアプリ形式のコミックがいくつかあります。二次利用を開放した「ブラックジャックによろしく」は大きな話題になり、著作権ではない副収入で1億を超えたといいます。無償化する前にすでに超有名作品の例なので他の新規作家がそのままトレースしたところでどうにもなるものでもないのですが。
作家の立場から言えば、創作物というのは売上も大事ですが、まず「たくさんの人に届いて気に入ってもらうこと」が一番の目的と考える人も多いです。その結果として「より気に入ってくれた人からお金も手に入るなら健全かも？」という選択肢はあっていいと思います。そういう作家と読者のお互いのニーズがあって、まだ売れてない作家が「全巻無料」形式のアプリを出すことが増えてきました。
↑このリンクは書籍版です。
前置きが長くなりましたが「ハナムラさんじゅっさい」はその全巻無料アプリのひとつです。iPhoneやiPadで読むことができます。バナー広告はありますが漫画を読んでいるときには表示されず、ページ数などを表示させるモードに入った時のみ、小さく表示されると言った親切設計です。元々イラスト投稿サイトPixivで個人的に公開していたものを、連載化し、まとめたもので、全5巻ものボリュームがあります。
まもなく30歳を迎えようとする売れない漫画家ハナムラが、美人編集と出会って、うっすら恋をしつつ奮闘する話です。特徴として、すべて鉛筆で書かれています。しかし読みやすい！ アニメーターの原画を見ているみたいな、完成をイメージできるきっちりした絵です。またよくある自伝的エッセイの形を取りながら、表現や自虐があっさりさっぱりしてます。ここが一番良いポイントなんじゃないかな。自分のことをネタにしたモラトリアムモノなのにうざくない！ むしろ爽やかです。自伝的であるがゆえにはっきりしたオチもないんですけど。5巻は飽きる暇もなく食い足りなくもない、ちょうどいいボリュームでした。毎巻読み終えるごとに「書籍版もあるからよかったら買ってね」的な広告が出ますが、全巻無料で出し惜しみなく読ませてくれているので特に嫌な気持ちにはなりません。僕は買いませんでしたけど、この人の名前や作家性みたいなものは記憶したし、どこかで次回作を目にしたらきっと気にするだろうなと思います。そういう信頼が積もっていってお金のやり取りが発生するって悪くない関係なんじゃないかな。
マイナスな点。あるとすれば女の子のキャラクターデザインがやや古い？ あと表紙などのカラー原稿が鉛筆画に比べてそれほど上手くない。あとタイトルが文字だけ読んでもなんだかよくわからない。（表紙が全巻美人編集推しなので、この人がハナムラ？ アラサー女子の話？って思う）、ぐらいかな。それでも漫画の内容自体は勢いもテクニックもあってすばらしかったです。学生よりかは30歳以上の人にオススメです。爽やかめの「モテキ」っぽいかも？ いつかのモラトリアムを思い出す感じで。
