『1Q84』について、続き

http://d.hatena.ne.jp/takanofumio/20120806 の続き。

村上 「100パーセントの女の子」という短い短編小説を覚えてますか?

―覚えてますよ。「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」(一九八一、『カンガルー日和』所収)。

村上 あれ、なんだか世界的に人気があるみたいです。外国の大学で教材にしているというのを何度も聞いているし、映画科の学生が世界各国でもう七、八本映画にしています。申し込みが多すぎて、今のところ打ち止めにしているくらいです。学生の撮る自主映画だから公開されたりはしないんだけれども、僕も四本ぐらい見たかな。どれもけっこうおもしろい。この話のいったいどこが、これほどみんなを刺激するんだろう、この短い話をすごく大きく膨らませたら、いったいどんな話になるんだろうというようなことを、前からちょくちょく考えてはいたんです。

  • ・大したことではありませんがこのインタヴューに誤植。

最初は『1985』という題の小説を書こうと思っていたんです。『1984』の翌年の話を、ジョージ・オーウェルとはぜんぜん違ったものとして書きたいと思っていた。
「イル・ポスティーノ」のマイケル・ラドフォード監督は、ジョン・ハード主演で「1984」という映画をつくっています。彼が日本に来たときに、青山の鮨屋で二人で食事をして、『1985』という小説を書こうと思っているんだと言ったら、「ハルキ、それはちょっとまずい。アントニー・バージェスがすでに書いている」(笑)。……

ハードじゃなくてジョン・ハートだ。


1Q84』とは直接関係ないんだけど、前掲書から書店員として興味ぶかい話。

アメリカの出版界というのは、日本以上にシステマティックに動いていますね。海外版権の担当をしていたときに、欧米の出版界のシステムを見て、同じ出版界でもずいぶん違うものだと思いました。
 これから出る本の出版社のカタログも、少なくとも年に二回、あるいはシーズンごとにつくられている。このカタログはまずは書店向けの情報という役割を担っている。アメリカの出版界には再販制度がありませんし、書店は原則として返品ができませんから、これからどんな本が出るのかという情報を書店自身が必死に探らなければならない。出版社もほとんどの場合、書店からダイレクトに注文をとって本を納品しますから、どれだけ本を仕入れてもらえるかという生命線がカタログという初期情報なんですね。書店はそれ以外にも、ブックフェアで手に入る見本を早めに手に入れてよく読んでいます。出版社の営業担当も本の内容を頭に入れて、全国の書店に営業をかける。出版社も書店も「座して待つ」なんてことはあり得ないわけです。カタログは同時に、四月に開かれるロンドン・ブックフェアとフランクフルト・ブックフェアに合わせて、海外に版権を売り込むための情報源にもなる。
 カタログはおおむね作品ごとに一ページずつで、本と作家の紹介とあわせて、初版の部数、広告キャンペーンはこのように展開するとか、全米何都市でオーサー・ツアーをやる予定である、などといったパブリシティに関する情報がセットで載っています。オーサー・ツアーは地方都市での朗読会とか、サイン会とか、地方紙のインタビューやラジオのローカル局に出演するとか、つまり作家みずからの営業活動ですね。フランクフルト・ブックフェアに行くと、作家の講演会とか、出版社主催のパーティにも作家がよく現れます。
 僕が初めてジョン・アーヴィングに挨拶したのもフランクフルトのホテルで行われたスイスの出版社ディオゲネスのパーティでした。アーヴィングがこんなパーティに出てくるんだとびっくりしました。アーヴィングがつぎつぎと大勢の相手をしているのを見て、これを繰り返すのは大変だな、でも欧米の作家にとっては当たり前なのかなと思いました。……


インタヴュアーの松家仁之さんは『1Q84』はBOOK3で終わりではなく4、5と続くはずだと思ってるみたいだけどどうなんでしょう。広げた風呂敷はたたんでほしいという意味で私もそう願っておりますが。

*1:柴田元幸訳はまだ読んでいないので…