IP-SAN (1) - Fiber? Ethernet?

Fiber Channelを用いたSANがある程度普及しているため、すぐに主流がIP-SANに変わる、ということはないでしょう。今後も当面は両方の構成が使用され続けるはずです。その結論の見えない過渡期において、どの方式を選択するべきなのか。特にIP-SANはiSCSI,FCIPをはじめとして様々な規格が標準化されている状況です。
そんなIP-SANのいくつかある方式の中で、まず市場で受け入れられたのがiSCSIでしょう。IP-SANのいくつかある方式の内で「最もTCP/IPに対する依存度が高い」方式です。Fiber Channelが担っていたレイヤーをごっそりとiSCSIに置き換えてしまうことでSCSIによるストレージブロックアクセス通信を構成しています。誤解を恐れず言えばiSCSIは最もIP-SANらしい規格といっていいでしょう。iSCSIのメリットはなんといっても通常のEthernetスイッチやNICをそのままストレージアクセス用とに使用することができるという点です。TCP/IP以下のフレームとしては通常のEthernetフレームの規格を完全にそのまま使用しているため、ネットワーク通信用として廉価に入手できるスイッチ、NICを用いて安価にストレージネットワークを構成できるという点がユーザに受け入れられた大きな理由といっていいかと思います。近年ではiSCSIは単なるコストメリットだけではなく、iSCSIという規格が持つ柔軟性(ストレージアクセス経路のリダイレクトによる経路分散など)やDRなどとの相性の良さなどもiSCSIを選択することの理由の1つとなってきてはいますが、とはいえ、現時点においてもコスト面の優位性はiSCSIを選択する大きな理由となっていることは明らかです。
対してIP-SANにおけるiSCSIの対抗馬はFCIPでしょうか。FCIPはIP-SANといってもiSCSIとはまったく考え方の異なる方式です。ある意味で、真逆と言ってしまってもいいかもしれません。iSCSITCP/IPの仕組みを最大限活用することを目指しているのに対して、FCIPはいわば通信経路として使用する規格をFiber Channelだけの世界からEthernetにまで広げることを目指しているとでもいえるでしょうか。TCP/IPフレームより上位は完全にFC-SANの規格をそのままで使用しており、既存のFC-SANを拡張する形でFCIPを用いることができます。SANの課題ともいえる遠隔通信を実現するための方式と言ってしまってもいいのかもしれません。ゆえに、FCIP最大のメリットは構築されているFC-SANの資産をそのまま活かしてIP-SANに対応していくことができる点にあるといえるでしょう。しかし、そうした形でFiber Channelの資産をそのまま使うことを優先したために、FCIPではフレームのサイズや名前解決方法などにおいて通常のEthernetフレームとは異なる対応が必要になっています。特にフレームサイズが1500バイトを超える点は、使用経路上にある全てのEthernetスイッチがそうしたフレームの通信に対応する必要があります。
Ethernetがネットワーク通信の標準になったときと同じように、ストレージ通信もそこまで急速に標準化が進んでいくのか、それは必ずしもそうではないと思います。全てのデバイスが接続されていることに非常に高い価値があるネットワーク通信に対して、ストレージ通信は当該のストレージを使用するデバイスさえ接続できていればかまわないという分離性があります。
FC-SAN、IP-SANいずれも通信速度が継続的に引き上げられていますが、10Gbpsの普及に伴ってiSCSIやFCIPなどといったIP-SANが今後も市場を拡大していくという傾向は当面続くのではないかと思います。
次回は"NAS? IPSAN?"といった突っ込まれどころ満載?のようなタイトルで書きたいと思います。