書評:『φは壊れたね』森博嗣/講談社文庫

森博嗣の文庫新刊。

φは壊れたね (講談社文庫)

φは壊れたね (講談社文庫)

初めて森博嗣の作品を読んだ。だって小説モードにスイッチが入り、「何を読もうかなー」と本屋を物色していたところオビに『もしもこれまでの人生、一冊の森博嗣も読んでいなかったら。』なんて書かれているんだもの。読んでなかったら何だって言うのよ、と。

その死体は、Yの字に吊られていた。背中に作りものの翼をつけて。部屋は密室状態。さらに死体発見の一部始終が、ビデオで録画されていた。タイトルは「φは壊れたね」。これは挑戦なのか?N大のスーパー大学院生、西之園萌絵が、山吹ら学生たちと、事件解明に挑む。Gシリーズ、待望の文庫版スタート!

シリーズものかい!と思い、ちょっと躊躇したもののまぁいいか、と。面白ければ続けて読む楽しみができるし、面白くなければ続けて読まなければ良いだけの話。結局どうだったのかと言えば、なかなか面白かった。ちょっと理系な赤川次郎というか、工学部助教授という立場で作家活動をしてきた(現在は退職)著者ならではの綿密に練られたプロットと、コミカルな?会話により進行するストーリー展開は読んでいて世界に引き込まれる。
真保裕一高嶋哲夫と、久々の小説としてサスペンスものを読み重ねて来たところに唐突に森博嗣を読み始めると、最初はその軽い進行?をなかなかスムーズに受け入れることができなかったが、その世界観に一度入ってしまえば、あとはグイグイと引きつけられる。
Gシリーズ第1作とはいえ、主人公?の西之園萌絵は著者のメインシリーズともいえるS&Mシリーズの主役でもあり、主要な登場人物はその世界観を受け継いでいる。なぜ西之園萌絵はお金持ちなのかなどはシリーズ読者には当たり前のことなのか、本書ではいっさいの説明やバックグラウンドの説明はないが、まぁそれはそういうものとして受け入れるべきなのだろう。
それにしても、小説を読むとリアルとは違う世界を楽しむことができるので、気分転換に適しているということを改めて感じている。やはり新書や技術本では、あくまでも現実の延長線にあるだけに意識の切り替えにはつながらないが、小説は読むことによって、ストーリーを楽しみ、現実とはつながりのない世界で遊ぶことができる。やっぱりある程度は小説も読むべきですね。